マルコ社会人編 | ナノ

#06 私の貞操



「ん…」

「起きたか?」

「ぅーん、今何時?」

「深夜一時だ」


はぁ…寝てしまった。
彼と体を交えた後は必ずと言っていい程、寝てしまう。
理由は明白。彼が激しすぎるのだ。

「もぅ、ローは激しすぎるのよ」

「ほぅ、二度目はお前から求めてきたんだぞ?」

「…そうだったっけ?」

「フフ…違う事にしてやってもいいがな」

私の頬に手を滑らせながら悪戯な笑みを浮かべるこの男。そう、お怒り電話の張本人。

彼との関係は恋人じゃない。いわゆる元彼だ。高校時代に付き合っていた彼だが、浮気を発見。そして私から別れを告げた。

しかし別れた後もしつこく復縁をせがまれ、留学先にも何度も足を運んでくる彼にいつの間にか "体だけ" 許すようになっていた。そしてそれは今現在も続行中という訳だ。

でも寄りを戻すつもりは…小指の爪程しかない。
全く無い訳じゃないけれど、言葉では説明しにくい何かが邪魔をしているのだ。

「ねぇ、起きる。お腹減った」

「ったく、抱かれてる時はあんなに可愛いのにな。終わるとこれだ」

「…ご飯たべたい」

「はぁ…はいはい」

彼は優しい。惚れられている立場を利用して…はいないが、大抵の我が儘は全て聞いてくれる。

でも先程も言ったが、寄りを戻すつもりはない。
生憎、好きな人もましてや恋人もいない身だ。
彼と会う度に関係を持つのも別に嫌ではないし、誰に気兼ねする事もない訳だ。

それに、たまに男に抱かれるのも一つの美容効果があると聞いた事がある。
うん。そんな感じで、彼との関係はあまり深く考えた事がない。

「用意出来たよ!行こ?」

「はぁ…こんな夜中に何食う気なんだ?」

「んー、グラタン」

「…じゃぁファミレスか」

「よし。ファミレスへゴー」

「…」

そんな呆れ顔の彼と深夜のファミレス奇襲を済ませ、自宅に送ってもらう。
自宅と言ってもまだあまり馴染みのない場所なのだが、これが私の"自宅"だ。

「ありがと。また連絡するね」

「あぁ。戸締まりはちゃんとしろよ」

「はいはい」

「…#name#。」

「ん?」

「好きだ」

「うわっ!びっくり」

「はぁ…お前と居ると溜息がよくでる」

「それは大変。幸せが逃げちゃうよ!じゃぁね」

「…あぁ。」

毎度の様に彼の気持ちをふざけた態度で流す。
寄りを戻すつもりはないのだから、これで愛想を尽かされても…構わない。

少し引っ掛かる物はあるが、後悔はしないだろう。


そうして入社まで後一週間を切った翌日、ふと鞄の中から出てきた紙に彼の存在を思い出した。

「マルコさんのアドレスだ…」

そう言えば、帰国したら連絡すると約束していたなと、それに私もまた会いたいと思っていたと、早速紙に書かれた数字を押した。



しかし、20秒程コールを鳴らしたが、マルコさんの声は聞く事が出来なかった。

「忙しいそうだもんね」

そう解釈し、急に誰かを捕まえたくなった私は思い浮かぶ友人に電話を掛けまくった。

それから三人目で捕まった高校時代の友人、ロビンと待ち合わせをし街へと足を向ける。

彼女とは三年振りだ。募る話が花を咲き深夜までグラスを傾けた。


「大丈夫?飲み過ぎちゃったわね」

「いいのいいの!楽しかったし…ヒック」

「あらあら、困った子だわ」

「ふふ。ロビンは相変わらず酔わないね」

「あら、酔ってるわよ」

「嘘だぁー…ヒック」

そんな酔っ払いの戯言を言い合っていると、私の鞄が震え出す。

「ん?電話だ…あ!マルコさん!」

かなり酔っていた私は、彼からの電話に即座に応答した。

「はいはいはい!#name#で御座います」

「…あぁ、#name#だったのかい。すまない遅くに」

「いえいえ!嬉しいですよ、マルコさんの声聞けて」

「っそ、そうかい。あー、飲んでるのかい?」

「はい!でももうお開きする所で…ヒック」

「酔ってるのか…今どこだい?」

「え?うーんと…ねぇ、ロビンここどこ?」

「お迎え?貸して」

そうしてロビンが場所の説明をし、迎えに来てくれると言うマルコさん。

なんてイイ人なんだと、酔いが回って定かではない思考のまま迎えに来た彼の車に乗り込み、ロビンを先に下ろした後、改めてお礼を言った。気がする。

「マルコさんって優しいですねぇ」

「…相当飲んだのかい?」

「ふふ。チビッとですよ」

「危ないよい。女だけでそこまで酔うのは」

「あ、怒られた」

「…。#name#は酔うと危険だねい」

「危険?何がですかぁ?」

「このまま…帰したくなくなるよい」

「あー!誘ってるんですか?」

「…質が悪いねい」

「ふふ。よく言われます」

「帰るかい?それとも…一緒に寝るかい?」

「ふふ。ダイレクトですね」

「そういう性分なんだよい。どうする…#name#?」

「んー、いいですよ」

「い、いいのかい!?」

「ん…」


それからはあまり覚えていない。
断片的な記憶では、かなりのテクニシャンだった…気がする。
そして、ローとは違う男性の匂いがして、それと同時にマルコさんのポジションが私の中で大きく変わっていくのを感じたのだった。

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