君の光と僕の影 | ナノ
#12 喜影
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僅かな期待が実を結んだ事に俺はただならぬ喜びを感じていた。
さすがマルコの選んだ女だ。結果を後付けするみたいだが、受け入れてくれた#name#を償いも込め大切に扱おうと、密かに思っている。
「今日も来ねぇのかい?」
「あぁ、仕事が大変みてぇだよい」
「チッ。辞めさせちまえよい」
「んな事…簡単には言えねぇよい」
「けっ、甲斐性無しが。何時に終わるんだい?迎えに行ってくるよい」
「は?おい、クロ…ったく」
マルコの制止の声を聞き流し俺は部屋を飛び出した。こう毎日毎日、夜中に帰宅してると聞けばさすがの俺も心配心が顔を出す。
マルコが迎えに行きゃいいもんを、そんな素振りを全く見せず雑誌なんか捲ってる姿に腹が立ってきた。
何かあってからじゃ取り返しがつかねぇ。俺達にとっちゃいわば天然記念物並に貴重な存在の#name#を、もっと大事にしろと俺は声を大にして言いたい。
そうして#name#の会社の前で待つこと数時間。正直あいつを待つのは慣れっこだ。
足元の吸殻を排水口に蹴飛ばしながらふと聞き覚えのある声に顔をあげれば、案の定#name#が変な輩に腕を捕られ身じろいでいた。
そいつから#name#を引き剥がしながら噛み付くように睨みを利かせれば、まるで負け犬みてぇに尻尾を巻いて逃げていく。
その様子に若干優越感を感じながらも、素直に迎えに来たと言えない自分をもどかしく感じていた。
あれから数日が経ち、#name#も以前のように家に来る日が戻ってきたが、なにか上の空なところが垣間見れ少々気にかかる。
「なんだい?腑抜けた顔しやがって」
「ん?んー、仕事辞めるから再就職探し?」
「や、辞めるのかい?あの変な男が原因かい?」
「何どもってんの?理由はそれだけじゃないんだけど、ね」
「…永久就職すればいいだろい、マルコんとこによい」
「……ふふ。それ、マルコに言ったんだよね。でも流されちゃった」
「は?」
「ふふ。私も冗談っぽく言っちゃったし…それにまだ付き合い期間短いからね」
「っ…、」
そんな少し寂しげな顔と共に吐き出された言葉を聞き、沸々と胸の辺りに苛立ちが芽生えだす。
マルコのやつは何をやっていやがると。つくづくヘタレな兄弟にヘドが出そうだ。
そんな俺が黙っている筈もなく、マルコと顔を会わせるやいなや直ぐ様噛み付くように問い質した。
「なんで#name#をもらってやらねぇんだい?あ?」
「なんだよい、いきなり」
「結婚しねぇのかって聞いてんだよい!」
「っ、どうしたんだい、クロ…」
未だ玄関で靴さえ脱いでいないマルコは、当然だが至極困惑顔を向け俺を見つめていた。しかしここで退くわけにもいかず更に追い立てれば、顔を背け吐き出された言葉に唖然とする。
「なに…言ってやがるんだい」
「俺にはできねぇよい、#name#に親父の罪を背負わせるなんてよい」
「っ、そりゃ#name#が決める事だろい。俺達が付いてるんだい、大丈夫だよい」
「っ、クロ…そうだな、ククッ、お前――」
追い撃ちが効いたのか、一呼吸置いて決意を固めたマルコはその後とんでもない事を口にした。
しかし俺はそれに頷きを返し、これから始まる新たな生活に僅かながら胸を踊らせていた。