君の光と僕の影 | ナノ

#23 触影



「ふふっ!お返し!」


そういって笑った#name#に、正直胸が詰まった。いつも端からみていたあの笑顔が、マルコでなく俺に向けられたという事実に先日から狂いっぱなしの調子が更にどうかなりそうだった。


つい、してしまった口付けは
本当はイタズラなんかではない。
エースやサッチと居る#name#を見て不甲斐なく嫉妬した確信犯の行為だ。


――――欲しい。


シャワーのコックを捻りながら、ただ漠然と初めて#name#を無理に組み敷いた日を思い出す。


「最低っ!」


そう吐き捨てた#name#に
「よく言われるよい」
そう笑った俺は、実際、あの日確かに
胸がチクリと痛んだ事を見ない振りでやり過ごしてきた。



「ミイラ採りがミイラにってやつかい」


自分を嘲笑って頭から流水を被り、冷静さを欲する。
けれど、鏡に映る俺は情けない顔をして、まるで冷静さの欠片も見えない。



「マルコ…。」



自分を見れば嫌でも思い出す、最愛の兄。
#name#が俺を見る目の中に、マルコはいつも居るだろうか。
さっきのあの笑顔にも、理由の一部としてマルコは存在しただろうか。



「惚れてんだい。――とっくによい。」



適当に洗った体を流して、水音の消えた浴室にため息だけが響いた。





―――――

――――――――


「クロ、やけに長かったね?お湯はったの?」


食卓にすっかり用意を終えた皿の数々が並んでいて、#name#がコップを配置しながら笑って言う。



そんな顔、すんじゃねぇよい。
抱きたく、なんだろい。



「クロ?」

「いちいちうるせぇない。いつもと大して変わんねえよい。…それより、腹減った。早く、飯。」


「はいはい!もう出来てるから座って!」


いつも通りに飯を食って、
エースやサッチの話を笑って、
適当にやり過ごして、
寝ればおさまるだろうと
#name#の顔を見ない様にした。



「クロ!私お風呂行くから、そこで寝ちゃ駄目だよ?今日はマルコ居ないから、部屋に引きずって行く人居ませんからね?!」

「あぁ、よい。うるせぇから早く行けよい。それとも一緒に入ろうかい?」


「なっ?!ばっ、バカ!!変態クロ!」



リビングでソファに横たわって寛ぐ俺に、悪戯っぽく舌を出して#name#が風呂に消える。
風呂上がりの#name#に耐えられない気がして、部屋へ行こうと体を起こす。



♪♪♪♪



携帯が鳴って、舌打ちしてから液晶を見るとサッチから珍しく電話だった。仕事の急用かと思い、携帯を耳に押し当てる。



「あー、クロ?」
「あぁ、なんだい急に。」
「いやちょっと明日の納車で確認しときてぇ件があってよ。」
「そうかい。――――――」



ひとしきり仕事の話をして、電話を切ろうとした時、小さく笑ってサッチが言った。


「我慢できんの?クロ。」

「は?」

「#name#ちゃんと2人で、抱きたくなんねえのかって。」

「……バカかい。」

「俺はよ、マルコのダチで、クロのお兄さんだからな?」

「サッチお前頭噴いたのかい?」

「うははっ!ひっでぇなぁ。…いいかクロ。お前、マルコの為に我慢し過ぎ。本当に愛してんなら、嘘だけはつくな?恋愛上手なサッチ兄さんからの忠告だぞ。」

「なっ?おいっ!…切りやがった。」



忠告というよりお節介だろい。
頭を掻いて、気楽すぎる発言にため息をついて立ち上がった。
リビングのドアを開けた時、胸の中に#name#が飛び込んできて頭が真っ白になって固まる。


「うわぁ!?ク、クロっごめん、」


鉢合わせた#name#は石鹸の甘い香りがして、見上げた顔はお湯のせいで赤い。


「え…?…クロ?」



抱きしめた#name#はいつかの様に、俺を怖がり、拒絶するかもしれない。
最低だと、吐き捨てるかもしれない。



チクリと胸が痛むのに、腕を解いてはやれなかった。
欲しい。
こいつが、欲しい。



頬に充てた手を伝って、#name#の熱が俺の鼓動を速くする。
口付けを躊躇う余裕もなくなって、断りもなく唇に噛みついた。


「ん?!んんンっ?!」


慌てふためく#name#をしっかり抱き締めて自分勝手な事をしていると思う。
#name#はマルコのモノ。
だから、余計に今が俺から理性を剥いだ。


「悪い…も、止まらねえよい…」



言い訳だろう。
頭では解ってんだい。
だけどよい、#name#。
もう、限界だったんだよい。



「クロっ、ンッ、や、めっ…」



「マルコだと、思えよい…。それで、構わねえから。」



サッチ。
やっぱりどうしても、嘘、ついちまう。
俺は、救いようがねえらしいよい。



目を見開いた#name#を抱き上げて、
余裕の無い表情のまま、
俺の部屋のドアを片手で開いた。

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