君の光と僕の影 | ナノ

#20 知光



「で?今日納品日じゃなかったかクロ?」

涙目を擦りながら、サッチさんがクロにそう問いかける


「あぁ、五時に先方へ納車だよい。」


工場の隅に置かれた車を見ながらクロが面倒そうに答えた。いや、多分今までの生い立ちを考えれば、修理は好きだけれど接客は苦手なんだろう。そう思った。


「じゃあ、俺、留守番しといてやるからちゃちゃーっと済ませて来いよ。さすがに#name#ちゃん連れては行けねぇだろ?」


ハァーと、ため息をついてクロが私をチラッと見る。多分、私を残す事に不満を感じているんだろう。なにせ今日一日中、過保護過ぎるくらいにベッタリ一緒なのだから。クロの意図は見えないけれど、今この瞬間は間違いなく、そう思っているとわかる。


「ちゃんと待ってるから、行ってきて?」

背中を押すつもりで笑いかけると、また、クロの眉間に皺が寄った。視線は私を通り抜けサッチさんを捕らえる。


「余計な事すんなよい、サッチ。」


「わーってるって!今はカノジョ居るから大・丈・夫☆」


へらりとウィンクしてみせるサッチさんはよほど女好きらしい。クロが警戒するのも無理はなさそうだ。



―――――

――――――


「じゃあ、行ってくるからよい。何かされたらすぐ携帯鳴らせよい。」


「うん。…わかった。」


「だぁーからっっ!!しねぇって!流石に泣くよ?俺だって。」


顔を両手で覆って泣き真似するサッチさんを完全にスルーして、クロがエースを連れて運搬車に乗り込んだ。
全く、仲がいいのか何なのか。
思わず苦笑いしながら見送った。



車がすっかり見えなくなって踵を返すと、そこには嬉しそうに笑うサッチさん。
…本当に大丈夫か不安になってきた。



「そんな警戒すんなって!本当に何もしねぇから。…それよりさ、今しか話せない事もあんだろ?中戻って休憩しような?」


ポンポンと私の頭を撫でてニッとサッチさんが笑った。
今しか話せない事…。
それが私とマルコとクロを指すんだと何となく思って、ゆっくり頷いた。


「へぇ、一年経ってねぇんだマルコと?」


婚約した事を詳しく説明すると、サッチさんは私達の出会いからのスピード展開振りに目をまるくしていた。


「まぁ、色々あったからもう何年も一緒に居るような気がするんですけどね。」


本当に色々と問題が起きたから、クロとマルコとは絆が深い分時間の流れを濃密に感じる。すると、サッチさんがフッと笑う。

「マルコはさ、昔っからあんな感じで飄々としてんだ。何があっても動じねぇし、いつもマルコ。」


あぁ、わかる気がする。マルコは、いつもマルコのまま。優しくて温かい。


「クロの奴は、ちと違うんだよな。」


「え?」


思わず、サッチさんを見上げた。
顎髭を触りながら、少し遠い目をしてサッチさんが続ける。


「あいつらの親父さんの件があってから暫くは、どっちかってーとマルコがクロを守ってやる感じだったんだよ。やっぱ兄貴だしな?」



意外だった。
意外過ぎて、相槌をうつのを忘れた。
同時に、やっぱりクロはずっと無理をしてたんだと分かってどこかでホッとした。



「マルコが高校くらいかなぁ?…心底惚れた奴にさ、親父さんが理由でガッツリ裏切られて逃げられたんだよな。それまでもまぁ、似たような事はあったんだけどマルコは平気でさ、だから今回も大丈夫だろーと思ってたら…違ったんだよ。」



“もう、疲れたよい。”



マルコはたった一度だけ、サッチさんにそうこぼしたらしい。
今にも、消えてしまいそうな弱々しさで。


「で、実はそれをクロにも聞かれちゃったんだな。」


「…それで、クロが変わった?」


「そ。手始めにその女にキッチリ御礼して、マルコの周りを離れなくなった。意識的に悪いとされる事は全部クロが引き受けてた感じだなー。」


「マルコは…?止めなかったの?」


コーヒーを啜りながらサッチさんは首を振った。少し、顔をしかめて。


「気付いてねぇよ、マルコは。」


「…そっか。」



俯いて考えていると、急にサッチさんが「んーっっ!!」と伸びをして、またポンポンと私の頭を撫でる。



「昔の話。だと思うぜ?」


「…え?」



「あいつらは、#name#ちゃんと居て幸せなんだろな。クロ見りゃ分かる。アイツ、本当はマルコより優しいんだぜ?何か昔のクロを久々に見ちゃった感じよ。」


パチンとウィンクしてから、サッチさんはそっと手を離した。



「あいつ等を宜しく頼むな、#name#ちゃん。…で、困ったら俺に相談してくれよ?お兄さん#name#ちゃんのためなら、夜中でも駆けつけちゃう。」



「うん…ありがと、サッチさん。」



「うはは!サッチ。でいいって!で、コレ俺の連絡先。#name#ちゃんのはいいよ、掛かってきたらピンとくるし。」


“ナンパじゃねぇしな?”
そう言って笑いながら、サッチさんが差し出した名刺を私は両手で受け取った。



「サッチ、実は男前?」



「えぇー?!今更っ!!!」



悲しむサッチさんを笑いながら、心強い味方の登場と2人の新たな一面を知った喜びに、胸が少し熱かった。



マルコとクロ。

私はきっと、2人とも大事だと思ってる。
2人とも大事。

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -