君の光と僕の影 | ナノ

#16 揺光



「なぁ、おい!聞いてんのかよい#name#!!」


居た堪れなくなて目を伏せていると、意識が違うことを考えてしまっていてクロに怒鳴られた。
慌てて顔をあげて、声を発そうとすると、大きなため息が一つ。


「聞く気がねえんなら、最初から振るんじゃねえよいバカ女!」

「ごめんっ、聞く気がなかった訳じゃなくて…あの、」

「聞く気があるんならなんでぼさっとしてんだよい!アホかお前は。」

「ちょっ、ヒドイ!!そんな言い方しなくてもイイでしょ!クロ意地悪!!」

プイとソッポを向いて不貞腐れて見せれば、また、クロがためいきをついた。
頭を白いタオルで巻いて、繋ぎ姿のクロにドキドキしてしまったなんて、口が裂けても
言うわけにいかない。………私にはマルコが、居るんだから。

「まぁいいよい、仕事の話なんていつでもしてやるしねい。さぁ、働いてくるからよい、お前はここで大人しくみとけよい。」

コツンと私の頭を軽く小突いて悪戯っぽくクロが笑う。
………また、胸が小さく跳ねた。
本当に、どうしよう。マルコが帰ってくるまでこんなにクロが近くに居たのでは
私の身体が持たないような気がしてしまう。


グァァオン!!!!


突如鳴り響く音に、心臓が止まるかと思うほど驚いて飛び上がる。
慌てて音のする方向を見れば、単車に跨ったクロがエンジンをかけたところで、
恐らく修理の依頼品であろうソレを真剣な眼差しで見て居た。
今まで、意地悪な顔や怒った顔、ふてくされた顔なんかばかりに見慣れていたものだから
真面目なクロの表情はとても精悍に映って、無意識にマルコと重ねてしまう。


「連れて来てもらって、良かったかもしれないな…」


知らず知らず、そんなとことを一人呟いた。






「メシーッ!!!!クロっ!腹減ったぁ!!」

昼になって丁度12時キッカリにエースが作業場に飛び込んできて、飯だめしだの大合唱を始める。可笑しくて笑っていると、キリが良かったのかクロがアタマのタオルを外して怠そうに私達の元へ歩いてきた。

「なあっ!クロ飯にしようぜ?!オレ超腹減った!!」

「あぁ、うるさいねい毎日。飯ぐらい一人で食えよい、エース。」

「何だよー!俺は#name#さんと食いたいのっ!!」

グイッとエースが私の腕を引いて引っ付きながらニッと笑うと、クロが怒鳴った。


「エースッ!!!そいつにさわんじゃねえよいっ!!!」

シンと作業場が静まり返って、私とエースはクロのあまりの剣幕に絶句してしまった。
誰が見てもエースは冗談だと思うし、私だって嫌がっていた訳じゃないのに。
一番驚いていたのはエースで、私の腕を掴んだまま固まっていた。

「ク、クロ?私、嫌じゃないし、寧ろエースに嫌われてないだけ光栄だと思ってるから。ね?そんなに怒鳴っちゃエースがビックリしちゃうよ?」

「チッ………!!」

ヒドくご機嫌ナナメな顔をして、クロが作業場から出て行く。慌てて声をかけた。


「クロっ!ドコ行くの?!」

「飯の前にトイレだよいっ!!お前残して出掛けるか、バカ女っ!!」

「なっ…?!言ってることと、表情が噛み合ってないわよ、バカ!」

スタスタ出ていくクロの背中にそう呟いて、ハッとした。
…腕にエースが引っ付いたままだった。
まだ、固まってるよこの子…。
そんなことを思って声をかけようとしたら、エースが急に真剣な表情で私を見た。

「なぁ、#name#さん。…クロはさ、アンタに惚れてんじゃねぇかな?」

「えっ?…何をいい出すのかとおもえば、それはないよ。きっとマルコの代わりに、私の面倒見てるってだけだよ、クロは。」

「んー、本当にそれだけじゃねえと思う。オレ、クロが女の事であんなにムキになるの初めて見たもん。仕事で怒鳴られるのと、何か違ったよな、今の。」


クロが、私を、スキ?
マルコの、婚約者だと判ってて?


エースの突然の爆弾発言に、今まで考えまいと遠ざけていた色々が一気に私の頭と心に流れ出し始めた。マルコとクロの過去を受け入れて、一番喜んで居たのがクロなんだってこと。
一番変わったのが、クロだって事。
そして、それを私もマルコもずっと望んでいて、だけど私はそれを知らないのだと思うようにしていたってこと。


ねぇ、マルコ。
本当に、どうしたらいいんだろう?この、2日間…………。
時計の針は、思う時ほど速くは進んでくれない。
まだ、一日の半分がやっと過ぎたところで、こんなにグラグラと心が揺れている。

「まだ、そんなところに2人でいんのかよい。ったく!ホラ、飯にいくよいっ!#name#、エースッ!!」

何時の間にか戻ったクロが怒ったように声をかけて来る。作業場から入り口の声にする方へ目を向ければクロが立っていて、「おー!今行くー!!」と、エースがクロの元へ向かった。
エースの視界からクロが外れた一瞬のこと、
クロが私の目を見て、優しく笑ったのだった。

"クロはさ、アンタに惚れてんじゃねぇかな?"

耳の奥で、エースがそう言って笑った。


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