マルコ社会人編 | ナノ
#20 邪魔者
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今日は朝から役員会議だ。
と言っても役員全員身内なので気を使う程でもない。
会社へ向かう車の中で大きな欠伸と共に栄養ドリンクを飲み干した。最近やけに疲れが溜まっている。正直体は悲鳴を上げていた。
オレにとって#name#が抜けた穴は相当痛かった。ほんの数ヶ月とはいえ、また一人で全てをこなしていくのは骨が折れる。
それでもオレは彼女が戻ってきてくれた事が何より嬉しく、オレに対して好意的な態度の彼女に愛しさは募るばかりだ。このプロジェクトが無事終了したら、未だに渡せずにいるアレを彼女に渡そう。
そして彼女に存在理由と自信を与える為にも、この仕事だけは、例え骨が折れようが何がなんでも成功させなければならないのだ。
「マルコ、順調に進んでんのかぁ?」
「あぁ、問題ないよい」
会議の終盤になった処で、今回の新プロジェクトの話題を親父が振ってくる。
「そうかぁ、珍しくお前が乗り気だからなぁ、しかもてめぇの女に任せてるらしいじゃねぇか」
「…公私混同はしてねぇよい。彼女なら大丈夫だい」
「だがよぉ、失敗したらえらい損害だぞ?」
「そうだな。誰かもう一人付けたらどうだ?」
「確かに。入社したての女の子には荷が重すぎだろう」
「……大丈夫だい。オレが付いてる」
兄弟達から次々と上がる意見に、オレは少々苛つきを覚える。
「だけどよぉ…。失敗したらどうすんだ?」
「大丈夫って言ってんだろい!」
「マルコ!少し落ち着けぇ。だが皆の意見も一理あるぞぉ」
「親父…」
「よし。もう一人付けてやれ。お前も暇じゃねぇんだ、少しは肩の荷が下りるだろう」
「いやっ!大丈」
「命令だ」
「っ…!わかったよい」
親父の命令には逆らえねぇ。仕方なしに了承したオレは、それから誰を付けるかの議論に頑なに奴を推薦した。そして皆を納得させ選ばれたのは…
「オレ?何でオレ?」
「知るかよいっ。兎に角だい、#name#のサポート頼んだよい」
「まじかよ…え?オレサポートなのか?」
「あぁ」
色々と候補は上がったが、彼女と過ごす時間が多くなるポジションだ。変な輩に任せる訳にはいかねぇ。
なら、こいつしかいねぇだろい。
「そう言う事だ。くれぐれも頼んだよい、エース」
「はぁ…了解」
そうして、朝から一人で仕事をしていた彼女にこの事を話せば、
「エースと?ですか…?」
「あぁ、気兼ねなくやれるだろい」
「…まぁ。エースと…」
「馬車馬の様にコキ使ってやれよい」
「おい!聞き捨てならねぇ事言うんじゃねぇよ!」
「ふん、サポートなんてそんなもんだい」
「ふふ。大丈夫だよ、エース。程々にするから」
「クッ…何か屈辱的だぜ」
それからオレのしていた彼女へのサポートはほぼエースが請け負い、確かに少しは楽になった。なったのだが…
「あー、エース。これ届けに行ってくれないかい?」
「ん?あぁ分かった」
ここ数日、終始彼女と共にいる奴にどうでもいい仕事を頼み追い出す。
何故なら、エースを付けてからというもの、彼女と二人きりの時間が全くと言っていい程なくなり、極めつけは帰りもエースが送る為、オレは欲求不満の塊と化していたのだ。
「#name#。ちょっとこい」
「あ、はい。何でしょうか?…わっ!!」
手の届く距離まで来た処で、彼女の腕を引き寄せ閉じ込めた。
「マルコさんっ!エースが帰って…んっ!」
そんな事は知らないとばかりに口を塞いだ。
以前なら、誰に気兼ねする事なく出来ていた行為も、今の状況では小細工でもしない限り出来やしねぇ。
「ぁ…っ、もう、ダメですよ。エースが…」
「まだ帰って来ねぇよい」
「っっ!でも…んっ」
ぶつぶつとエースを気にする彼女に再度口付け黙らせた。
別に見られても構わねぇ。それくらい彼女が愛しかった。
次第に濃くなる口付けに、彼女の抵抗が治まってきた頃、ふいに聞こえる話し声。その瞬間更に抵抗を強くし離れる彼女。
「はぁ…エースが…帰ってきましたよ」
「あぁ…みたいだな」
オレが言い終えるや否や開いた扉に溜め息が出た。
エースを#name#に付けると決まってから分かり切っていた事ながら、それでも名残惜しさにオレの不満は治まらない。
「おっ!マルコ邪魔するぜ」
「ほんとに邪魔だよい。何か用かい?」
「あー、それがよぉ…」
オレの迷惑極まりない顔をスルーして、エースと共に現れたサッチはドシリとソファーに腰を下ろし話始める。
当然彼女はオレから離れ、茶を淹れに姿を消しちまった。そんな消え入った姿を名残惜しそうに見つめながら、オレもソファーに腰を下ろす。
それから奴の話を聞き終わる前に、打ち合わせがあると出ていった彼女とエース。
それを見送るオレの溜め息は、マリアナ海溝よりも深く吐かれていたに違いない。
「お前…男の嫉妬は見苦しぜ?」
「嫉妬じゃねぇよい!嫉妬じゃ…よい」