鳴かぬ蛍が身を焦がす
きりん師匠に頂いた5万hitお祝い小説です!
頂いたと言うか強要しちゃいました(´∀`)エヘ。お相手はローで、もうきりん様の書かれるローは私の大好物であります☆皆様も是非!きりんさんありがとうございましたm(__)m
待ち合わせてる訳じゃない
まして…約束してる訳でもない
だけど決まって毎日…
彼は、わたしの正面にやってくる
図書室の一角、南の窓際奥に位置するテーブルの上には
殆どまっさらなノートと、いくつかのマーカー
そして、現代文と古文の参考書が置かれている
まず、手を伸ばして捲るのは古文の参考書
要点部分に赤いマーカーで線を引き…サラサラとノートにペンを走らせていると
カタン、と控え目に引かれる正面の椅子
…きた…
両耳ピアスに顎髭…さらに目の下に隈…
偏見ではあるけど、およそこの“図書室”という場所が似合わない目の前の彼は
いつも、開口一番…
『今日は何の勉強だ?』
そう言って、わたしの手元を覗き込んでくる
『…古文と、現代文です』
『ああ、教えてやろうか?』
『…遠慮しときます』
『何故』
『先輩は、教え方は上手ですけど…近いんです』
『問題ないだろ』
…大ありだ…
一度、数学の参考書を広げている時にそう声を掛けられ、思わず頷いてしまったら…
わたしの隣に移動して来た彼に、ほぼゼロ距離で指導されたことがある
…その時の記憶は…殆ど、ない…
『#name#』
『っ、…はい…?』
『言ってるだろ?“先輩”はやめろ』
『…先輩は先輩でしょ?』
そう、目の前にいる彼は現在二年生
その一つ下の一年生であるわたしが、彼を先輩と呼んで一体何がおかしいと言…
『“ロー”だ』
『………』
『ほら、言ってみろ』
『……、…』
『#name#?』
『……ロー、先輩』
『だからそうじゃねェっていつも言ってるだろ』
…ここまでが、最早お約束になっている…と言っても過言じゃないやり取りで…
呆れたように息を吐いた彼は、それ以上はもう…わたしが勉強を切り上げるまで
こちらに干渉しようとはしない
きっと、わたしの邪魔をしないため…だとは思うけど
じゃあどうして彼は、いつもこうしてわたしの目の前に現れるんだろう
『………』
手元を見れば…今日は…動物図鑑…?
…そんな本、図書室に置いてあったんだ…なんて疑問はさて置き…
そう、彼はここに参考書を広げに来ている訳ではない
昨日は推理小説だったし、一昨日は映画雑誌…
毎日、目の前でパラパラと捲られるページは、どれも…
『気になるのか?』
『……え…?』
『まさかお前が、白クマ好きだったとはな』
『…へ?』
トントン、と彼が指差す先は…成る程…確かにちょうど白クマの紹介ページ…
『今度、会いにいくか?』
『え…』
『白クマ』
『……北極に?』
『くくっ、何ジョークだ?それ』
自分の発言に照れる…と言うより、…彼の緩く笑う顔に釘付けになる
真っすぐ引いたはずの赤い線は、途中からどこか歪んだように波打って…
『#name#』
指先が震える
でも視線は…逸らせない
『……ないん、です』
『ん?』
『…先輩が、そこにいる、と…勉強、できない…んです』
『おれのせいじゃねェだろ』
『…先輩の、せいですよ』
『違う』
…違わない
マーカーが真っすぐ引けないのも
ノートに綴る文字が歪むのも
目の前の参考書の内容が頭に入ってこないのも
…全部、ぜんぶ…
『…先輩の』
『#name#』
『……、…』
『違うって言ってるだろ』
いつの間にか立ち上がっていた彼が…言いながら、ゆっくりわたしの隣へと足を進めてくる
頭が、上手に…まわらない
持っていたマーカーを取り上げられたのは、いつ?
参考書が閉じられたのは…
『#name#』
そっと、この手に添えられた…彼の大きな手のひらに視線が落ちる
『…せんぱ…』
『ロー、だ』
『………』
『わかってるんだろ、もう』
『…あ、の』
『お前が真っすぐおれを見れないのは』
『…せん』
『認めようとしないからだ』
『…っ……』
ぎゅっと、瞳を閉じた
頭に入って来ない言葉の羅列も、集中できない心も…震える手も
全部、ぜんぶ…
わたしが、わたしの気持ちを…認めていないから
『…#name#』
『…だって、…』
『ん?』
『…きっと、もっと…わからなくなる』
どこに振ればいいのか分からない気持ちなのに
認めれば…、…何もかも上手に処理できなくなる…だから
『お前、未来でもみえるのか?』
『…え』
『予想で物事を語るな』
『でも…』
『あと、一人で考えるな』
『………』
『おれと二人で考えればいいだろ』
『……せんぱい、と…?』
ようやく振り向いた先には、目を細めて優しく微笑んでいる…彼
『おれは』
いつの間にか…そんな彼の
『毎日毎日、ここでさして興味のない本のページを捲るのが、全く苦痛じゃない程』
緩く椅子を引いて腰をおろしているその姿に
『この時間が大事で』
今度は反対に…
『こうしてそばにいるだけで、馬鹿みたいに心臓が跳ねる程』
瞳が逸らせなくなる
『お前に惚れてるんだが』
引かれたこの手は、今…彼の左胸へとあてられた
…その、思った以上のスピードで鼓動する音に…
『いい加減、こたえてくれないか?』
飲み込むスピードと、吐き出すスピード
導き出される“こたえ”は、もう決まってるから
いっそ、叙情的にたとえてみようかな
だからどうか汲み取って
鳴かぬ蛍が身を焦がす
end
きりん師匠!素敵なローをありがとうございました(´∀`)
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