君の光と僕の影 | ナノ
#21 惑光
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「サッチ、てめぇ何もなかっただろうねい?」
ただいまもそこそこに、クロがまず口にしたのはサッチへの確認だった。
今にも殴りかからんというオーラを撒き散らしながら、眉間に皺を寄せている。
「なっ、何にもねぇよ!!楽しくお茶しただけだよなー?#name#ちゃん。」
ニヤニヤしながら私を見るからクロが怒るんだと思うよ、サッチ。と教えてあげたかったけど、ここは一つ黙って頷いておいた。
「本当、クロは#name#ばっかだな!行き帰りもソワソワしててさー。マジでウケ…ぐぇっ?!」
「エース、お前黙れよい。」
後ろからエースの首に腕を回してニヤリと笑うクロは第三者が見ても恐ろしいと感じる。けれど、子供っぽくて何だか笑ってしまった。
「ふふっ。クロ小学生っぽいよ。」
「うるせぇよい!バカ女。俺が心配してんだから有り難く思え!!」
「「「心配してたんだ。やっぱり。」」」
「なっ?!う、うるせぇよい!」
顔を赤くして慌てるクロなんて初めてみたなーと思っていたら、クロに頭を小突かれた。
「ニヤニヤしてんない。帰るよい。」
「は?クロ珍しく早帰りかよ?」
エースが元々大きな目を更に見開いて、時計とクロを何度も見比べる。そのエースを肘でつついてサッチが笑った。
「エース!野望だってんだよ、このバカ」
「あ?…あ。……ヒヒッ!だなっ。さすがサッチ。」
「え、なになに?何なのこの空気感。」
「「まぁ、まぁ、まぁ」」
妙な連携の二人に背中をグイグイ押されてクロと帰るように促される。クロを追い越して入り口に向かう途中サッチが離脱したので振り返ると、クロに何かを耳打ちして思い切り蹴られていた。
明日も明後日も工場に来ると言ったら、サッチも顔を出すと言ってくれて、エースはお昼が楽しみだと喜んでいた。私も、二人に会えるのが嬉しい。
クロの凶器…じゃなかったバイクに跨がってメットを付けて絶叫しながら帰る。
やはり、これだけは…苦手だ。
「おら、着いたよい!!ったく汚ねぇ女だねい。鼻水でてるよいバカ。」
カバンからティッシュを取り出して涙やら何やらの色々を拭きながらヨロヨロと歩きクロの後を追うようにマンションに入る。
「ちょっと、スタスタ行かないでよー。」
追い付いた頃にはクロが玄関のカギを開けて中に入る瞬間で「おめぇが遅いんだよい!!」と言いながらさっさと中に入って行く。
クロめ…目玉焼き出してやろうか…。
「ただぁいまー。」
いつも通りに玄関を開けて家に入り、いつも通りにドアがパタンと閉まった。
「んっ?!んんっ!?ふぁっ…」
だけど、普段と違うクロが、
私を抱きしめて
深く深く口付けた。
数分続いて私の唇をペロリと舐めた後、体を離したクロに呆然とした。
怖いとか
嫌だとか
驚きとか
そういうものすら、忘れた。
「ククッ。隙あり、だよい。」
ニヤリと笑って部屋に入って行くクロを見て、最初に湧いた感情は戸惑い。
しかも、クロにではなく
私は私自身に戸惑いを感じた。