マルコ社会人編 | ナノ
#01 一期一会な彼
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「わぁ…結構寒いな…」
三年振りの日本は、思っていたよりも寒かった。日本を甘く見ていた私は薄手の上着しか着ておらず、若干浮いた存在だ。
「#name#!!こっちだ!!」
「あ、エース!!久し振りだね」
空港まで迎えに来てくれた幼馴染。小さい頃から気兼ねなく過ごせる親友ともいえる存在。
「お前…その格好。季節感ねぇな」
「う…帰国子女なので勘弁してください」
「そんなとこで、カッコイイフレーズ使うんじゃねぇよ」
間抜けと認めろと、幼馴染はズバリと切ってくる。
「別に格好つけた訳じゃないよ」
「はいはい。行くぞ」
そうして私の受け答えに面倒臭くなったのだろう、先を促す彼の後を着いていく。
「特に変わってないね、この街も」
「三年ぽっちで変わるかよ。」
「それもそうだね。ルフィは?」
「遊びに行っちまった。夜には帰って来ると思うが…」
「フフ。お腹が減ったらでしょ?」
「ああ、腹が減ったら直ぐにでも帰ってくるかもな。」
そんな彼と、懐かしい会話を楽しみながら流れ行く景色を見つめた。
来年からは、またこの街に住むんだなと。その前に、就職先を決めないと。その為にわざわざ卒業半年前に帰国したのだから。
「ねぇ、願書もらってきてくれた?」
「ああ、当たり前だろ。」
「ありがとう。受かると良いなー」
「受かるだろ。オレが推薦してやるよ」
「ダメダメ!!そんなズルは嫌なの」
「でもよぉ…わかったよ」
確かにエースに頼めば受かる確立はぐんと上がるだろう。
でもそんな小細工で受かっても、何か肩身が狭いじゃないか。どうせ入るなら正々堂々と入社したい。
「でも受かるかなぁ・・・大手だもんね」
「大丈夫だ。バイリンガルの人材、欲しがってたぞ」
「ほんと?それ有利だね」
そうこうしている間に到着した彼の家。私はこの滞在中、彼の家にお世話になる事になっている。
「勝手は分かるだろ?オレ、買い物行ってくるわ」
「うん。ご飯でも作ってようか?」
「お願いしたい所だが、食材がねぇんだ」
「あ、だから買出しね。」
「そう言う事だ。じゃ行って来る」
「行ってらっしゃい」
彼を見送り部屋を見渡してみた。
「何にも変わってない…」
逆に少し怖いなと、あまりにも変わっていない部屋をみてそう思った。
ま、エースらしいかと、物にあまり執着心のない彼の事を思い出し、納得する。
エースは私の三つ上。昔から何かと頼りになる存在で、それは今でも変わらない。
一時帰国すると告げた時も、わざわざ会社を休んでまで迎えに来てくれる程だ。
しかし、勉強は出来る方だったが、まさかあんな大手の会社にエースが入社出来るなんて…少し意外だった。
そんな私も彼と同じ会社を狙っているのだが、受かる確立はやや低いだろう。
エースの話だと、入社志望者は、ざっと400人はいるらしい。その中から選ばれるのは、精々10人から20人程だそうだ。
「厳しいなぁ・・・」
ぽろりと本音を洩らし、明日神社に行って願掛けでもするかと密かに決めた処で買い物から彼が帰ってくる。
「お疲れさま」
そう言葉を掛けて、共に料理を作り出した。
大量の料理を作り匂いに釣られて帰ってきたルフィと共に食卓に着く。
「なぁ、住む場所はどうすんだ?」
「ん?一人暮らしする予定」
「じゃぁ、部屋探ししないとな」
「その前に、就職!」
「それもそうだな」
「#name#もここに住めば良いじゃねぇか?」
「そうだな。そうしろよ、部屋余ってんぞ」
「嫌だよ。エース達と一緒になんか住んだら婚期が遅れそう」
「はっ、何だそれ」
そんな冗談交じりな会話を交わしながら、明日は早めに仕事が終わると言う彼と街で落ち合う約束をして、私は眠りに就いた。
そして次の日。
「じゃぁ、16時にここな。」
「はーい」
「お前携帯ないんだから、迷子になんなよ?」
「はいはーい」
「心配だぜ…」
相変わらず子供扱いをする彼に、腑抜けた相槌をうち見送った。
迷子なんかになるか。私はもう立派な大人だと虚勢を張る。
