冷え性なマルコ byサティコ様
![](//static.nanos.jp/upload/j/jyuira/mtr/0/0/20110808095530.jpg)
「なぁ、マルコ隊長って実は…」
「あぁ、ありゃ間違いねぇよ…朝からずっとだぜ?」
「まさかそっちだったとはなぁ…」
ひそひそとクルーの話し声を背中に受けながら、エースはげんなりとした顔でマルコを見る。
「おいマルコ…マジで勘弁してくれよ…」
「…なにがだよい」
「なにがだじゃねぇ!朝からずっとベタベタしやがって!」
エースが青筋を立てて怒鳴り散らしたとおり、マルコは両手をべったりとエースの腕に、時には背中にと、とにかく素肌にくっつけたままなのだ。
「気持ち悪ィんだよ!さっきから変な目で見られっぱなしじゃねぇか!!」
「あァ!?こっちは切羽詰まってんだよい!他人の目なんか知るかァ!」
真正面から言い返しているときも、マルコの手のひらはエースの肩を掴んだままである。
「やっぱりな…マルコ隊長男が趣味なんだよ…」
「あぁ、しかしまさか相手がエース隊長だとはなぁ…」
いよいよもって真実味を増した後ろ指に、エースは悲鳴じみた怒鳴り声を撒き散らした。
「俺はッ!ホモじゃねえぇぇェェ!」
「俺だって違ェよい!!無駄口叩いてねぇでちゃんと熱量上げねぇか!指が凍っちまうよい!!」
手はそのままに、げしっとマルコがエースに蹴りを入れる。
エースはほろほろと涙を流しながら、がっくりと肩を落とした。
「…だから冬島近くなるとイヤなんだよ…海賊が冷え性とかわけわかんねぇよ…」
「俺が一番そう思ってるよい…」
「相変わらず災難だな、エースは」
大声でサッチが笑いながら、エースのグラスに酒を注ぐ。
「マルコのやつ、俺をカイロか湯タンポだと思ってやがる…」
「出たアアァァァ!!」
そんなエースの愚痴を遮って、情けない声を上げながら一人のクルーが食堂に駆け込んできたのは、深夜も深夜、早朝はまだ程遠い午前2時のことだった。
「おいおい、何時だと思ってんだ、静かにしろよ」
暖炉の前でちびちびと呑んでいた二人は、その男を見て目をぱちくりさせた。
「落ち着けよ、何が出たって?」
「お化けですよ!でかい人魂が浮かんでるのを、俺、確かに見たんです!!」
「…ヒトダマぁ?」
オウム返しにサッチが聞くが、男は確かに見たの一点張り。
話のタネにと、二人は男が人魂を見たという場所まで行ってみることにした。
「そ、そこを曲がった甲板の上に…」
震えながら男が指差す方へ歩くサッチ。
そこでふと彼は立ち止まる。
「…こっちって、見張り台の方じゃねえか?」
「そうだな」
頷くエースに、サッチは振り返りながら再度問う。
「………今晩の見張りって、マルコじゃねえか?」
「………そうだな」
暫しの沈黙のあと、二人は揃って目標の方角を見上げる。
「…」
「…」
「ほ、ほら、あれ!ひ、ひと、人魂!」
そこには確かに、やたらとでかい青白い発光体が浮いていた。
いや、見張り台に乗っかっていた。
「…あれはな、マルコだ」
「…へ?」
男の間の抜けた声が響く。
「よく寒いと鳥が羽膨らませて丸まってるだろ…あれだ」
「あれ暖かいのか…?」
二人は絶句している男を背に、げんなりして空を見つめるのだった。
「むにゃ…手足が凍っちまうよい…もう冬島はイヤだよい…」
END
*prev next#