マルコ社会人編 | ナノ

#16 膨らむ不安



「おい、やっぱいかねぇのか?」

「行かないよぉ…行ってらっしゃい。ご飯用意しておくから」

「お前なぁ、昨日も言ったが社会人としていきなり辞め」

「はいはい!もう何度も聞いたよ!早く行きなよ、遅刻するよ」

「ったく…、オレ絶対怒られるぜ」

昨日に引き続き、ガミガミとしつこく説教を垂れるエースを追い出して、私はリビングのソファーにドサリと座り込んだ。

「どんな顔して行けばいいのよ…」

そうだ。あんな啖呵を切っておいて今更どの面下げて彼に会えというのだろうか。
それに、もう戻る気は更々ない。だいたい私なんかが居たって何の役にも立たないのだから。

そんな悲観的な考えを描きながらも、彼の事が頭を掠めた。

「もっと違う形で出会いたかったな…」

そうすればこんな事にはならなかったのに。それにあの時隠さずに言ってくれれば…
はぁ…止めた。過ぎた事をグジグジと言ったって仕方がない。前向きに前向き。
そう自分に暗示を掛けて、取り敢えず晩御飯の買い物にでも行こうかと、あ、その前に掃除と洗濯。

そうして私は専業主婦の様に、重い頭と腰を上げ動き出した。

一通りの家事が終わった頃、玄関からドタバタと足音をさせ入ってきた彼。

「あれ?エースもう終わったの?」

「んな訳あるか!ほら、用意しろ。会社行くぞ。」

「はぁ!?行かないよ!寝言は寝ていって!」

「寝言じゃねぇよ!ちょっと待て、えーと…」

そうして携帯片手に電話を掛け出す彼に、私は一瞬で嫌な予感がした。

「おう、今着いた。代わるからな!ほら!#name#!」

「因みに…誰?」

「そんなの決まってんだろ!マルコだよ、マルコ」

「い、い、嫌だよ!!絶対嫌っ!!」

「いいからつべこべ言うな!!ほらっ!!」

強引に押し付けられた電話。もう自棄だ。出でやろうじゃないか。
しかし、いざ携帯を手に取ると案の定言葉が出でこず沈黙が続いた。
それを打ち破ったのはやはり彼の方で、その後に続く言葉に私は頷くしか術が無かったのだ。

「マルコなんだって?」

「…私が、やり掛けてた仕事を…最後までやり遂げろって…」

「へぇー、成る程な。で?今から行くのか?」

「…アメリカから来てるんだって。そのやり掛けた仕事が?」

「何で疑問系なんだよ…」

「だって…、やり掛けたって言っても、まだ初めてもいなかったと思うんだけどな…。それに私が行く必要性が…」

「でもマルコは#name#の仕事って言ったんだろ?じゃぁ、お前に任された仕事じゃねぇのか?」

「…なんか腑に落ちないな」

「ま、いいから早く用意しろよ。お前を連れてかないと殺されちまう」

「うん…」

そうして不本意だが翌日からまた出社してしまう事になった私は現在、専務室の扉の前で固まっていた。

何だろう…とても開け辛い。ノックする腕さえも上がらない。どうしたものかと一人佇む事数分。幸か不幸か内側から開いてくれた扉様。

「#name#…入れよい」

「っ…! はい」

促され入ったものの中々進まない私の足に、彼は浅い溜め息を吐きながら私の手を取り言葉を繋ぐ。

「ちょっとここに座れ」

「…はい」

応接用のソファーに座らされた私は、隣に腰掛けた彼の顔を見る事も出来ず少し俯き加減で次なる言葉を待った。

「まず、辞表は認められないよい」

「っ…!!」

「さっきも言ったが、あのメールの主が来ている。受けようと思ってねい、スポンサーを」

「えっ!?受けるんですか?」

「あぁ。そしてそれを#name#。お前に担当してもらう」

「で、出来ませんよ!無理です!」

「もう決まった事だ。それに、先方が#name#じゃないと嫌だそうだ」

「なっ何で私が…」

「メールしてたんだろい?返信返す時に、いつも一言添えて。それで気に入られたみたいだねい」

「当たり障りのない内容でしたよ…そんな事で気に入られても」

「兎に角だ。これは#name#のやり掛けた仕事だろい?これが終わるまでは絶対に辞めさせる訳にはいかないねい」

「マルコさん…私出来ません。だって何をすれば…」

「安心しろよい。オレが付いてる」

「でも…」

「#name#。出来るよい」

「……っ」

そんな全ての有無を言わせぬ彼に辞めるという決意がどんどんと崩れて行った私は、不安で一杯な気持ちを抱えながらも首を縦に振ってしまったのだった。






「ん、いい子だい」

「っ…!! マルコさん!!」

「ククッ、スキンシップだよい」

「………」

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