そうして、買い物でもしようと少し早めに家を出た。三年経った街は、店もたくさん増えていて目移りしてしまう。
うろうろと、特に気に入った物もなく街をぶらついていた処、ふと、目に入った物があった。
綺麗に磨かれたショウウィンドウに展示してあった、靴。
一気に私の物欲に火が点いた。
しかし…
「高っかい!!」
その私の物欲心を煽りまくった代物は、ほいほいと手が出る値段をしていなかったのだ。
お財布を持ったまま暫し考え込む。
これは、何かの記念やご褒美でもない限り買うにはかなり覚悟がいる。暫くその場で見入っていた私は、後ろ髪をかなりの力で引っ張られながらその場を後にした。
よし。就職が決まったら買おう。そう決めた私は少し軽くなった後ろ髪に気を良くし、エースとの待ち合わせにまだかなりある時間の潰し方を考え出したその時、
「落としたよい」
そんな呼び掛けと共に肩を叩かれた。
「え?あ、ありがとうございます」
見ると、鞄に入れたつもりだった私のお財布が目に入る。
「気付いてよかったねい」
「はい!本当にありがとうございました」
なんていい人なんだと。向こうだったら間違いなくネコババされていた筈だ。
「あ、あのなに」
急いで言葉を呑み込んだ。待て待て私。
お礼がしたいからといって、男の人に、しかもこんな如何にも出来る男です的な雰囲気の大人の男性を自分から誘うのは…どうだろう?
経験不足な私は、こういう場合どう対処するのが得策なのかが分からない。でも、お礼はしなくてはいけないだろうと再度口を開こうとした刹那、
「クク。礼なんかいらないよい。でも、そうだねい…」
それから、何故か彼と共にお茶をする事になった私。
「あ、あの、すみません。私から誘うべきですよね、こういう場合」
「あ?そんな事ないよい。礼なんて言葉で十分だい」
「そうなんですか?良かった」
「クク。気にしすぎだよい。それに」
こっちが感謝しなきゃなと、丁度喉が渇いていたんだと、いい話し相手が見つかったなどど、相手を労るその発言に尊敬な眼差しを送った。これぞ大人の男だと。
そんな事を考えながら、私は自己紹介がまだだったと気付く。
これから社会人になる身だ。まずは自己紹介だと思い立ったように口を開いた。
「あの、私#name#と申します。来年から社会人予定です」
要らぬ情報まで伝えれば、クスクスと笑い出す彼。
「あぁ、悪い。オレはマルコだ。よろしくな」
「マルコさん!はい、よろしくお願いします」
「それはそうと、予定ってなんだい?」
「え、あ、まだ就職先決まってないので」
「成る程ねぃ。希望している会社はあるのかい?」
「はい。第三志望までありますよ」
「へぇ。言ってみろい」
「え?会社名をですか?」
「おう。」
それから、カウントダウン形式で会社名を挙げていき、最後の第一志望の会社を口にした瞬間目の前のマルコさんは飲んでいた珈琲を噴出した。
「わっ!!大丈夫ですか?」
「あぁ…悪い」
「あ、もしかして、白ひげ会社の方とか…じゃないですよね?」
「…っ!あぁ、違うよい」
「はぁ、良かった」
「なんで良かったんだい?」
「だって、お財布落とす様なドジな人材要らないでしょ?」
「は?誰だって落とす時は落とすだろい」
「あれ?そうなんですか?」
「#name#は少し感覚がおかしいねい」
「う…たまに言われます」
「たまに、ねい」
それから留学していた事やこれから幼馴染と約束がある事など、何故か私の事ばかり聞いてくる彼に何て聞き上手なんだと、さすが大人の男性だなと再度頷きながら、気付けばエースとの約束の時間になっていた事に気付く。
「わっ!!大変です」
時間オーバーしてますと告げれば、急いで行けと。ここは奢りだと言う彼。
もう、全てが大人だと関心しながら、深々と頭を下げ御礼を言い店を出た。
きっと、二度とマルコさんには会えないだろう。
そんな一期一会の体験に感謝しながら、恐らく心配半分、怒り半分な幼馴染のもとへ急いだ。
「ごめん。迷子じゃないんだよ!」
「いや、迷子だろ?」
「だから違うって、初めに言ったのに…」
「迷子に決まってる。」
「もういいよ、迷子で…」