マルコ社会人編 | ナノ

#42 晴れていく闇



すぐ近くで交わされる話声にじわじわと意識が浮上していく。
懐かしく、そして心の深い所が温かくなる様なその声色に、少し体を捩った後ゆっくりと瞼を開けた。


「お、#name#気がついたか?」

「…シャン…クスさん」

目を開けた途端飛び込んできた彼の安堵した表情と、繋がれた点滴や見慣れぬ部屋からすぐに状況を把握した私は咄嗟にお腹に手をやり確認する。

「はぁ…よかった…」

僅かに存在を主張するように動いたお腹に心の底から安心した。そうして自分の犯した過ちを思い出し、後悔と罪悪感に苛まれる。

この命を宿した時、あんな身を削る様な想いまでして守ろうと誓ったと言うのに。やはり私には母親になる資格さえないと、言葉だけでは償いきれないこの行いを振り返り思考がどんどんと暗くなるのを感じていた。


「#name#…大事に至らなくてほんとによかった」

「っ…ぁの…わたし…」

「安心しろ。お腹の子も無事だそうだ」

「…っ」

「まぁ…言いたい事は山程あるが…オレはもう#name#の我儘を聞いてやらんぞ」

「っ…ぇ…」

「そんな顔するな、大丈夫だ。ただ…もう#name#に残された選択権はないって事だ」

「…シャンクスさん?」

「準備はいいか?」

「ぇ…」

「マルコっ!入ってこい」

「っ!?」

自己嫌悪に陥っていた私を宥める様に繋がれた言葉から一変、急に真剣な眼差しで口を開きだした彼から飛び出た名前に瞬時に身体中が強張った。

そうしてすぐに開かれる扉の音。足音。そして、

「…#name#」

「っ……」

逢いたくて逢いたくて、その想いを必死で抑え込み、あの日から今まで忘れた事のない、そして今でもこんな過ちまで犯してしまう程好きで堪らない彼の目と視線がぶつかった瞬間、小刻みに震えだす身体と溢れる様にこぼれ落ちる涙を隠すように俯いた。

「マルコ…後は任せたぞ」

「あぁ…ありがとよい」

彼等のそんな会話を聞きながら、この状況に胸が苦しいくらいにざわつき、そして隠しきれそうに無い程震える身体を鎮めようと毛布をきつく握り締める。

すぐ側で感じるマルコさんの気配。しかし感動の再会のような胸の高鳴りはなく、あんなに愛しくて気が狂いそうな程逢いたかった彼から、私は一刻も早く身を隠したい衝動に駆られていた。

そうしてそんな願いが通じる筈もなく、浅い溜息が聞こえたと同時に落ち着いた、それでいて有無を言わせない重圧を含んだ声色で彼が口を開く。

「#name#…こっち向けよい」

「……」

「#name#」

「っ…」

その命令とも取れる言葉に、気まずさと罪悪感とそれから言いようがない切迫感をぐっと呑み込み、意を決しゆっくりと顔を上げれば…

「つっ!!」

「何を考えてるんだい!?こんな…バカな事…」

「……」

「…二度と、二度とするんじゃねぇよい」

「っ……」

顔を上げた瞬間パシリと乾いた音が部屋中に響き、事の把握もままならない間に体が引き寄せられ少しきつめに抱き寄せられた。
そうして僅かに震える声で話し出す彼の胸の中で、やっと、眠っていた胸の高鳴りが動き出す。

「逢いたかったよい…」

「っ…」

「こんな…バカなことするまで見付けてやれなくて…悪かった」

「マ、マルコ…さ」

「もう大丈夫だからよい、もう一人で抱え込まなくていいんだい」

「……っ」

「これからはオレがずっと傍に居るからよい」

「グズッ…っ…」

「#name#………愛してるよい」




今まで必死で張っていた虚勢が彼の一言で意図も簡単に崩れだした。

愛してる。まさかそんな言葉をもらえるなんて思いもしなかった私は、だんだんと光が射していく未来を感じながら、ただひたすら彼の胸にしがみ付き溜め込んでいた想いを吐き出すかの様に泣きじゃくったのだった。

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