マルコ社会人編 | ナノ
#38 巡る逃亡劇
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シャンクスさんの家に来て一週間が経った。彼との暮らしも大分馴染んできた所だ。
さりげなく私の体を気遣ってくれ、忙しい身でありながらも何かと世話を焼いてくれる。
それでも煙たがる様な素振りは微塵も見せない。人との関わり方が絶妙に上手なのか、元からそう言う性分なのか、とにかく何もかも感謝してもしきれない思いで一杯だ。
しかし、掃除も洗濯も買い物さえもさせてもらえず、何かないかと肩身の狭い私がこれだけは譲れないと強引に押し通した事があった。
そうして、唯一お許しが出ている彼への恩返しが…
「ただいまー!おぉ!今日も美味そうな匂いがするなぁ!」
「お帰りなさい、すぐ食べますか?」
「おぉー食べるさ!食べる!」
「ふふ。すぐ用意しますね」
唯一許されているのがこれだ。食事を作るという事。
いつも外食ばかりだと言うシャンクスさんに、せめてもの恩返しにと台所を任させてもらった。
「いいな…帰ったら灯りが付いてて美味そうな匂いに迎えられ、そしてなりより#name#の笑顔!俺は幸せだ!」
「ぇ…ぁ、はい」
「なんだよ、ノリ悪いな。新婚ごっこみたいで楽しいだろ?」
「……は、はあ」
「ハハ、なんならこのまま俺と結婚するか?ん?」
「いや…何言ってるんですか!もう…」
こうして日々からかわれながらも、シャンクスさんにはエースを思わせる雰囲気を感じてしまって、こんな冗談を言われても自然と嫌な感じはしなかった。
「しかしもうすぐ産まれんだろ?まだエースにもここに居る事言ってないのか?」
「…はい」
「もう一週間経つ。あいつの事だ。心配してるぞ?」
「…明日…電話します」
「あぁ、そうしてやれ」
急に真剣な表情になった彼に、私はただ頷くしか出来なかった。でも、正直言うとエースに話すのは少々不安が過る。
エースはマルコさんに弱い。詰め寄られでもしたら直ぐに口を割りそうな気がしたからだ。
マルコさん…。マルコさんならきっと、きっと自分の子かもしれない可能性があるならば私と話をしたい筈だ。その辺はきちんとケジメを着けそうな人だから…。
でも私は逢いたくない。いや、逢ってはいけない。
彼に逢ってしまえば、間違いなく弱い自分が溢れ出してしまいそうで怖かった。
このまま逢わないでいる事が、私にとってもマルコさんにとっても最善の策だと信じている。
そうして迎えた翌日。シャンクスさんを見送ってから、今日は定期検診に行く為に身支度を始めた。
この間の検診では残念ながら判らなかったが、今日辺り性別が判るかもしれない。
そんな楽しみを控えながら、昨夜シャンクスさんと約束したエースへの連絡を思い出し溜息がでた。
エース…しっかり私の気持ちを伝えれば解ってくれる筈。そう信じて受話器を取り、まだ自宅に居るだろう彼に電話を掛ける。
《はい》
「あ、エースおはよう」
《あ!#name#!お前何処にいるんだよ!》
「あ…ごめん。実は…」
《なっ!?まさに灯台もと暗しだな。シャンクスの奴一昨日会ったってのに…》
「うん。で…絶対マルコさんには…」
《あぁ…あのよ、その事なんだが…大丈夫だ!》
「…なにが?」
《いいから、マルコに会えって。話、してみろよ。》
「嫌だよっ!…聞いてた?今の話?もう…エースに言うんじゃなかった!」
《おいっ、大丈夫だって言ってんだろ?とにかくマルコと話を――――》
失敗した。エースなら私の気持ちを理解してくれると思っていたのに…とんだ計算違いだ。
そんなエースが何か話していたが、途中で無理矢理会話を中断させた。
話すだけ無駄だ。次の策を考えなければいけない。
あの様子では確実にマルコさんに話すだろう。
そうなればここへ来てしまう。
これは最終手段に取っておいた策だが、もう両親の居る海外へ行くしかない。さすがにエースも両親の居る住所までは知らないからだ。
しかし一つ問題があった。
実を言うと両親にはまだ妊娠の事を話していない。確実に反対されるのが目に見えていたから。
ならばもう産んだ後に報告しようと考えていたが…仕方がない。
そんな覚悟を決めながら検診に行くまでの僅かな時間でテキパキと荷造りをし、シャンクスさんに事の成り行きを報告しなければと電話を掛けた。
短い間だったがもうここにも居られない。
しかしシャンクスは首を縦には振らず、私に新たな道を用意してくれた。
彼の助けにまたもや肩身の狭くなる一方の私は、それでもマルコさんに逢うわけにはいかないと、また違う場所に身を隠す事になる。
そうして出産まで後3ヶ月弱。私と彼のすれ違いの日々はまだ終わる事はなかったのだった。