マルコ社会人編 | ナノ
#37 二人の想い
![](//static.nanos.jp/upload/j/jyuira/mtr/0/0/20110915235804.gif)
「この部屋を自由に使ってくれ」
「はい、ありがとうございます」
「んー、他に必要なもんがあったら遠慮なく言ってくれな?」
「っ、すみません」
「気にするな!#name#は無事子供を産む事だけ考えてろ。な?」
「っ…はい」
お言葉に甘えてやって来た彼の部屋は、確かに一人で住むには十分過ぎるほどの広さがあり、毎日やって来ると言う家政婦さんのお陰で部屋は綺麗に片付けられていた。
エースには念を押して後で報告しよう。マルコさんが知ってしまった以上私の居場所が分かる所へは帰れない。
「ちょっと会社に戻らなくちゃならねぇが…ゆっくりしててくれ」
「はい、気を付けて」
「悪いな」
「いえ」
申し訳なさそうな顔をしながら扉の向こうに消えていったシャンクスさんを見送ってから、上等な革張りのソファーに力が抜けた様に身を沈めた。
他人に世話にならないとどうしようもないこの状況に、深い溜息と自分の無力さに嫌気を感じる。
こんな事で私は母親になんてなれるのだろうか?一人じゃ何もできない。
やはり父親無しで子を産み育てるのは無謀だったのだろうか?
目を閉じればマルコさんの顔しか浮かばない。
この事実を知った今、彼はどう思っているのだろう。
同時進行で他の男と関係を持っていた私に呆れているだろうか?
嘘を付きあんな形で会社を辞め姿を消した事を怒っているだろうか?
それとも…私の事など既に記憶の片隅に追いやっていて忘れているだろうか?
考えれば考えるほど気持ちが沈んでいく。
彼に知られた事はなんの利得にもなる筈もなく、ただ、ただ私の心を深い谷底へと突き落とすだけだった。
それでも弱い私は彼を忘れられない。
今でも瞬時に蘇る彼の香り。温もり。声に表情。
もう何ヵ月も逢っていないにも関わらず、全て昨日の事の様に思い出せる。
逢いたい。
マルコさんに逢ってこの不安定な心と体を抱き締めてもらいたい。
そんな叶う筈もない願いが頭を過りながら、私は胸が締め付けられる想いに襲われていた。
「何で帰って来ないんだい?」
「いや…オレに言われても、な」
「どこに行ったか検討くらいつくだろい?」
「…さっぱりだ」
「ちっ、使えねぇよい!探して来い!」
「は?大丈夫だって。身の危険はねぇよ」
「身の危険はなくても寂しい想いをしてるかもしれないだろい!!」
「……会い辛いんだろ、やっぱり」
「…オレは逢いたいよい」
「……だよな」
「…よい」
#name#がまた姿を消しちまった。会い辛い気持ちはわかる。わかるがそんなもんオレが掻き消してやるのに。
一体どこに行っちまったんだい?腹もでかくなってる筈だ。身体は大丈夫なのか?
#name#の事を考えれば考えるほど不安と焦りが込み上げてくる。
話したい事は山程ある。
伝えたい想いも数え出したら切りがない。
忘れようと思った。突然オレの元から去った彼女を何度忘れようと思ったか。
それでも、それでも自分には嘘はつけねぇ。
それにこんな事実を知っちまった以上、尚更オレは彼女を傍に置いておきたい。
#name#…何処にいるんだい?
逢いてぇよい…
そんな#name#への想いで溢れそうなオレは、彼女が今どんな想いを抱いているかも知らず、唯一のパイプであるエースに心の底から悲願の念を送り続けていたのだった。