マルコ社会人編 | ナノ

#21 不確かな関係



あれから、否、エースと共に仕事をするようになってから、マルコさんと一緒に過ごす時間がなくなった。

また会社に戻る様になって、以前の様に彼と触れ合うようになったが、今の状況ではキスはおろか手さえ繋げない状態だ。

そんな中、先程彼としたキスは随分久し振りなような感覚に陥った。
もっと触れ合いたい名残惜しさが未だに残る中、仕方がない事だと言い聞かせる。なにかと忙しい身の彼だ。代役でも立てなければ圧し掛かる苦労は避けられないだろう。

別に不満がある訳じゃない。決してないのだけれど…

「あー、腹減った。ちょっとドライブスルー寄っていいか?」

「また?お昼食べてから一時間しか経ってないよ?」

「仕方ねぇだろ、腹が減っちまうんだからよぉ」

「もうっ!仕事中なんだからね!」

幾ら気兼ねなく出来ると言っても、気兼ね無さ過ぎだ。公私混同はご法度だと言う概念は持っているつもりだけど、そんなの私だけ貫いても相手がこれでは意味がない。

「いいね、食べても食べても食べても太らなくて」

「ん?そうだな。なんでだろな?」

遠回しに嫌味を言ったつもりだったが、そうだった。彼に通じる筈がない。


もぐもぐと買ったばかりのハンバーガーが一つ二つと消えていく中、思い出したかの様に彼が口を開いた。

「で?マルコとはどうなんだよ?」

「…っ!どうもないよ」

唐突に投げられた質問に少し動揺する。すっかり忘れていた。以前エースにはマルコさんとの事を話していたのだと。別に隠す事でもないけれど、やはり少し照れくさい。

「へぇー。しかし辞める辞めるって騒いでたお前がよぉ、やけに熱心じゃねぇか」

「そっそれは、一度やるって決めたから。最後まで遣り遂げたいし…」

「遣り遂げた後は?どうすんだ?」

「っ!ま、まだ分かんない。ほら!時間時間!!」

ニヤニヤと笑みを浮かべながらこちらを伺う彼に、まるで話を遠ざける様に先を急かした。

どうするなんて聞かれても、そんなの決まっている。
その為に、今私はこの仕事を死ぬ物狂いで頑張っているのだから。
そうして胸を張って彼の傍に居られるように。誰からも後ろ指を刺されないように。
そして、彼の役に立てる様に。私は絶対この企画を成功させたい。

「#name#。オレも精一杯協力するからよぉ、あんま無理すんなよ」

「エース…。やっぱりいい奴だね!エースって!」

「…最後の言い方、意外性が込められてないか?」

「そんな事ない!断じてないよ。ほら、安全運転で急いでね!」


まるで何もかもお見通しな彼の発言に、心が穏やかになるのを感じた。そして喉まで出掛かった言葉を無理矢理呑み込む。
今はまだよそう。この仕事が終わったら話そう。抱えてた思いを全て聞いてもらおう。
そう思いを決めながら心の中で彼に感謝する。


そうして今日の予定を終えた私達は、専務室へと足を運んだ。

「マルコ専務、只今戻りました」

「ただいまーマルコ」

「あぁ、お疲れさん。そしてエースはもっと言葉を慎めよい」

「えー、固い事言うなよ、禿げちまうぜっ、ズリッとよ」

「…ったく。#name#、報告は?」

「あ、はい!今日の打ち合わせではーーーーー」

それから一通りの連絡事項を伝え終えた私は、いつもの様にエースと共に帰り支度を始めていると、ふいにマルコさんが口を開いた。

「#name#は、ちょっと残ってくれるかい?」

「え?あ、はい」

「っ!あ、じゃぁオレ帰るな。お疲れさん!!」

「ぇ、お疲れ…」

機転を利かせた彼はそそくさと退室して行った。そんな背中を少し寂しく思いながら見つめていると、ふわりと後ろから抱き締められる。

「エースが恋しいのかよい?」

「えっ、いや、そうじゃないんですけど…」

「ないんですけど…何だい?」

そう耳元で囁くマルコさんは、耳から頬へと口付けを増やしながら甘い雰囲気を作り出していく。

「…ぁっ!マルコさん…用事は?」

「今してるだろい?用事」

「っ…もうっ…」


それからゆっくりとソファーに押し倒され、まるで味わうように繰り返される口付けに今朝の名残惜しさが消えていく。

「やっと気兼ねなく#name#に触れられるよい」

「…っ。マルコさん…」

「ん、#name#…」

「マルコさん!」

「…なんだい?」

「ここじゃ……嫌です」

「っ?あぁ、そう…だねい」


そうして私達は場所を変え、このもどかしい状況を埋めるかの様に何度も体を交えた。なんとも不思議な関係の私達。それでも、お互い口には出さないが惹かれ合うものは確かに感じる。


夜が更けていく中、彼の寝顔を見つめ考えた。
あなたは何を思って私を抱くのだろうか?
そしてこの仕事を成し終えた後、本当に私はあなたの傍に居てもいいのだろうか?

そんな不安と疑問を抱きながら、先が見えないこの想いを消し去る様に眠る彼の胸に頬を寄せたのだった。

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