君の光と僕の影 | ナノ
#09 期光
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本人から直接聞けと家に連れてこられれば、連絡もなしに突然クロと現れた私にマルコは目を見開いた。
「マルコ、いい機会だよい。こいつに言ってやれ」
「な、クロてめぇ」
「マルコ。隠してる事があるなら言って」
「っ、……あぁ」
詰め寄る私にマルコはばつが悪そうに頭を掻きながらあからさまに目を伏せた。
そんな様子に薄れた不安が舞い戻る。いつもとは違う初めて見せるこの態度に、余程重大な、そして私達の今後を左右する内容なのだと伺えた。
「あー、#name#。話ってのはよい、俺達の親の事なんだが…」
「へ?親の?」
「あ、あぁ。俺達の親父は…っ、殺…人犯なんだい。隠しててすまねぇ」
「……それだけ?」
「っ、あぁ」
「そう言うこったい、俺達に関わるとあんたまでレッテルを貼られちまう」
「#name#、騙してたみたいで悪かったよい。悪気はなか」
「それで壁を作ってたんだ」
「……すまねぇ」
「はぁ。なーんだ、私てっきりマルコに隠し子がいるとか、実はクロと近親相姦とか思ってた」
「「は?」」
「ふふ、何その顔。いやさ、だってクロが反対する理由がそれしか思いつかなかったし、ね」
「あんたやっぱり頭おかしいだろい…」
「な、失礼ね」
「#name#…、」
暫しの沈黙の後意を決したように繋がれた告白に、私は頭の片隅に過っていた予想が外れホッと溜息がでた。
マルコの言葉を遮り秘めていた心内を吐き出せば、二人同時に重なった声は酷く間抜けで思わず吹き出してしまう。
それから殺人犯の息子だろうとさして問題ないと告げると、クロは初めて見せるような屈託のない笑みを浮かべ、マルコは少し瞳を潤ませ唇を噛み締めていた。
確かに世間一般の考えでは尻込みしてしまう告白だ。決して偽善者振っている訳じゃないけれど、そんな秘密を抱え乗り越えてきたマルコを好きになったのだ。
それなくして今の彼はいないと、素直にそう感じた。
「#name#ありがとよい、しかし#name#が思ってる程楽じゃねぇ事ばかりだ」
「そうだよい、だいたいあんたお気楽過ぎだい」
「え?世間の目がって事?そんなの、マルコとクロが一緒なら乗り越えられる…でしょ?」
「ククッ、大した根性じゃねぇかい。だが頼るならマルコに頼れよい」
「え?クロは?」
「知るか」
「はぁー?もぅ、マルコ…」
「あ…あぁ、何があっても俺が守るよい」
「うん、頼りにしてます」
どんよりと暗い空気を晴らすように努めて明るく振る舞った。
過去を打ち明けることで、この兄弟が今まで相当辛い目に合ってきたかは容易に想像がつく。
失ったもの、諦めたもの、理不尽な扱いをされやり場のない思いをいくつもしてきたのだろう。
それでクロは、事実を知り私が離れていく事で傷付くマルコを守ろうと…にしては――
「にしてはクロ!だからってあんなやり方で酷いじゃ、っ、」
「#name#?クロに何かされたのかい?」
「ぁ…っと、ク、クロ」
「はんっ、知らねぇな」
「あ!ちょっとクロ!!」
「#name#、どうしたんだい?」
「ぅ…」
マルコがいる事を忘れ口を滑らせてしまった私に、怪訝な表情で何事かと向けられる視線に耐えられずクロに助け船を求めれば、シレッとした涼しい顔で自室へと戻ってしまった。
「#name#?」
「ぁ…うん、いや、嫌がらせ?」
「嫌がらせ…何されたんだい!?」
「く、靴隠されたり…とか?」
「…靴?」
「そ、靴」
「……」
納得のいかない顔で未だ怪しむ彼を苦し紛れな言葉ではぐらかしながら、これでマルコと今まで以上に深く繋がり、そしてクロともなんの蟠りもなく過ごして行けるんじゃないかと、そんな淡い期待が胸にじわりと広がり始めていた。