マルコ社会人編 | ナノ
#41 覆い尽くす闇
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数ヵ月振りに訊いたマルコさんの声に、予想はしていたものの、それ以上に波打つ気持ちと込み上げる想いが強過ぎて、息をするのも忘れ一瞬で頭が真っ白になった。
《…もしもし?》
「っ…」
《…あー、誰だい?》
「ッ…」
《………………………》
「………………………」
《………………………》
「………………………」
《もしかして……………#name#かい?》
「っ!?」
《#name#…なのかい?》
「っ…………………は……ぃ」
《っ!!なっ!#name#?ほんとに#name#か!?》
「………ぃ」
《#name#!今どこに居るんだい!?身体は!?大丈夫なのかい!?あーいや、そうじゃなく…っ…くそっ》
狼狽して言葉に詰まる私は、予想していなかった彼からの問い掛けに酷く動揺する。その言葉に漸く絞り出した肯定の言葉は、かろうじて音となり吐き出された。
そんな突然の私からの電話に、マルコさんはたじろぎながら言葉を詰まらせている。
正直、もっと冷静な態度で対応するだろうと踏んでいた私は少し驚いた。
それでも震える手は止まりそうになく、これから彼に告げなくてはならない言葉に胸が締め付けられながらも、用意した言葉はどんどん白く塗りつぶされていく。
《#name#…今どこに居るんだい?》
「…………」
《#name#?頼む…答えてくれよい》
「…………っ」
《#name#…………逢いてぇよい…》
「っっ!!」
苦しそうに吐き出された彼の言葉に、すぐそこまで込み上げていた涙が零れ落ちた。急速に鳴り響く心音に胸を押さえながら、真っ白な頭が漸く導きだした言葉は…
「……ご…ごめんなさ…い」
《っ!?あ、謝るなよい!#name#は謝る必要なんかねぇんだ!》
「…ごめん…なさ…ぃ」
《#name#…いいから。大丈夫だからよい、居場所を教えてくれないかい?》
「ご…めんな…さぃ…」
《#name#!居場所を…すぐ行くか》
「ダメ!……ダメなんです…ダメ…」
《っ…大丈夫だよい。逢って話さないかい?》
「ダメです…逢えません」
《#name#…》
逢いたいと言ってくれたマルコさんに、今まで築いてきた決意がぐらぐらと傾き出した。私だって逢いたい。逢いたくて逢いたくておかしくなってしまう程彼への気持ちがまだ根強く残っていた事を思い知らされる。
そんな揺らぐ私の心を、シャンクスさんの言葉が不意に甦り打ち消した。
「…忘れてください」
「っ!?何言って…」
「忘れてください…私の事は…」
「なっ!?バカな事言ってんじゃねぇよい!」
「っ…ごめんなさい…忘れてください」
「お、おい!待て!切るなよい!?おい待」
もう限界だった。もっとちゃんとした言葉で伝える筈の想いは、謝罪と簡潔な単語しか出て来ず、震える手は戸惑いながらも彼の声を遮断した。
小刻みに揺れるその指は、そのまま電源を落とし固く握られる。
逢いたい。好きで好きで堪らない。声を訊いて制御しきれない想いが溢れ出す。
何故こんな苦しい別れを選択してしまったのか?
本当にこれが自分の望んだ結果なのか?
こんな気持ちのまま、こんなどうしようもない私が、母親になんてなれるのだろうか?今はその資格さえ無いように思える。
そして真っ白だった頭はじわじわと黒に染まっていき、その闇は未来への光明までも覆い尽くしていった。
このまま、彼を引き摺る気持ちを抱えたまま、この子を産み育てるなんて出来ない。もしも…もしもマルコさんの子じゃなかったら…
そんな事を思うと畏怖した心が膨れ上がった。
テーブルの上に溜まっていく涙を見つめながら虚脱感に覆われ、既に未来への不安と闇に覆い尽くされた私はもうどうにもならず、無意識におぼつかない足取りでキッチンへと向かう。
何も考えられなかった。全てが億劫で仕方なかった。
何もかも…全部。
そして手首から滴る生暖かい感触だけが鮮明に浮かび上がる中、どんどん遠のいでいく意識の中で見たものは…あの日のまま、変わらぬ優しい顔で微笑んでくれるマルコさんの笑顔だった。