マルコ社会人編 | ナノ
#03 威風な面接
「なんか違うな」
「えー?じゃぁこれは?」
「んー堅苦しいな…」
「じ、じゃぁこんな感じで…」
「今までで一番ダメだ」
「もう!エースはどんな感じで受けたのよ!?」
そう。私は今、エース指導のもと面接シュミレーション真っ最中だ。
留学先の大学では面接の仕方が英語な為、役に立たない。
だが…彼もまた役に立ちそうになかったのだ…
「オレの時は…あ、あれだ!」
【オレの名前はポートガス D エースです。以後お見知り置きを】だ!
ナニソレ!?
そんなのただの自己紹介じゃないか。
「まさか、それだけ?」
「あぁ。それだけだ」
「そんなのでよく受かったね…」
「そうか?即採用だったぜ?」
「即? その場でって事?」
「あぁ。」
そんなバカな事絶対ないと思いながらも、否、エースならあり得るかなと、面接など生まれて此の方受けた事のない私は、自分にも奇跡をと祈ってみたのだ。
「いいなぁ。私もそれ希望」
「大丈夫だって、もし落ちてもさ、」
掃除のおばちゃん枠が残ってるぜと。ふざけるなよ、エース君。
それじゃぁ留学した意味が全くないじゃないか。
そんな意味のない練習をし、面接当日。
「ね、おかしくない?」
「んー。いいんじゃねぇか」
「全くアドバイスセンスないね」
「あー煩せぇな。置いて行くぞ」
「はい。すいませんでした」
そうしてエースの車に便乗し、辿り着いた白ひげ株式会社。
こうやって見上げるとかなり大きな建物だ。
本社だけでも、1800人。グループ会社も数えると一万五千人は越えると言う社員数。間違いなく大企業だ。
「ねぇ、エースは本当にここで働いてるの?」
「…あぁそうだ」
「信じられないな、なんとなく」
「失礼極まりないぞ、#name#」
「ハハ。冗談だよ。うん。」
本音を言えば信じられない。それにエースが言うには、今までにないスピード出世をしているらしい。勿論確かめようがないので信じていない。
「ほら、失礼な事ばっか考えてねぇで行くぞ」
「お。読心術炸裂だね」
「マジで考えてたのかよ…」
そんなエースで少し緊張をほぐした私は、何故か志願者が400人近くいるというのに、幸か不幸か面接のトップバッターに当たってしまった。
「じゃぁ頑張れよ」
「うん…」
そうして大丈夫だと言う彼に励まされ別れた私は、指定された面接部屋の扉を緊張感たっぷりに叩いた。
「あ、座って座って」
「はい。失礼します」
一度丁寧にお辞儀をし、促しの言葉をもらい終えた処でゆっくりと腰掛た。
よし、ここまでは順調と。次は、自己紹介して、志願希望でしょ、それから出された質問に的確に答えてと、私は今まさに始まろうとしている面接に身構える。
「#name#です。よろしくお願いいたします」
「はい。採用」
よし。どもらずに言えた。次は、志願…希…え?
「え?今何て…」
「ん?聞こえなかったかな?採用だよ。採用」
おめでとうと、ご立派なリーゼントの面接官はにこやかに口にした。
「え…採用って、合格と言う事ですか?」
「Yes!その通り!」
は?まだ名前しか言っていないのに…これじゃぁ、エースと同じではないか。
ここ、あの白ひげだよね?大企業だよね?いいのかこんなアバウト面接で…
それとも私にもミラクルが!? いやいやそんな訳が…
はっ!!まさかエースが裏で…!!
そんな予感がした私は、それならばこの採用は無効にして欲しいとばかりに面接官に問いだだしてみる事にしたのだ。
「あの、採用の理由を教えて頂けませんか?もしかして、エースが…」
「エース? 何々?エースと知り合いなの?」
「ぇ…いや、あの、どうして即採用を?」
この人知らないのか。じゃぁエース絡みは消えたなと、では他に何が理由なんだろう…
まさか、全ての面接は彼のインスピレーションで決まるとか?
「えーと、そうそう!オレ霊感的な力があってさ、」
君からは凄いパワーを感じるのだと。何とも怪しい言葉を投げ掛けてくる彼だが、エース絡みではないのならこの合格を素直に受け止めようと納得する事にしたのだ。かなり不安な気持ちは内緒にして。
「納得したみたいだね、ふぅあぶね」
「?」
「ゴホン…では、詳しい事は書面で送るから」
「は、はい。ありがとうございました」
「うんうん。これから宜しくね」
「宜しくお願いします!」
そんな呆気なさ過ぎる面接に唖然となりながらもこれで卒業まで安心して過ごせると、来た時とは打って変わった私は軽やかな気持ちで会社の門を潜ったのだった。
それにしても、気になるワードがあったなと。
あの人、あぶねって言ったよね。一体何が危ないのだろう…凄く気になる。
エースが帰ってきたら聞いてみようと。
考えても分からないと踏んだ私は家路へと足を向けた瞬間大事な事を思い出した。
「靴!!」
そうそう!就職が決まったら買おうと決めていたのを思い出した私は、急転換をしあの店へと急いだ。
そうして辿り着いた何時ぞやのショウウィンドウ。
「あ…替わってる」
展示してあった靴は既に違う品に替わっていた。
では、店内かと足を運ぶも答えはノー。売り切れだと告げられる。
「ぅ…あの時買っておけばよかった」
後悔しても後の祭状態を味わいながら、うな垂れる気分を採用という幸運で何とか保ち、今度こそ家路へと足を向けたのだった。
「エース!受かったよ!」
「まじかよ!?良かったな」
「来年からは先輩だね!呼ばないけど」
「そこは呼ぼうぜ。いや、呼べ」
「えー、気持ち悪いから却下。ゲロでちゃいそう」
「オレ…嫌だぜ…お前みたいな後輩」