君の光と僕の影 | ナノ
#14 不光
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それからやたらと意識してしまった私は、その日の晩御飯に何故か無意識にオムライスを作ってしまっていた。
「ん?今日はクロの好物じゃねぇかい、良かったな、クロ」
「ククッ、あぁ」
「……」
何も知らないマルコに僅かだが罪悪感が生まれた。そんな私に意味ありげな目線を寄こしてくるクロを小憎たらしく思いながらも淡々と食事を口に運ぶ。
そんな中まさかの可能性を想像しゾクリと悪寒が走った。この先クロには極力無感情で接しよう。そう一人胸の内で呟きながらマルコ達より一足早く席を立ちキッチンへと引っ込んだ。
「#name#ー?珈琲くれるかい?」
「俺、カフェオレ」
「…はーい」
まだ食事の済んでいないマルコ達がキッチンに向かって呼び掛けてくる。
いつもの光景に変わりないそんな一声も、一人を除き憂鬱な溜息を吐いてしまう要因に他ならない。
マルコの事は大好きだ。それでも数時間前に感じた胸の痺れがクロの一挙一動を見る度に瞬時に蘇ってしまう。
このトクリとなる心音は紛れもなく気付きたくない想いだという事もわかっている。
それだけは何としても避けたい。しかし本能をコントロールなんて果たして出来るのだろうかと、分かり切っている疑問が頭の中を飛び交っていた。
そうして三人分のカップを乗せたトレーを抱えリビングに向かえば、私の心に追い討ちを掛けるような言葉がマルコから告げられた。
「…え?明日から?」
「あぁ。言うの忘れてたよい、急だったからねい」
「い、や、ダメダメ!行っちゃダメ!」
「#name#…どうしたんだい?」
「わ、私も着いて行っていい?」
「ん?ん…そうだねい」
「ダメだろ、だいたい#name#がいっちまったら俺の飯はどうすんだよい」
唐突に告げられた二泊三日で出張に行くという言葉に、持っていたトレイをテーブルに放り出し詰め寄れば、驚きながらも私の要望を汲んでくれようとした瞬間、背後からすかさず飛んできた声にキッと睨むように振り返った。
「子供じゃないんだから、ご飯くらいどうにか出来るでしょ?」
「出来ねぇよい、めんどくせぇ」
「はぁ?めんどくさいだけじゃない」
「あ?」
「喧嘩すんなよい…#name#、今回は我慢しろい」
「そ、そんな…」
「ふん」
クロの言葉をすんなりと受け入れたマルコに悲痛な眼差しを向けるも、駄々を捏ねる子供をあやすようにあしらわれてしまう。
二泊もクロと二人きりだなんてとんでもない。ただでさえ不安定な爆弾を胸に抱えているというのに、この悪魔のような所業に私は沸々と嫌な予感が迫りくるのを感じていた。
そうして翌朝、私の心中察することないマルコは爽やかな笑顔で扉の向こうに消えていく。
カチャリと閉まる扉を恨めしそうに見つめながら、今日から二日間どう遣り過ごすかを思案し頭を捻った。
「あぁ…首痛ぇ」
「お、おはようクロ。今日ね、友達と久しぶりに会うから遅くな」
「ダメだよい」
「え?いや、久しぶりに」
「ダメだい。#name#は今日職場に連れていくからねい」
「はい?」
咄嗟に浮かんだ逃げ道を全て伝える前に一刀両断されてしまった。
そんな横暴な発言をするクロにすかさず意義を唱えるが、寝起きとは思えぬ威圧感で捻塞がれる。
クロの職場に連れていく?私を?疑問ばかりが飛び交う頭をいきなりくしゃりと撫でられピクリと身体が跳ねた。
「さっさと用意しろよい」
「ぇ…は、はい」
微笑を纏ったクロの呼び掛けに思わず頷いてしまう自分を少し呪いながら、それでも素直に従い身支度を整えだす私の心は、無理矢理引き摺りだした自制心と確かに感じる愉悦感の狭間で揺らいでいた。