マルコ社会人編 | ナノ
#34 彼の想いと決意
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目の前の男は、至って冷静にオレの手をほどき"落ち着け"と言い放った。
「っ…すまない」
「いや、昨日はオレもそんなもんだったからな。動揺して当たり前だ」
「…っ」
再び腰掛け、共感めいた言葉を聞きながら一気に冷静さを取り戻した。
こんな若造前に何をしているんだと。
多少自己嫌悪に陥りながらも、今ではすっかり敬語もなくなった隈のある男の目を、まるで射ぬくかの様に見据えながら口を開く。
「#name#は…何て?」
「勿論産むそうだ。父親は要らないんだと」
「っ…そうか。話しは大方わかったが…君がここへ来た理由はなんだい?」
「フッ…そうだな。まずーーー」
オレは一刻も早く#name#の元へ行きたく、話の結末を煽るように問い掛けた。この驚愕の事実を、彼女の口から、そして自分の目で確かめたかったからだ。
しかし、またもやこの爆弾小僧はオレの精神を揺るがす発言を落としてきた。
「は?」
「…意味が解らなかったか?つまり、産まれてきた子供がオレの子だったらオレが。あんたの子だったらあんたが面倒看るって事だ」
「それは…#name#も了承しているのかい?」
「いや。だがオレ達が知ってしまった以上、これが得策だろう?」
「いや…しかし…」
しかし…彼女はそれを望んではいないんではないかと思った。
だったら包み隠さず話していた筈だ。
それに…この話が事実だとしたら、オレにとってはどちらの子だってさして問題はない事だ。それよりも…
「ーーーだからそう言う事でいいか?」
「っ?あ、すまない。何だ?」
「…しっかりしてくれよ。こんな大きな会社の役員さんがよぉ」
「…あぁ。で?」
「近々三人で話し合いをしたい。産まれてくる子供の為にも、血の繋がった父親が不明なんて可哀想だろ?」
「あぁ…そうだねい…」
「じゃ、そう言う事で」
こいつの意見には賛成していなかったが、兎に角早く話を切り上げ彼女の元へ向かいたかった。
父親が不明だと可哀想だと?オレは血の繋がった父親なんて顔すら見た事ねぇよい。
オレにとって血の繋がりなんかはどうでもいいんだ。それよりもだ!それよりも今、彼女が一人悩み苦しんでいるのではないかと思うと、居ても立ってもいられなかった。
一人考え、悩み、この決断をどんな思いで決めたかと思うと、傍に居たというのに気付けなかった自分に腹が立った。
#name#に逢いたい。しかし、今何処にいる?
連絡の取りようがないこの状況に、やはり浮かんだのは…
「遅い。三分経ってるよい…」
「はぁ…はぁ…一分で来いなんて…無茶言うなよな…で?な、何だよ?」
「#name#は何処にいる?エースの家かい?」
「っ、いや…#name#は両親の所だろ?」
「もうネタは上がってるんだよい。さっき…トラファルガーって男が訪ねて来てねい…全て…聞いたよい。」
「…っアイツ。」
「やっぱりお前も共犯かい?まぁ、いいよい。で?#name#は何処にいる?」
「…会って…どうするんたよ?」
「まず会わなきゃ話しにならないだろい。話しはそれからだい」
「#name#は…きっと会いたがらねぇよ。それに…」
「いいから何処にいるだよい!?」
「……待てよ。ダメだ。会わす訳にはいかねぇ」
「エース…大丈夫だ。お前が思っている様な結末にはならねぇよい」
「…?どう言う…意味だよ?」
「オレは…」
それから心の内を全て話し、聞き終えたエースは諦め半分、そして少し嬉しそうな表情で彼女の居場所を教えてくれた。
「マルコなら…そう言うんじゃねぇかと思ってたぜ」
「だったら初めから言えよい…」
「#name#の意思を尊重したんだよ。大切な…幼なじみだからな」
「エース…お前まさか…す」
「おっ!?違うぜ?オレは…#name#が幸せならそれでいいんだよ。勘違いすんじゃねぇ」
「……」
「マルコなら…マルコになら安心して任せられぜ。#name#を…頼む」
「あぁ。安心して任せろよい」
そんな#name#の一番の理解者であり心の友とも言えるエースから、オレは言葉では言い表せない程の期待と、背信は許さないとでも言う様な鋭い眼差しを向けられ、その想いをしかと受け止める様に頷いた。
そうしてオレは彼女の元へと急ぐ。
もう不安な日々を送らせない様に。
一人で抱え込まないでいい様に。
これからは、オレが傍に居てやると伝える為に。
オレはそんな想いを抱きながら、アクセルを踏む足に力を込めたのだった。