マルコ社会人編 | ナノ

#40 ケジメと決意



「あっ…おかえりなさい」

「おぅ。気分はどうだ?」

「全然問題ありませんよ。あ…いろいろとすみません」

「ん?気にすんな。それより不自由な事はないか?」

「はい!大丈夫です」

あれからシャンクスさんに使っていないというマンションを用意され、今に至る。
生活していく上で必要な物は全て用意してもらい、本当に下げる頭も見当たらない。

「何か要るものがあったら遠慮するなよ?#name#は言わねェからなぁ」

「そんな事…でも本当にありがとうございます」

「いいんだいいんだ。よーし、今日はオレもここに泊まるかな」

「え?」

相変わらず能天気…いや、楽観的な彼は、いきなり泊まるなどと思い立った様に口にした。
彼の家だ。泊まるも何も自由なのだが…

「ベット…一つしかないですよ?」

「ん?そんなもん、一緒に寝るさ」

「…はぁ」

「お、そうだそうだ…こいつを持っとけ」

「携帯?」

「この家は電話引いてないからな。何かあった時に必要だろ?」

「はい…ありがとうございます」

この身体だ。そう言う心配は全く無いのだけど…やはり少し照れ臭い。
それでもいつの間に持ち込んだのか、あっという間に部屋着に着替え寛ぐ彼を見て微笑ましくも苦笑いがでる。

それから細々と片付けなどをしていると、そろそろ寝ようかと言う彼に促され共に寝室へと移動した。

「#name#…そんなあからさまに背を向けなくても…」

「あ、いえ違うんです。横向きじゃないとお腹が苦しくて」

「あぁ…成る程な。じゃぁこっち向けばいいだろ?な?」

「…はい」

「よし!いい子だな。で…少し話しでもしようか?」

「話…ですか…?」

「あぁ。そうなだな…ずばりマルコの話だ」

「っ…」

「今日…マルコが会社に来た」

「ぇっ…」

「会いたがってたぞ?猛烈にな」

「…」

「どうしても…会いたくないか?」

「……はぃ」

「でもな、#name#。マルコに知られてしまった以上、もう#name#だけの問題じゃないんだぞ?」

「……」

「あいつ…苦しそうだったぞ?#name#と同じくらいにな」

「っ…」

「オレは…この先、マルコと共に過ごすつもりがないって言う#name#の気持ちは理解しているし、それでもいいと思う」

「……」

「でもな、このままマルコに何も話さず逃げ回ってばかりいたら…あいつは前に進めないだろ?」

「っ…」

「ん、#name#の口から、ちゃんとその意思をマルコに告げてやらなきゃ…あいつはこの先ずっと、煮え切らない気持ちのまま過ごさなきゃならない」

「……っ」

「だから…言ってやってくれないか?マルコを…楽にしてやってくれ」

「…ら…く」

「あぁ。きっぱり、マルコに傍には居れないと、言ってやれ。これは#name#の義務でもあるぞ。」

「……でも」

「このまま逃げ回って、マルコに蟠りを残したまま過ごさせる気か?知られてしまったものは…元には戻せないんだぞ?」

「……」

「大丈夫だ。後の事は…#name#の事も含めて、全てオレに任せておけばいい」

「…シャンクスさん」

「だから…マルコにきっぱりと最後の別れをしてやれ。電話でもいいから。」

「……」

「それで…マルコも#name#も、前に進める」

「………」

「な?」

「……は…ぃ」

「ん。辛いだろうが…ケジメは必要だ。頑張れ、#name#」

「…はい」


もっともだと思った。マルコさんにこの事実が知られてしまった以上、逃げ回ってばかりではいけないと、私だって思っていた。

それでも、彼に逢う事はどうしても戸惑ってしまう。必死に閉じ込めていた想いが溢れ出しそうで…いや、絶対に溢れ出すだろう。
もし…傍にいてくれなんて言われたら、確実に心が揺らぎそうで怖い。

出来れば避けたい行為だが、シャンクスさんの言うようにマルコさんに蟠りを残したまま過ごさせるのはいけないと思った。
それが嫌で、あんな形で姿を消したのだから。


そんな憂鬱な気持ちと使命感が入り雑じった心で朝を迎える。
出掛けに頑張れと頭を一撫でしていったシャンクスを見送ってから、静かに椅子に腰掛け渡されたメモを見つめた。

紙には数字の羅列と…マルコさんの文字。
結局臆病で卑怯な私は、電話で告げる選択をした。

紙に書かれたマルコさんの文字を見ただけで、煩いくらいに心臓が音を立て胸が苦しくなる。
こんな調子で彼の声なんて聞いたら、間違いなく上手く喋れる自信がない。
それでも避けて通れぬこの難題に勇気を振り絞りボタンに手を伸ばした。

マルコさんの為にも…私の為にも…そして何より産まれてくる子に不安な顔を見せない為にも、ここはきちんとケジメを付けなければいけない。

そんな決意を抱きながらも震える手は抑えられず、耳に響く呼び出し音にどうしようもなく気持ちが歪み始めていたのだった。




《……はい》

「っ…」

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