君の光と僕の影 | ナノ
#22 触光
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玄関に立ち尽くしたまま呆然として、ひどく頭がよく働いた。
「何すんのよバカッ!!」そう言うべきだったんだと思う。
クロの鳩尾辺りをパンチして、笑いに変えて、「ご飯作るから大人しくしててよ?」そうやって、何事も無かった事を主張しなくちゃ…と思った。
思ったけど、
解ってるんだけど、
どうしてか、出来ないんだ。
「ンな、怒んない。減るもんじゃねぇだろうよい。」
胸が、締め付けられるように…痛い。
「…#name#?」
不機嫌そうな顔に、少しだけ疑問の色を滲ませてリビングに続く廊下にクロが立ち尽くしている。
目を合わせると、僅かに表情を和らげて、クロは大きな手を差し出した。
「ホラ。入れよい。」
靴を脱いで、引き寄せられるようにクロの手をとった時、頭の片隅でマルコを思い出して泣きたくなった。
「クロの…ばか。」
「ハッ!そりゃあどうもだよい。」
私の頭をグシャグシャに撫で回して、クロがホッとしたように笑うから
気づいて、しまったんだ。
「ご飯、作るから大人しくしててよ?」
「フン、餓鬼かい俺は。」
「似たようなもんでしょ。」
「へーへー。うるせぇから風呂入ってくるかねい。」
マルコに似てるからじゃなく、
マルコを守ってくれるからじゃなく、
「今日はパスタにしよっかなー。」
「俺はミートソースはヤだよい。」
「ぇ゛。」
「カルボナーラだろい、やっぱ」
「本当に、兄弟なのに全然違うんだから」
「当然だろうよい、アホ女!」
クロにしかない優しさを
「目玉焼き付けてやる!」
「あぁ゛?!絶対食わねえっ!!」
いつの間にか、
愛していたんだ。ってことに。
「ぷっ」
「ククッ」
「「アハハハハハ!」」
悪戯っぽく私の額を軽く弾いたクロに
私は、そう確信せざるを得なかった。
「クロ。」
「あん?」
「ちょっと屈んで?」
「はぁ?」
「いいから!」
マルコと違う、漆黒の髪をこれでもかと撫で回して笑った。
「ふふっ…お返し!」
逃げるようにリビングへ入ったから、
気付かなかったんだ。
クロが、泣きそうな顔して
笑ったことに。
「…かわいいこと、すんじゃねぇよい。」
そう呟いて、俯いた事にも。