マルコ社会人編 | ナノ
#49 消える不安と愛情
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「大丈夫だ、大丈夫」
「うん…うっ、産まれそう」
「まだ産まれねぇよ。陣痛の感覚が浅いからな、あ、息むなよ」
「っ―、ロー」
一定の間隔で襲ってくる腰が折れそうな激痛に、私は不安と痛みからローの手をきつく握りしめる。
それにしてもマルコさんには本当に悪い事をしてしまった。
何も大事な会議の日を狙って産まれなくても―
連絡をしてもらった看護婦さんの話では、直ぐに行くとあたふたしていたそうだ。
それでも出張先からここまで来るのは、どんなに急いでも四時間、いや、それ以上はかかるだろう。
どうか彼が来るまではと、お腹に手を当てもう時期逢える我が子にお願いしてみる。
「ほら、喉渇いたろ?」
「ありがと…ふぅ、」
「治まったか?俺が産科医だったらな…取り出してやるのに」
「ぇ、やだよ」
「ククッ。でもまぁ知識はあるぞ。まず内子宮口が徐々に開いて」
「ストップ、難しい話はいい」
「ククッ、そうか」
そんな冗談に随分気持ちが落ち着いた。
心細い気持に染み渡るローの存在にとても感謝する。しかしそれと同時に浮上する困惑。
私はさて置き、彼は今どんな気持ちを抱えているのかーー
全てを汲み取る事はできないが、きっと、私以上に複雑な心境の筈だ。
「ロー…ごめんね」
「何謝ってんだ、んなもんいいから無事産まれるように集中しろ」
「っ、うん、ありがとう」
「あぁ」
「ロー…私」
「ここね、#name#気分はいかが?」
「え、ロビン…どうして」
「俺が呼んだんだ、一人になるのは寂しいだろ」
「え…」
「じゃぁ後は頼んだぞ」
「ええ、任せて」
「ちょ、ロー…痛ッ、」
言い掛けた言葉が開いた戸によって飲み込まれ、予想外の展開に困惑しながらも出口へと背を向けた彼を呼びとめようとした途端、再び襲ってきた激痛によってベットに蹲ってしまう。
痛みに耐えながら目線をローに向ければ、頑張れと言うように優しい眼差しと共に一度頷き扉の向こうへ消えていった。
そんな彼の行動に複雑な心境が絡み合う。
引き留めたい気持ちが込み上げる中、先程聞かされた祝福の言葉が甦り抑制心を引きずり出した。
彼なりに悩み出した決断を、私の我が儘で台無しにしてはいけない、と。
痛みなのか不安なのか、それともローに対する感謝や謝罪感からなのか、止めどなく流れてくる涙をロビンが優しく拭き取ってくれていた。
そうしてどのくらい時間が経ったのか、だんだんと間隔の狭まる痛みに私は分娩室へと移動させられた。
休む暇なく襲ってくる痛みに意識が朦朧としてきた頃、扉の向こうでギャーギャーと喚く声が耳を掠め、一気に身体の力が抜けていくような安心感が襲ってくる。
マルコさんが来てくれた。
そんな愛しい声を聞きながら、何故かローの後ろ姿が蘇る。
彼に伝えれなかった言葉。
私の選んだ道を認め背中を押してくれた彼にどうしても伝えたかった。
ありがとうと、この子がローの子であっても、最大級の愛情を持って育てると―
そんな私は、もう父親がどちらなのかなんて不安は全く感じていなかった。