マルコ社会人編 | ナノ

#26 伝えた気持ち



やけにすっきりとした目覚めを遂げた私は、隣ですやすやと眠るローを捉えた瞬間疲れがどっと振り返した。

布団を捲り自分の姿を確認するも、やはり昨夜の事を裏付ける要因にしかならず私は深い溜め息を吐く。


「……はぁ」

「朝から溜め息吐くんじゃねぇよ」

「…寝たふり禁止」

てっきり寝ているものだと思っていた彼は、いつもの如く涼しい顔で口を開く。

「ククッ…#name#…」

「っ…!もう!私かなり軽蔑な眼差し送ってるんですけど?」

「あぁ…そんなに怒るんじゃねぇよ」

「怒るよっ!」

全く反省の色が伺えない彼に、再度深い溜め息をお見舞いし支度を始めた。

ローに抱かれるのは特に嫌悪感は生まれない。元から割り切って接しているからだ。
しかし、マルコさんを好きな私は、自分の貞操の低さに嫌気にも似た感情が生まれてしまう。

誰に詫びる理由もないが、取り敢えず自分に詫びてみる。ごめんなさい。


送ると言ってきた彼に、エースと言う専用運転手がいるからと追い返し気だるい体で会社へ向かった。

「ん?しっかり寝たのか?随分浮かない顔してんな」

「…寝たよ。うん…」

「…そうか。じゃぁそんな顔すんなよ!朝から打ち合わせだからな!」

「はーい」

少し怪訝な表情をした彼だが、直ぐに持ち前の明るさで私にも元気をくれた。
そんな眩し過ぎるエースの笑顔に何故か後ろめたさを感じながらも、無理矢理溜め息を飲み込み朝からの打ち合わせに備え気合を入れる。


朝から始まった打ち合わせは意外にも長引き、終了した頃には随分と日が傾きかけていた。

「お疲れさん。#name#飯でも食い行くかい?」

「あ、はい」

久し振りにゆっくりと過ごす彼との時間に、疲れた心がすっと退いていく気がした。やはり彼と過ごす空間は私にとって最高の癒しなのだろう。

「明日は…昼から出社しようかねい?」

「え…?どうしてですか?」

「今日は、#name#とゆっくり過ごしたいんだい」

「っ…マルコさん」


そんな事を突然言い出した彼は、初めからそのつもりだったのかしっかりホテルを手配していた。
そうしてお互いシャワーを浴び、バスローブに身を包んだままお疲れ様と掛け合いグラスを傾けた。

「ん。おいしいですねこれ」

「それは良かったよい。あーそうだ、プレゼントだい」

「ん?なんですか?これ」

「開けて見ろよい」

「はい……ぁっ!!」


プレゼントだと渡された箱を見て私は飛び上がるほど驚いた。
何故ならそれは…

「こ、これ…どうして…?」

「ククッ。もう随分前に買ってたんだがねい。渡すタイミングが掴めなくてよい」

「いやいや、そうじゃなくて、どうしてこの靴を?」

「あー、ククッ。初めて#name#と出逢った時…その靴見てただろい?」

「はい…見てました。でも…」

「欲しかったんじゃねぇのかい?」

「…っ!欲しかったですっ!でも売り切れてて…それをマルコさんにプレゼントしてもらえるなんて…感激です!!」

「それは良かったよい。#name#…」

「マルコさん…大事にしますね」

「ん。」


本当に彼には驚かされてばかりだ。まさかこんな形であの靴が手に入るとは夢にも思っていなかった。

そんなサプライズをくれた彼に更なる愛しさが込み上げてしまうのは当然で、思わず自分から抱き付いてしまう。

昨日ローに抱かれた体で、直ぐにマルコさんと体を交えるのは少し気が引けたが、彼を拒める筈もない私は、優しく包み込みベットへ運んでくれる彼に甘えるように身を寄せたのだった。


そうしてその日、私は初めて彼への気持ちを口にした。
たった一言「好きです」と言っただけだったが、その言葉を聞いたマルコさんは、それはそれは嬉しそうにオレも好きだと何度も言いながらキスの雨を降らせてくれた。

恋人同士になったのかはよく分からないが、お互いの気持ちを確かめ合った私達は以前に比べぐっと距離が縮まった気がする。


しかしそんな甘い空気を漂わせながらも仕事は忙しく、彼に想いを告げてから気付けば一月が経とうとしていた。


「#name#!見てみろよい」

「なんですか?…うわぁ」

「いい数字だよい。大成功じゃねぇかい」

「はいっ!やりましたねっ!」

「おう。今日はお祝いだねい」

「ふふ。エースも誘わないと拗ねられ…っ…」

「ん?どうした?」

「…い、いえ。ちょっと…」

「#name#?」

「…あ、大丈夫です。ちょっとお手洗い行って来ます」

「…あぁ」


彼との会話中ふいに吐き気に襲われた私は、怪訝な面持ちの彼に大丈夫だと告げトイレに駆け込んだ。
そして見事に嘔吐した私は、何かにあたったのかと口にした物を思い浮かべてみる。
しかし、急に消え去った嘔吐感に何だったのだろうと思いながらも腰を上げた。

「何食べたかな…?」

一人記憶を呼び起こしながらそう呟き、少し目眩もする体に疑問を抱きながらも、心配を掛けてはいけないと急いで彼の元へと戻ったのだった。

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