マルコ社会人編 | ナノ

#31 未来への前進



「なんだよ…朝っぱらからよぉ」

「…正直に言えよい。#name#に何があった?」

「あーー、辞表の事か?」

「そうだよい」

「言うなって…口止めされてたんだけどよぉ…実は…」


昨日あれから正気を取り戻したオレは、何度も電話を掛け、家にまで行ったが結局彼女とは接触する事は出来なかった。
そして一夜明け出勤してみれば、彼女の私物は綺麗に片付けられおまけにオレのデスクの上には辞表と書かれた置き手紙。

一体なんのつもりなのか、彼女に連絡がとれない以上こいつに聞くしかねぇだろうと、オレは朝っぱらからエースを呼び出したのだ。


「父親が?いつからだい?」

「あぁ、確か…一月くらい前だったかな。そんで昨日容態が急変したらしい」

「そ、そうだったのかい…。しかし、何で黙ってた?言ってくれりゃ」

「心配掛けたくなかったんだとよ。ただでさえ忙しいこの時期にさ」

「でもよい、そんな大事な事…」

「まぁ、確かにな。だが、そうでもしないと向こうに行く決心がつかなかったんだと」

「なっ!?それじゃぁ#name#はもう帰って来ないつもりなのかい?」

「あぁ。たぶんな」

「それなら尚更……くそっ」

「今はオジサンの容態がどうなるかわかんねぇし#name#も混乱してるからよ、そっとしておいてやってくれないか?」

「あ、あぁ。わかったよい」

「連絡があったら教えるよ」

「あぁ…」


奴から聞かされた辞表の理由。それは父親の具合が悪く、海外に住む両親の元へ行ったのだと言う事だった。
しかし何故オレに言わない?いくら仕事が忙しいと言えど、肉親の危機に抜け出せない程忙しくはなかった筈だ。

それに何故あんなにオレを避けた?オレと馴れ合う事はそんなに彼女にとって要らぬ事だったのか?
一言いってさえくれれば…彼女の不安を少しでも和らげるよう勤める事だって出来たというのに。

だが、裏を返せばオレが頼りにならないと言う事なのだろう。おまけに信用もされていないと。
彼女にとってのオレは、一体なんだったんだい?
こんな形で姿を消してしまう様な白状な関係だったのかい?

#name#にとってオレは、その辺の奴等と同じ様に、通りすがりの男でしかなかったのか…

なぁ…#name#…?


オレはやり場のない感情を胸の内に留めたまま、デスクに肘を付き、止めどなく溢れてくる混沌とした想いを抑える様に顔を覆い動けずにいた。









朝エース達をを見送った後、私は一人ダイニングの椅子に腰掛けたままマルコさんの事を考えていた。

そろそろ彼が出勤して来る頃だ。部屋に入ったら真っ先に目に入るだろうソレに、彼は何と思うだろうか?

行きなり過ぎだと、ふざけるなと怒っているだろうか?
それとも、こんな形で身勝手に辞めた私に、呆れてものも言えずにいるのだろうか?

もっと他の方法で辞めた方が良かったんじゃないか?
せめて、本気で好きだった想いは伝えておきたかったな。

どうであれ、マルコさんにはもう会わす顔がない。
あ、会う予定は…なかったか。これから先、ずっと。


そこまで考えて、私は少し緩んだ涙腺を抑える様に立ち上がった。
一つ。一つ抱えていた不安が消えたんだと。
これからは、この子を無事に産む事を最優先に考えよう。


そうして自分の選んだこの選択が正しかったんだと思える様に努力しよう。

この子の為にも、私は笑っていなければいけない。

昨日を変える事は出来ないけれど、明日を夢見る事なら私にだって出来るから。
今日より素晴らしい明日になる様に考えようと、私は過去を消し去り固く心に誓ったのだった。

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