マルコ社会人編 | ナノ
#43 響いた言葉
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「ダメだよい」
「…でも」
「絶対ダメだい」
「っ…マルコさん…」
あれから気の済むまで彼の胸で泣いた後、まるで決定事項の様に告げられた言葉に…素直に首を縦に振れない私がいた。
「頑固だねぃ…」
「だってっ…私は…」
「血の繋がりなんか関係ないって何度も言ってるだろい?」
「でもっ…でもやっぱり…ダメですよ」
「なんでだい?」
「それは…」
この先、共に暮らそうと言うマルコさん。
血の繋がりなんか関係ないと、産まれてきた子どもが自分の子でなくても構わないと、そう真剣な眼差しで告げられた。
しかし、いくらそんな事を言われようと、必ず心の奥底に潜む隔意した気持ちが現れるに違いない。
自分の子どもではない子を誰が心の底から愛せるものかと、私はそう決め付けどうしても彼の申し出を受け入れられないでいた。
それにこれから彼と暮らし始め、マルコさんの子だったらと僅かな期待を持ちそうな自分も怖い。
「はぁ…なんでわかってくれねぇんだい?」
「嫌なんです…期待しそうで」
「何を?」
「この子が…マルコさんの子だったらいいなと…思う事が」
「…そんなに問題かい?」
「大問題です。だって…っ」
「じゃぁよい、はなっからオレの子じゃねぇって思うのはどうだい?」
「…」
「そしたらそんな悩まなくても済むだろい?もともとオレは気にしねぇんだからよい」
「気にしないって…ありえません」
「…#name#。オレと親父、後兄弟達もよい、血は繋がってねぇがそんな事気にした事はねぇよい」
「それとこれとは…話が違いますよ」
「一緒だよい。他の奴は知らねぇが、オレには血の繋がりなんて関係ないんだい」
「マルコさん…」
頑なにそう告げる彼を見つめながら、少しだけそうかもしれないと思う気持ちが生まれた。
確かにマルコさんの家族と言われる人達とは、誰一人として血は繋がっていないと聞いた事がある。
そういう環境で育った彼だ。ほんとに自分の子じゃなくても愛してくれるのかもしれない。
初めからローの子だと思って産む…でもそれはそれで何かおかしな気がしてならない。
未だ申し出を受け入れない私に痺れを切らしたのか、マルコさんの空気が少し変わり鋭くなった目線と共に口が開きかけた瞬間、勢いよく扉の開く音が響き息を切らしたエースが飛び込んできた。
「#name#…お前何やってんだよ!!」
「エース…」
「ったく心臓止まるかと思ったぜ…なんでこんな…」
「っ…ごめんなさい」
「おい、それよりあれは?」
「ぁ…あぁ取ってきたぜ」
「よこせよい」
その突然の訪問者に目を背ける私をよそに、言葉を飲み込み待ってましたと言わんばかりに書類の様な物を受け取った彼は、中を確認するなりすらすらとペンを走らせ、私の鼻先にその書き終わった紙切れを押し付けてきた。
「……!?こ、これ…婚姻届じゃないですか!?」
「あぁ。ほら、ここに名前と本籍…あと判子押せよい」
「なっ!?いきなりこんなっ…マルコさん、わたし」
「#name#はオレと結婚するんだよい。ほれ、早く書けよい」
「待ってくださいっ!私は…」
「#name#。つべこべ言わず早く書けよい」
「そうだぜ、諦めろ#name#」
「なっ、エースまで…」
「あーもう、ほら、判子だけでも自分で押せよい」
「ちょ、マルコさんっま、ま、待って…ぁ…」
「よし。エース、必要な箇所書いて出してこいよい」
「了解」
「ま、待ってっ!エースっ!」
いきなり婚姻届を突き付けられ、困惑どころではない動揺振りを見せている私の手に判子を握らせたマルコさんは、その手を上から力強く握りしめ強引に誓いの印を紙に植え付けた。
それを確認するなり素早く紙を取り上げエースに託した後、満足げな笑みを漏らししてやったりな顔をこちらに向けてくる。
「マルコさん…」
「これで…オレと#name#は夫婦だねい」
「っ…酷いです。勝手にこんな…」
「このくらい強引にしなきゃよい、いつまで経っても頷かないだろい?」
「っ…」
「心配すんなよい、これからはオレがずっと傍にいる。安心して元気な子を産めよい」
「…マルコさん」
「なっ?#name#…」
「っ…っつ」
かなり横暴なやり口だが、彼の言うようにこのくらい強引な態度で接してくれた方が、正直物凄く気が楽な自分がいた。
血の繋がりなんか関係ないと言う彼の言葉を信じてみようか?
少し困った様に微笑みながら真っ直ぐ見つめてくる彼を見て、私が思っている様な心配事も、不安も、全て包み込んでくれそうな気がしてきた。
そしてなにより、なによりもずっと傍にいると言ってくれたマルコさんの言葉が、暗雲が垂れ込めていた心にずしりと響いたのだった。