マルコ社会人編 | ナノ
#32 押し寄せる後悔
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「おっ、少し目立ってきたな?」
「うん。でも着る服に困っちゃうよ」
「服?あぁ、そうだな…よし!今日は買い物でも行くか?」
「うんっ!ベビー服も見ていい?」
「いいに決まってんだろ」
あれから三ヶ月経ち、ぺちゃんこだったお腹は、今では小山程度に膨らんでいる。
マルコさんとは…勿論連絡は取っていない。
私が携帯を解約したせいでもあるが、向こうからは接触する手段は全く無いのだ。
元気にしているだろうか?私の事などもう忘れてしまっているだろうか?
当然だけど、エースの口からはマルコさんのマの字も出てこない。
そんな私はやはり、ふとした時に彼の事が頭を過ってしまう。
でもすぐに打ち消す事が出来るようになったのは…時の流れのせいだろうか?
「具合が悪くなったらすぐ言えよ?すぐだぞ?」
「わかってるよ…大丈夫」
「あ、そう言えば解ったのか?性別」
「ん?ううん、まだ」
「そうかぁ…まぁどっちにしろオレがみっちり鍛えてやるからな!」
「う、うん。お願いしますね」
前にも増してエースは優しく、そして過保護っぷりを発揮している。
最近では、オレが父親代わりになってやるとまで言い出す始末だ。
それは、それで構わない。恋愛感情がなくても、家族としてエースとなら末永くやっていけそうだ。
ルフィーに至っても弟が出来ると大騒ぎで喜んでくれている。
「おっ、この服かわいいな。お揃いの帽子とスタイもあるぞ?」
「ほんとだ!色も水色でかわいいね」
「よし。これ買おうぜ!後は…おくるみって何だ? あ、すみません!」
「あ、もう…」
「いらっしゃいませ。素敵な旦那様ですね」
「は、はぁ…」
こうやってよく買い物に出掛ける私達は夫婦と間違えられる。
仕方がないと言えばそうなのだが、その度に私は苦笑いで返してしまう。
前に、お前以外は女としてみた事がないと言っていた彼だが、例えば今、面と向かって愛の告白なんかされたら…私は何と答えるのだろうか?
答えは…NOだろう。やはり、エースは家族にはなれても夫婦にはなれない。
でも恋人や夫婦よりも、もっと深く例えようがない何かで私達は繋がっているんだと思う。絶対に途切れない、強く確かなもので。
「ちょっと疲れたろ?あそこで茶でも飲もうぜ?」
「うん」
「足元気を付けろよ?ほら、階段あるか…」
「#name#?」
「…っ!?」
「あ?誰…あー、お前は…」
「ロー…」
後一歩で店の扉を潜ろうとした瞬間、私を呼ぶ声に反射的に体が硬直した。声の方へ振り返り、その人物を捉えた途端ヒヤリと背筋が凍った気がした。
「#name#…お前海外に行ったんじゃなかったのか?それに…その腹…」
「う、うん。あの…これは…」
「どう言う事だ?」
「オレの子だよ、オレの」
「エースっ!」
「#name#…嘘だな?」
「っ…その…」
「オレの子だって言ってんだろ?お前も相変わらずしつこい奴だな」
「…チッ。黙れ。#name#何とか言えよ」
「エースの子だよ…」
「………」
「…ロー?」
「まぁ…いい。なぁ、その大きさからすると…七ヵ月くらいか?予定日は何日だ?」
「ぇっ…?えっと…」
それからこの状況を溜め息交じりだが納得してくれたものだと思った私は、予定日などを聞かれ何の疑いもなくその質問に答えたのだったが…
「おぃ…その腹の子はほんとにそいつの子か?」
「っ…そうだよ」
「ふんっ、医者の卵を舐めんなよ?その予定日からいくと仕込まれたのはオレに抱かれた辺りじゃねぇか」
「っ!ち、違うよ!」
「はっ、焦る辺りが肯定とみえるな」
「お、おいっ!オレの子だっていってんだろ!?」
「あんたは黙ってろよ。#name#とあんたがそう言う関係じゃない事くらい分かる」
「なっ!?お前相変わらず失礼な奴だな」
「…で?どうなんだ#name#?それは…オレの子なのか?」
「違っ…違うよ…」
「…まぁ調べれば分かる事だ。こいっ!」
「ち、ちょっと!?どこに行くの!?」
「病院だ。羊水からDNA鑑定出来るんだ。知ってるだろう?」
「そ、そんなの嫌っ!!は、放してよっ!この子はローの子じゃないよ!」
「じゃぁ誰の子だ?正直に答えるか、検査ではっきりさせるか…どうする?#name#?」
「なっ…ローには…関係ないじゃない」
「検査だな。行くぞ」
「お前いい加減にしろよ?お前の子じゃねぇんだ!それで十分だろ?」
「納得いかねぇんだよ。時期といい、#name#の態度といい、こいつは何か隠してる。何年こいつを見て来たと思ってんだ!?あ!?」
「ロー…」
「なぁ、#name#。正直に言ってくれ。誰の子だ?」
「…っ」
隠し通すのは…無理だと思った。長年の付き合いで、何となく分かる。こんなに感情を露にした彼は見た事がない。彼なら、本気で病院に連れて行き白黒着けそうだ。
私はこの先に頭を抱えながらも、胸の内も含め、しかしマルコさんの素性だけは伏せ事実を話した。
「どっちの子か…解らねぇだと?」
「う…ん」
「なら、尚更検査して」
「ダメだ。その検査の事ならオレだって調べた。だが…母体と胎児にリスクが大き過ぎるだろ…」
「っ…しかし」
「あのね、ロー。私もう決めてるの。この子は父親無しで育てるって。だから…」
「ざけんなっ!!オレの子かもしれねぇのに…そんな身勝手な事できるかよ」
「でももう決めたの!」
「#name#…」
「ね?だから…忘れて?この子の事も、私の事も」
「っ…もう一人の…相手は誰だ?」
「…もう連絡取れない人なの」
「…そうか。取り敢えずこの話は近々ゆっくり話すとするか」
「ロー!もう話す事なんてないよっ!」
「うるせぇよ。じゃぁな」
「ローっ!!」
私の制止の声も聞かず、彼は足早にその場を後にしてしまった。
「#name#…言うべきじゃなかったな。特にあいつにはよぉ」
「っ…うん…」
この選択ミスが、今後の運命を大きく変える事になろうとは…
私は、嫌な予感が止めどなく溢れてくるのを感じながら、彼の背中が小さくなって行くまで見つめていたのだった。