マルコ社会人編 | ナノ
#05 新な門出
『酷いな。連絡ぐらい出来ただろ』
『ぅ…ごめんなさい。来年帰る時は連絡するから』
『当たり前だ。帰った当日に連絡しろ。しなきゃ許さねぇ』
『わぁ、怖いなぁ』
『フン。まぁいい。そんな事より…就職おめでとう』
今回の帰国を知らせなかった、"友人"からのお怒りの電話を受けたのは、家に着いて五分後の事だった。
家に着くなり忙しなく鳴り響く呼び出し音に、鞄を投げ捨て出てみれば…これだ。
まぁ、事前に連絡する義理でもないのだが、怒った声色から面倒だと判断した私は素直に謝った。
私の得意技。名付けて『先手謝罪法』だ。これは使い方を間違うと誠意感が伝わらないのでタイミングがポイントだ。
それはさて置き、無事に就職も住居も決まった私は、帰国するまでの僅かな時間でしなくてはならない事が次から次に出てくる程大忙しだ。
そうして、こちらの友人などにも手伝ってもらい、何とか予定通りに帰国出来る事になった前夜。
お別れ会と言う名を被った、死ぬほど飲めよ会が行われた。
勿論、主役は私。こちらで打ち解けた友人達は何故か皆、悪戯好きな"質の悪いカツオくん"の様な人達だらけだった。
タバスコ入りのブランデー。ハバネロ入りビール。それからーーーうっ、思い出しただけでもどしそうだ。
そして翌朝、当然悪酔いをした私は三度、否、五度ほど吐き、頭痛と別れの寂しさに顔面蒼白な顔のまま、カツオ集団に見送られ日本へと旅立った。
二日酔いにはハードな長旅。機内で二度程吐いた私は、毎度の如く迎えに来てくれた心優しいエースに激烈な出迎えをしてもらった。
「すげぇ顔だな。うぉ!?そして下呂臭ぇ…」
「…まずお帰りでしょ?」
「あぁ、お帰り。コーラでも飲むか?それかFRISK」
「ぐっ…屈辱!でも、いる。コーラは嫌。ポカリで」
「よ、よし、待ってろ」
そうして、入社二週間前に無事帰国した私は、新居の詳細はエースに任せてあるという会社からの通達を受け、気兼ねない彼に身を任せる事になった。
「先に新居に行くか?」
「うん。そうだね、それから買い物したいな」
「了解。だがよ…少し休んだがいいんじゃねぇか?」
「もう大丈夫。早く新生活完成させたいし」
「そんな急がなくてもよぉ…」
「だって、今日買っとかないと…足がない」
「足って…オレか!?」
「そう。私の第二の足よ」
「うげぇ。最悪だぜ」
そうこうしている間に辿り着いた目的地。
これから暫くはここに住むのかと、これからの生活に期待が膨らんだ所で…
「うっ。やっぱ気持ち悪い」
「はぁ…予定変更だな」
「ぅっぷ。そうしよう」
しかし目の前まで来たのだからと、一応部屋を確認して帰ろうと言う彼に引き摺られ、吐き気と頭痛に悩まされながらも足を動かした。
「なんだよ!この部屋」
彼が驚愕の声を上げるのも納得だ。
何故ならば、会社が用意した部屋というのが…
「すごい広い…しかもルーフバルコニー!!」
先程までの体調不良を吹き飛ばすくらい素敵な部屋に、エースに続いて思わず歓喜の声がでた。
「まじかよ…この部屋が会社持ち…」
「すごい太っ腹だよね?白ひげ様々!」
「…何かおかしいんだよなぁ」
「でたな。でも…私も思う」
「だろ?#name#なんかしたのか?」
「してないよ…たぶん」
「何だよ…たぶんって」
そんな疑いの目を送られても、"たぶん"としか言いようがない。
なんせ面接からおかしな感じだったではないか…
会社側が、私にどれ程の期待をしているのか分からないが、こんな優遇されると…
「逆に怖いよね…」
「あぁ。無いとは思うが、もし首になったら…」
一気に職も住む場所も失うな!と笑いながら口にする幼なじみ先輩に、そんな怖い事サラッと言うなよという目線を送りながら、若干不安に襲われる。
この待遇は少し異常じゃないか?それに、待遇に似合った仕事をしろと言われたら?不安は湧き水の様に溢れてくる。
「あ、大丈夫だぜ?社長はすげぇ尊敬できる人だし、何よりかっけぇ。」
「う、うん。かっけぇは余計だと思うけど…」
「あ?#name#も会えば分かるぜ!あの人の偉大さがよ」
「うん。確かに偉大だろうね」
あれだけの規模を保つ実力者だ。偉大だろうとも。
だが、それとこれとは話が別だ。
「気にすんなって、もし、変な要求されたらよぉ、助けてやるから。たぶん」
「頼りにしてます。maybe」
「おぅ。任せろ meybe?」
そうして、不安な気持ちを頼りない幼馴染に託して、再来週からの新生活を迎える為に、五日程掛けて新居の準備を整えた。
「よし。こんなもんかな」
足りない物はその都度買いたそう。ほぼ生活には支障はない位には整った筈だ。
後は…何かやり残した事はないかな…
「……あっ!!忘れてた!!」
「お前は学習能力がないのか?それともオレの存在が薄いのか?」
「うーん。どっちもかな?」
「てめぇ…」
「わっ…あ、ほら、お土産!!」
「…こんな体に悪そうな菓子一つで、オレの機嫌が治るとでも思ってんのか?」
「え…足りなかった?じゃぁもう一つあげる」
「数の問題じゃねぇ…」