君の光と僕の影 | ナノ
#13 困光
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あの出来事から益々マルコ達に親近感が芽生えながらも、なかなか決まらない仕事に憂鬱になり専業主婦なんて淡い期待もマルコのあの態度で限り無く薄れていく中、密かに漏らした溜息を拾い上げる様にクロが絡んできた。
素っ気ない態度を装いながらも心配そうに伺う様子に、沈んだ心がじわりと浮上するのを感じる。
しかしそんなクロと話した翌日、意を決した様な面持ちのマルコから唐突にプロポーズをされ拍子抜けするも、クロの仕業だとほぼ確信した私は嬉しさと感謝を入り交えた心でその言葉に頷きを返したのだ。
それから反対覚悟で出向いた私の両親に至っても、何のお咎めもなくマルコの言葉に瞳を潤ませ祝福されてしまった。
トントン拍子に事が進む中、目まぐるしく変わり進む展開に正直心が落ち着かなかったが、マルコとクロが居る空間で笑い合っている自分がどうしようもなく好きで、次第に流れに身を任せる決意が固まってくる。
それから直ぐにでも籍をいれるものと思っていたが、何故かマルコは首を縦には振らず半年間は婚約者として過ごす事になった。
「ねぇ、クロはどうするの?私達は…ここに住むんだよね?」
「ん?あぁ、クロも一緒にここに住むよい。嫌かい?」
「う、ううん。だよね、クロ独りぼっちになっちゃうもんね」
「あぁ。俺達はずっと一緒だって誓ったんだい。#name#もな」
「…マルコ」
やはり兄弟と言えど結婚すれば別々に暮らすのだろうと思っていたが、なんの戸惑いもなく共に住むのだと言われれば頷くしか他はない。
確かにマルコ以外身内のいないクロを一人で暮らさせるのは私だって気が引ける。クロに至ってもさも当たり前な態度で接しられればもう私が物申す隙など微塵もなかったなと、そんなつい最近の出来事をまるで何年も遡るような気持ちで思い返しながら、ふと時計に目を向ければ短針は天辺を指す直前で思わず目を見開いた。
えらく長い時間想い出に浸っていたなと自嘲しながら、なんだかんだと幸せな事には変わりないと急いで残りの家事を片付け始める。
一段落付いた頃にはもう陽は傾き始めていて、私は急いで財布と携帯をポケットに突っ込み買い物へと繰り出した。
夕飯の買い物をしながら思考を捻っていると、ポケットの携帯が急かす様に着信を知らせだす。
大方予想の付く顔を思い浮かべながらそれに答えれば、噛み付くような声が鼓膜に響いた。
「どこほっつき歩いてんだい!?」
「ほっつきって…今スーパーで買い物中。って、もう帰ってきたの?早いね、なんかあ…切れてるし」
クロからの全く意味不明な電話に、持っていた買い物カゴがズシリと重みを増した気がした。
考えるだけ無駄なクロの行動に溜息を吐き両手いっぱいに買い物袋を抱え店をでれば、走ってきましたと言わんばかりに息を切らしたクロが目の前に飛び込んでくる。
「何?どうしたの?」
「あ?何って…」
「あ、もしかして迎えに来てくれたの?」
「ば、んな訳ねぇだろい。は、腹減ってんだよい、帰ったら居ねぇしよい」
「ふふ、小学生みたいな事言わないの、つまり寂しかった訳ね?」
「てめぇ…それ寄越せよい」
「お、紳士的」
「……」
言葉足らずで天の邪鬼なのクロの扱いにもかなり慣れたものだ。
私的には素直な人の方が楽なのだがこれはこれで仕方がない。
しかしあの日の事だけは、やはり一言謝罪をもらわなければヤりきれないのも事実で――
「ねぇクロ。やっぱり謝って、あの日の事」
「あ?なんだよいいきなり」
「これから穏便に過ごす為にもあれは謝ってくれなきゃ…いや謝れ」
「ふん、嫌なこったい。俺は当然の事しただけだい」
「な…、そ。じゃもうクロの好きなオムライス一生作らない」
「お前…性格悪いよい」
「ほら、十数える内に謝ってよ?十…九…」
「アホか」
「六…五…」
「おい」
「三?…二?…一?…んっ!?」
「ふん、カウント無効だよい」
「っ…!?」
クロの言葉を無視して淡々とカウントしていく中、残り一つを残してその言葉は無理矢理唇によって喉の奥に押し込まれた。
唖然とする私に悪戯な笑みを浮かべスタスタと先を行く背中を見つめながら、火の点いたようにみるみる顔が赤く染まっていく。
触れた唇が熱すぎて何が起こったとかどうしてなんて考える余裕などなく、この煩いくらいに鳴り響く早鐘に私は酷く困惑していた。