マルコ社会人編 | ナノ

#44 新たな生活



「なんかあったらすぐ連絡しろい」

「何もないですよ、」

「昼過ぎには一度戻るからよい」

「ー、大丈夫です」

「いいや、ダメだ。じゃぁ、行って…くるよい」

とても名残惜しそうに扉の向こうへ消えていったマルコさんを見送りほっと溜息を吐く。

別に嫌なわけではない。彼の側にこれから先一緒にいられる事はとても嬉しく幸せだ。

しかし、全ての不安が消えた訳でもなく、何から何まで世話を焼いてくれる彼にも戸惑いと申し訳なさは拭いきれないでいた。


あの日判子を押してから数日と経たぬ内に手際のいいマルコさんらしくあっという間に事を進め、産まれてくる赤ちゃんを配慮した新居に、あらゆる書類の手続き、そして私の実家にまで連絡を入れ、気付けば私のする事は何もなく至れり尽くせりの生活が用意されていた。

そうして先程告げられた通り、忙しい身の彼は暇さえあれば私の安否を確認しに帰ってくる。

大丈夫だと何度伝えても彼の過保護振りは治らず、家事一切させてもらえぬ私は実を言うとかなり暇を持て余していた。


そんな中やはり一人になった部屋で考えるのは、この子の父親はどちらなのか、マルコさんは本当にこれでいいのか、厭でも訪れるその時が未だに不安で頭から離れない。

そしてもう一つ。
今の状況を何も告げてないローの事。

ここに来て半月。マルコさんもローの事は何も口にしない。
かといって私一人で話をしにいく事も出来ず、このままうやむやにするのは、やはりいけないと、深い溜息が後を絶たないでいた。



「#name#、果物買ってきたよい」

「あ、おかえりなさい」

「具合はどうだい?ん?」

「大丈夫ですって、それより…、マルコさん、」

「なんだい?」

買ってきた袋を無造作に放り出し、何かを確認するように身体中を撫で回す彼の手を掴み真剣な眼差しを向ける。

「ロー…、トラファルガーくんの事なんですが――」

「―あぁ、そういや忘れてたな」

「話しに行っても、いいですか?」

「――、俺も行くよい」

「、はい」

その名を出した途端バツの悪そうな顔を見せた彼だが、やはりきちんと話をしなければいけないと、そう切り出せば浅い溜息の後頷きを見せた。


そうして数日後、ローと話を着ける為に私達は約束の場所へ向かう。

マルコさんと共に向う車の中で、憂鬱な気持ちが渦巻き溜息が漏れた。

ローはきっと納得してくれないだろう。あまりにも自分勝手過ぎる私に怒りすら覚えているに違いない。
彼には本当に下げる頭もない程謝罪感でいっぱいだ。

それでも私はローではなくマルコさんを選んだ。
当初の予定とはだいぶ違ってしまった結果だが、自分で決めた道だと強く拳を握り締める。

そんな不安な気配を感じたのか、大丈夫だと無言のまま包むように重なった手に堪らなく安心感が込み上げてきた。

彼とならきっとどんな試練も困難も乗り越えられると、そんな想いを抱かせるその手を強く握り返したと同時に消えたエンジン音に、ゆっくりと息を吸い込み覚悟を決めた。

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