青い三角定義 V



「しかしマルコも観念して乗せりゃいいんだ。切り捨てられないくらいに気に入っちまってるんだからさ」
「エースは若いからわかんねぇかもしれねぇがな、年取るとなかなか簡単にそうできねぇもんなのさ」
「年の問題か?」

やや憮然としてそう言うエースに、違うかもな、とサッチは苦笑する。

「まぁ、だから#name#ちゃんみたいな子が現れてくれたのがありがたいんだよ。俺は、な」

「…好き勝手言ってんじゃねぇよい」

二人が扉の方に目をやると、いつからそこにいたのか、やはり憮然とした顔のマルコがもたれ掛かっていた。

「マルコ!なぁ、もういいだろ。#name#に応えてやれよ」

どこか懇願めいた口調でエースは言うが、その言葉にマルコは厳しい目を向ける。

「勘違いするんじゃねぇよい、エース」

ぎろり、という音がしそうなほどに睨み付けると、さすがのエースも軽く息を呑む。

「…俺は#name#を試したり焦らしたりしてるわけじゃねぇ。あいつの気持ちには応えられねぇ。それだけだよい」
「毎日部屋に入ってくるのは容認するくせに、そりゃねぇだろ」
「俺は許可した覚えはねぇよい」
「けどよ!」

なおも食い下がるエースに、マルコはなにか探るかのように鋭く目をやった。

「随分肩ァ持つじゃねぇかよい。…本当は、ただてめぇが乗せてぇだけなんじゃねぇのか?」

マルコのその言葉に、一瞬の沈黙が広がった。
軽く片手を上げたマルコは、これで話は終いだとばかりにカウンターに腰掛ける。

「俺は、#name#、好きだぜ」

その沈黙を破ったのは、エースだった。
力強く響く言葉に、差し出されたコーヒーに伸びかけたマルコの指が止まる。

「自分の気持ちに真っ直ぐな女は嫌いじゃねぇ。毎日マルコに冷たくされても、めげずに笑ってるアイツを可愛いと思う。恋かと聞かれたらわからねぇが、もしかしたらそうなのかもしれねぇ」

微動だにしないマルコの背中に、エースは力強い視線と言葉を投げかける。

「でも#name#を乗せるのは俺じゃねぇ。俺じゃ駄目なんだ」

マルコも、カウンターにいるサッチも、口を開かない。
ただ、エースの言葉だけがキッチンに響いた。

「マルコ、頼むから…#name#のこと、泣かさないでくれよ」

俺、アイツの笑顔が好きなだけなんだ。
それだけ言うと、エースは静かにキッチンから出て行った。

「…ガキが、よい」

静まり返った空気にそう吐き捨てると、マルコはコーヒーを口にする。

「#name#ちゃんとエースの仲が良いのが気になって、こっそり見てるくらいなら、素直になりゃいいんだ」
「うるせぇ!」
「熱ィ!!!」

呆れ顔のサッチにコーヒーをぶっかけると、マルコは新しいコーヒーを注ぎに奥へと足を運ぶ。

「お前、日に日に俺に対する仕打ち酷くなってねぇ?」
「気のせいだよい」

手近にあったタオルで頭を拭きながら、サッチは呆れたように溜息をついた。

「素直になる勇気も、嫌いだと切り捨てる勇気もねぇ。そりゃエースも黙ってられねぇわな」
「…好きなら、アイツが乗せてやりゃいいんだよい」
「好きだから、自分じゃ駄目だってのがわかってるんだろ」

詰まった言葉を流すように、マルコはコーヒーを飲み込む。

「まぁ、後四日しかねぇんだ。後悔しねぇようにな」

サッチが肩をすくめる。
マルコが何か返そうと口を開いたとき、キッチンの扉が開いてクルーが顔をのぞかせた。

「あ、マルコ隊長。親父が呼んでましたよ」
「…おう」

こんがらがりかけた頭の中を、親父と言う言葉がきれいに流してくれる。
マルコはひとつ伸びをすると、苦笑するサッチを後にしてキッチンを出て行った。

後四日。
いや、まだ四日もある。
いやいや、何日あろうと答えはひとつだけだ。

何度も言い聞かせるマルコの頭の中に、ふと言葉がよみがえる。

『俺は、#name#、好きだぜ』

絞り出されたようなエースの言葉。
その言葉を聞いた時に沸き上がった感情と、向き合ってはいけない。
そう直感的に感じたマルコは、思考回路をストップさせて、ただ白ひげの部屋への歩みを早めるのだった。






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