君の光と僕の影 | ナノ

#15 変光



「おい、スカートなんて履いたらバイク乗れねぇだろい…」

「ぇ…あ、そうか。ってねぇクロ、私連れてったりして怒られない?」

「誰に?」

「誰って…上司とかに」

「ククッ、いねぇよいんなもん」

唐突に決まったクロとの外出に、何気に手に取ったのはお気に入りのワンピースだった。

そんな若干気合いの入った私に呆れ顔でダメ出しをされ、気恥ずかしさから咄嗟に疑問を口にして誤魔化せば何も問題ないと即答で返される。

上司がいない?それはクロがトップという意味なのだろうか?それとも初めから上下関係がない職場ということなのか?

そういえばクロやマルコの仕事について深く訊いた事がなかったなと、共に住んでいるというのに知らない事ばかりだと考えながら、新たにデニム姿に着替え終えあの不安定で仕方がない乗り物におずおずと跨がった。

「怖い怖いっ」

「あ?聞こえねぇよい」

「こーわーいーぃー!」

「ククッ、聞こえねぇ」

態としか思えない曲がり方をするクロに振り落とされそうになりながらも、必死にしがみ着き辿り着いたクロの職場。

乱れた髪とだらりと垂れる鼻水にうんざり顔で見渡した場所は、倉庫か工場的な雰囲気のまさしく整備工場だった。

「お!クロおはよー…って、え!?女っ!?誰!?」

「朝から煩ぇよい…。ほら#name#、メット」

「あ、はい」

「なあなあ!誰だよ!?」

「あー?#name#だよい」

到着するなり朝の挨拶に混じりあげられた奇声。クロよりも年下と思われる人懐っこそうな子が、私を捉えた瞬間驚きを隠せない表情で近寄ってくる。

そんな彼を鬱陶しそうにあしらい差し出してきた手にヘルメットを渡せば、既に目の前まで距離を縮めていた好奇心の塊に投げやりな感じで私の名を告げられた。

「#name#…#name#…あ!マルコの嫁さんか!?」

「…あぁ、そうだよい」

「嫁…あ、おはようございます」

「おはようございます。俺はエースよろしく」

「…、#name#ちょっと待ってろよい」

「っ、うん」

エースと名乗った彼にちらりと視線を向けた後、まるでいい子にしておけと言うように頭を撫で建物の中へと消えていくクロを見つめながら、あちらこちらから感じる視線に明らかに部外者の私は少し居心地の悪さを感じてしまう。

「あーっと、俺マルコとも仲良いんだぜ?それより、今日はまた何で…?」

「え?あ、えっと、マルコが出張でーー」

気を使うように話し掛けてくるエースくんにほこりと胸が暖かくなりながら、今日この場に現れた経緯を話せば成る程と頷きを見せるも少し不思議そうに首を傾げ出す。

「そうか。しかし驚きだな、あのクロがねぇ…」

「あのクロ?」

「ん?あぁ、俺さ、クロとは結構長い付き合いなんだけど、あいつが単車に女乗せるの初めて見たんだ」

「そうなの?」

「あぁ。前に強引に乗ろうとした子を蹴り上げたんだぜ?それに――」

それからいかにクロのバイクに乗るという事はありえないのだと力説するエースくんに若干押され気味に頷きを返していると、足早に此方へと向かってくるクロが目に入る。

「エース、#name#に変な事吹きこむなよい」

「吹きこんでねぇよ、いや…珍しいなと、思ってよ」

「…いいから、さっさと仕事しろよい」

「ヘイヘイ。じゃ、#name#また後でな」

「う、うん。お仕事頑張って」

ヒラヒラと手を振り去って行くエースくんに舌打ちをするクロを横目に、下手な事をばらされたくないのなら連れて来なければよかったのになどど思いながら、今日一日私はこの場所で何をすればいいのかと疑問を投げ掛けた。

「あ?別に何もしなくていいよい」

「はい?暇じゃない、私。だったら帰りたい」

「それは却下。そうだねい…取り敢えず――」

全く持って意図の読めない本日のクロの行動に口を尖らせる事数回、取り敢えず側に居ろと言われ半ば諦め気味に仕事振りを見学する羽目になった。

退屈な事にかわりないが、時間が経つに連れ一つ、二つとクロの新たな一面を垣間見る。

「クロこの仕事好きなんだね」

「あ?当たり前だろい」

「ふふ、楽しそうだもんね、なんか」

「あぁ。楽しいねい、俺は――」

仕事の事を話すクロはまるで少年のようなキラキラとした目をしていた。
そんなクロを見ていると、チリチリと僅かに燃えていた想いがまるで油を注いだように膨れ上がるのを感じていく。

警戒音が鳴り響く頭で意気揚々に仕事への熱意を語るクロを見つめながら、どうかマルコの居ない二日間が何事もなく過ぎますようにと、私は願うように瞳を閉じ視界からクロを遮断した。

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