マルコ社会人編 | ナノ
#04 二度目の奇跡
![](//static.nanos.jp/upload/j/jyuira/mtr/0/0/20110915235804.gif)
威風な面接から三日後―
「やっぱり、会社の近くがいいかな?」
「あぁ…いや、あんま近いのもつまんねぇだろ?」
家と会社の往復みてぇでさ。などとごもっともな発言をした幼馴染みに、確かにと頷きを返す。でもあまり遠いのも通勤に骨が折れそうだ。せめて三十分。うん、三十分圏内で探そう。
「じゃぁ、この辺かな…」
「おお!いいんじゃねぇか?ここからも近いしな」
「よし。じゃぁ今日は、お部屋探し頑張ります」
「おう!迷子になるなよ」
「…ならないよ」
そんな私を迷子常習犯扱いするエースを見送り、自らも支度を始める。
来年から晴て社会人になる私は、同時に住む場所も確保しなければならない。
目的地までの道中希望の物件を思い浮かべた。
間取りは最低2LDK。寝室とリビングが一緒なのは頂けない。ゲストルームも必要だよね。うん。それに勿論独立キッチン。後は…ルーフバルコニーだったら申し分ない。
ある程度の理想を組み立てた処で不動産に到着し、出向くアポはとってあったので直ぐに担当者に通された。
「この度は当店をご利用誠に有難う御座います」
そんなお決まりの冒頭から始まり、希望の間取り、場所などを聞かれ、先程頭に思い描いた理想を伝える。
「それですと…こちらですかね」
差し出された数件の物件を品定めする。
うん。どれも目移りしてしまう程いい物件だ。
その中から、まぁ少々理想とは違うが妥協して一つを選び出したまでは良かったのだが…
「は? すみませんもう一度」
「はい。こちらですと、お家賃が十八万二千円になりますね」
「…ぼってませんよね?」
「…ぼっておりません」
「それは…この辺では妥当な値段なのでしょうか?」
「そうですね。妥当です」
何てことだ!日本の物価をなめていた。
むこうとこちらでは、こんなに賃貸感覚にズレがあるのか…
「あ、あの…家賃八万前後だとどんな…」
「そうですね。そのお家賃ですと…ワンルームタイプでしたら―」
ワ、ワンルーム…
嫌。嫌だよワンルーム。
「そうですか…あの、少し検討して出直します」
「は…はい。ではお待ちしております」
そうして、この日本と言う国を少し恨みながらこの状況に頭を抱える。
困った。十八万なんて家賃…払えない。しかし、ワンルームに住む気も更々ない。どうしたものかとぐるぐると思考を巡らせていると、ふと、回りの景色に足が止まる。
「あ、この辺は会社の近くだ…」
と言う事は、来年からこの辺は私の庭に成りうるのかと、まるで人探しでもしているかの様に辺りを見回した。
さすが都会の中心部。ありとあらゆるお店が並んでいる。これなら仕事帰りもバッチリ買い物できるなと。
そうして次に目線を送った先に、私はまさかの人物を発見してしまった。
「あ!マルコさん!!」
道を挟んだちょうど向かい側。仕事仲間だろうか、三人連なって歩いている彼を見つけ思わず声を上げてしまった。
私に気付いたマルコさんは、連れに何か話し掛けた後こちらに向かってくる。
あ、今連れの人達マルコさんに頭下げてたな。彼は会社でそれなりの地位に立つ人なのかと確信した処で目の前に現れた彼。
「#name#。偶然だねい。ここで逢えるなんて予想外だよい」
「ほんとに偶然ですね!私も予想外です」
それからお昼を誘われ、共に食事をする事になった。
「買い物かい?」
「違いますよ、家…あっ!そうそう!」
「ど、どうした?」
「就職決まったんです!それも、第一志望に!」
「あ…良かったねい」
「はいっ!これで社会人予定じゃなくなりましたね」
「そ、そうだねい。あのよ」
「そうそう!でも変わった面接だったんですよ!」
「へ、へぇ。で、あのよ」
「何でもですね、あの会社は面接官が霊能力者で、それで―――」
私は、偶然出会えた感激と就職決定の嬉しさを思い出し、少し興奮気味にあの威風な面接内容を説明した。
「ね? 奇跡みたいな話でしょ?」
「…ぉ、おう」
「あ、でも更に驚きの事実が…」
「今度はなんだい?」
「実はですね…」
自分でも不思議で仕様がなかったが、マルコさんには色々と余計な事まで話してしまう自分がいた。
もしかしたら、経験豊富そうな大人の彼に道しるべをしてもらおうとでも思っていたのかもしれない。
「家賃が高いか…」
「そうなんですよ!日本をなめてました」
「しかし…困るだろい?住む家がないんじゃ…」
「うーん、最悪、幼なじみの家に住みますよ」
「は!?それはダ…」
「ん?なんですか?」
「いや、何でもないよい」
「フフ。 大丈夫ですよ。何とかなります」
「…」
それから彼の携帯に着信が入り、会社に戻らなくてはならなくなったと、そして日本に戻って来たら連絡してくれとアドレスをもらい再び会う約束をして別れる。
「いいなぁ、あの大人な感じ」
そんな、今まで私の周りには居なかった雰囲気の彼を尊敬と癒しというポジションに置いて、再び会えるという事に少し嬉しさを感じている自分がいたのだった。
「おかえりエース先輩」
「…ただいま後輩。あ、そんな事より、お前に渡せって」
「なにこれ?」
「知らねぇよ。何だ?」
「ん、ちょっと待ってよ…」
エースに渡されたA4サイズの封筒には、またしても奇跡、否、ミラクルとしか言いようがない内容が記されていた。
「ぇ…まじですか?」
「あ?ちょい見せてみろ…は!?」
その記されていた内容とは、住宅補助として住む家を提供してくれるのだと。しかも家賃はただときたもんだ。更に一番のポイントは、間取りも立地も私の理想通りと言う所。
「こんな制度あったか?初めて聞くぜ…」
「私ってさ、すごく、もの凄くラッキーじゃない!?」
「…だといいな。何か怪しいんだよな…」
「何が? 妬みなら叩くよ」
「誰がお前に妬むかよ! でも何かあるぜ…」
「あー!これで、ほんとに気兼ねなく帰れる!」
「何かあるぜ……」
「もう!煩い!!」
「痛っ! 絶対何かあるぜ…」