マルコ社会人編 | ナノ
#46 愛情の再確認
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臨月に入り、自分の足元さえ見えない程大きくなったお腹で悪戦苦闘しながらも、ローから何の音沙汰もない事が気に掛かっていた。
何故何も言ってこないのか、もうどうしようもないと諦めたのか。
事実産まれてくる子が仮にローの子だったとしても、法律上ではマルコさんの実子扱いされる。
何かアクションを起こすのならば、産まれてくる前でないとローに勝ち目はないだろう。
そんな事を考えていると頻繁に張るお腹に鈍い痛みが襲ってきた。
「っ、痛っ」
「っ!#name#っ!陣痛かい?」
「ち、違います、いつものやつです」
「そ、そうか。ほら、横になれよい」
出産が近付くにつれ、日に何度もこういった症状が現れるようになった。暫く横になれば治まるのだが、なんせ息が詰まる程、痛い。
「はぁ…、もう大丈夫ですよ」
「そ、そうかい、腹、擦ったがいいかい?」
「いいえ…大丈夫です」
「な、な、何すればいい?」
「フフ、大丈夫ですよ」
痛みに顔を歪める私に、オロオロと狼狽えながら見つめるマルコさんについ出てしまう苦笑い。
気に掛けてくれるのはとても嬉しいが、正直彼の出来る事といえば見守るくらいしかない。
そんな心の声が聞こえてしまったのか、突然目を輝かせたかと思えば何やらゴソゴソと鞄を漁りだした彼は、雑誌のような物を私の鼻先に突きつけてきた。
「これ、試してみるかい?」
「何ですかこれ…夫婦で出来る安産への…」
「おう。ここの、これ、俺にしか出来ねぇだろい?」
「……おっぱい…マッサージ、ですか?」
何事かと思えば、出産までのノウハウが書かれた参考書を得意気に見せ付け、しかもタイトルは夫婦で出来る安産への道ときたもんだ。
そんなものをマルコさんが読んでいた事に思わず笑いが込み上げてきたが、目の前の彼はいたって真剣でその本を食い入るように見つめている。
「あ、でも産院でいつもやってもらってますから…」
「なっ!?そ、そうかい…」
酷くしょんぼりと項垂れたマルコさんを目の前にじわじわと沸いてくる居た堪らなさ。
「あ、で、でもたくさんした方がいいですよね、お願いします」
「ほ、ほんとかい?じゃぁ早速始めるかねい」
「は、はぁ、」
意気揚々に支度を始めだす姿にほっと息を吐き、私が母親になる自覚を持ち合わせて行くように、彼もまた、父親になる自覚を意識してくれているのかと、見えない心内に胸が綻んでいく。
「よし、始めるかい。さ、ぬ、脱げよい」
「……」
感動にも似た感情に浸っていた私は、蒸しタオル片手に戻ってきた彼の表情を見た途端一気に現実へと引き戻された。
あからさまに鼻を伸ばし胸の辺りを凝視しているマルコさんに思わず眉間に皺が寄る。
彼はこんなにむっつりだったかと疑問が飛び交う中、固まっている私にキョトンと首を傾げる彼に堪らず吹き出してしまった。
「な、なんだよい…」
「あ、ごめんなさい、フフ。胸ですね、はい、お願いします」
「……お、おぉ」
離れていた所為もあるが、新たに見えてくる彼の一面を発見していく度に胸の高揚が止まらない。
まだ不安は完全に拭い去ることは出来ていないが、彼とならきっと大丈夫だと、愛情の再確認ができたのだった。
「痛っ!痛いです!」
「は?いや、でも、痛くてもやれって書いてあるよい」
「もう無理です止めてください」
「え……」
「産院ではこんなに痛くないんですけどね」
「………よぃ」