君の光と僕の影 | ナノ

#18 笑光



“今日の弁当は、いつもより多めに作れよい”

クロが家でそう言った理由がやっと理解出来た。

「何だこれ?!すっげーうまいんだけど!!!#name#さん天才?!クロとマルコ、毎日こんなに美味い飯ばっか食ってんのかよ?」


お昼に用意したお弁当は全部で5箱。そのうち3箱をエースが一人でがっついていて、その食欲に本当に圧倒されてしまった。そして、いつもはこんな褒められる事がないせいもあってスゴく嬉しい。


「本当に??嬉しいなぁエースは優しいんだねっ。こんなに喜んでくれるなら毎日クロにエースの分も持ってってもらおうか?」

「バカ言えよい。調子にのってうちにまで来たらめんどくせぇよい。」


たいそう不機嫌そうにそう言って、クロが箸の先端をエースに向けてこいつには遠慮ってもんがねえんだい。なんてブツブツと零している。残念そうなエースと不機嫌そうなクロが可笑しくてつい、吹き出してしまう。少なからずここにくる時はエースの分お弁当はも持って来てあげようとコッソリ決意する。きっとクロは怒るんだろうけれど、そのやりとりさえ楽しい気がした。


「そうそう、不思議に思ってるんだけど社長さんとか、居ないって本当に?一応会社なんだよねクロ?」

朝から疑問だった事をふと思い出して、クロとエースに問いかけるようにそれぞれの顔をみて聞いてみる。ソコソコ大きいこの工場は、個人でやるにしても、経営者位は居ないと不自然だという気がしているのだ。

「あ?なんだよクロ。何にも教えてねえの?#name#さんに。」

今更?という顔をして、エースがクロにそう言う。クロは小さくため息をついて、私の顔をチラリと見た。ペットボトルの水を一口飲んで、怠そうに口を開いた。

「共同経営ってやつでよい、まあ、片割れは他に店やってるからあんまり居ねえんだい。実質は俺が任されてるような感じだよい。」


クロが経営者?何ともミスマッチなそれに、少し口元が緩んでしまって、クロに軽く頭を叩かれた。

「イッタァー・クロ、そうやって苛めるんならマルコが帰ってきたら全部いうからねっ?!」


「うっせぇよい!おめぇが失礼すぎんだろうがよいっ!!」

腹を抱えて笑うエースと、はたいた私の頭にさりげなく手を添えるクロと。
昼休みはあっという間に過ぎて、残るかもしれないと不安だっお弁当も綺麗に空っぽになった。
クロの世界。
その中に私が居て、それが許されている不思議。
大きなつなぎの後ろ姿を眺めながら、胸の真ん中がじわっと温かくなるのを感じた。







15時近くになって、お茶でも淹れようとクロに声を掛ければ「カフェオレがいいよい」といつもの調子で返ってくる。意外な事にエースがブラックコーヒーを飲みたがったので、やはり近くのカフェでテイクアウトすることにして財布を持って出かけた。クロも一緒に出掛けようとしたので、諌めるのに少し手間取りはしたけれど。


「あっれぇー?なになに?新しいエースの彼女かよ?」

敷地内を出る直前に、急に男の人の声がしてものすごくキョロキョロしてしまった。
アハハハと笑い声がして、こっちこっち!と声のする方を振り返ると時代遅れのリーゼントが大型バイクに跨ってヒラヒラと手を降っていた。
いわゆるナナハンに乗っているにもかかわらず、バイクがそれなりの大きさに見えるのはこの男の人が大きいせいだろう。エースの名前を口にすることから部外者では無いらしい。


「あの…失礼ですけど…?」


「あぁー!俺?っふふ。俺、サッチってんだ。」

へラリと笑うこの人に曖昧な笑顔を返して、頭を下げてからカフェに急いだ。
シラナイヒトと話していたらクロになんて言われるわからないし、
なんとなく、めんどくさそうな匂いがしたのもあった。

「多分、いや、絶対に女好きだわ、サッチってひと!!」


根拠の無い失礼なレベルの確信を胸に、クロとエース、そして自分の分の飲み物を手に#name#は再び作業場への道を引き返した。


「それにしても、一体なんだったんだろう…あのサッチて人。お客さんかな?」


そんなことを、ぼんやりと疑問に思いながら。

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