マルコ社会人編 | ナノ

#45 伝わらない想い



マルコさんがこの日の為に用意した場所は、落ち着いた雰囲気でお座敷タイプの個室だった。
特に問題はないのだけれど、わざわざこんな部屋をと高そうな佇まいに少し恐縮してしまう。


部屋へと案内されながら、体を労るように腰に添えられた手に緩く笑みを返し、まだ来ていないローに少し不安が舞い戻る。

まさか来ないなんて事はないと思いながら隣に座る彼をチラリと伺えば、少し目尻を下げ落ち着かせるように頭を撫でられた。

ここに来るまでに言われた全て任せておけという言葉。

とても頼れるその言葉にも、素直に身を委ねる事は出来なかった。

今までローと過ごしてきた時間。
その中で培ってきた関係は二人にしか分からないし、私の気持ちも、ローの気持ちも、マルコさんには完全に伝わらないだろう。

やはり私の言葉で、きちんと彼に伝えなければいけない。
そう強く思った。



そうして間もなく現れたローにビクリと硬直する私をよそに、悠然とした態度で軽く頭を下げたマルコさんはローに向かいの席を勧めた。

仲良く隣に座る私達を見た瞬間、顔をしかめ何かを悟ったように向かいに腰を下ろすローは、浅く溜息を吐いた後鋭く言葉を口にする。

「だいたい予想はつくが、どういう事だ?」

「っ、ロー…私マルコさんと結婚したの」

「…あ?なにを…」

「単刀直入だがそういう事だ。#name#と子供は俺が幸せにする」

「てめぇ…なにを勝手に」

「ロー!聞いて!」

マルコさんの言葉を聞くや否や、物凄い形相で掴み掛かろうとするローに声を張り上げ制止をかける。

怒るのも当然だ。
でもそれを覚悟でこの場を設けた。
納得してくれるまで話すしかないと、未だ怒りを露にするローに向き合い真剣な眼差しと共にマルコさんへの想いを口にする。

血の繋がりなんて関係ないと言ってくれた事、今までずっと忘れられなかった事。
そんな想いを悲痛な瞳を向けるローに伝えていく。

全て言い終えると、ギリリと奥歯を噛み締めながらローが立ち上がった。

「納得できねぇ…」

「ロー…」

「惚れた女が自分の子を産むかも知れねぇんだぞ!」

「っ、」

「納得できるか、そんな話…」

「おい、…頼む。分かって、くれよい」

「マ、マルコさん!止めて」

私の話してる間、静かに見守るように沈黙を続けていた彼の声にふと目を向ければ、ゆっくりと額を畳に押し付ける姿が飛び込んできた。

そんな彼に止めてくれと声を掛けるも、黙ってろと、その有無を言わさぬ口調で胸の内を晒していく彼にぐっと押し黙る。

これからは男同士の話なのだろうと、伝えるべき事は全て伝えた私は愛しい彼の覚悟に溢れそうな涙を必死で堪えた。

普段人の上に立つ、しかも大の男の土下座姿に胸が締め付けられる。
いくら私の為とはいえ、歳の離れたローに頭を下げるのは彼にとってもかなり屈辱的だろう。


痛いくらいの私の心情が伝わったのか、それとも彼自信居たたまれなくなったのか、そんなマルコさんの姿にローは出口へと足を向けた。

「悪いが…、納得できねぇよ」

「ロー…」

「……」

逃げるように捨て台詞を吐き去っていったローを見届け咄嗟にマルコさんにしがみ付く。

こんな真似をさせて申し訳ないと、溢れだした涙と共に何度も謝罪する。

そんな私を宥めるように緩く抱き締める彼は、気にするなと、私の為なら何度だって頭を下げると、そう口にしてくれた。


それから何の音沙汰もないローを気にしながらも時は過ぎ、気付けば出産予定日は一月前に迫っていたのだった。

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