マルコ社会人編 | ナノ

#10 体は正直



そんな波乱万丈な社会人スタートを踏み出してから数日後、私はローに呼び出され彼の家にて入社お祝いをしてもらっていた。

「聞いてねぇぞ。専務秘書なんて…」

「あれ?言ってなかったっけ?」

「専務秘書…その専務ってどんなやつだ?」

「どんなって…普通だよ」

彼には例の事は勿論秘密だ。あくまで入社したら、配属先が秘書だったのだと偽りの説明をした。
それからどんなやつだという問い掛けに、決して普通ではないマルコ専務を、これまた偽りで普通だと言ってしまった。

「そいつに変な事されてねぇだろうな?」

「されないよ。そんな事したらセクハラで訴えられちゃうでしょ?」

されていますとも!セクハラと幾ら嘆いても、笑い飛ばしてくる彼に毎度頭が痛い。

「だったらいいけどよぉ。何かあったら直ぐ辞めろよ」

「辞めろって…簡単に言わないでよ」

「ふん。お前一人くらい面倒見てやるよ」

「わっ。でたな。まだ学生の癖に」

「はぁ…何でいつもお前は…」

そうやっていつもの様に、彼からの恋沙汰な話をはぐらかし、そして彼に抱かれる。
私はいつまでこうやって彼を弄ぶのだろうか…。彼の事を思えば、そろそろ潮時かもしれない。

「ねぇ、ロー?」

「なんだ?」

「…何でもない」

とても優しい目でそう聞いてくる彼に、先程までの考えがどんどん消えていく。
まだ、手放したくない。そう思った。
ならば寄りを戻せばいい話なのだが、自分でも説明が出来ないほど、不安定に心が定まらない。

もう少しだけ。もう少しだけこのままでいよう。
そして今日もまた、ずるずると煮え切らない気持ちのまま彼と別れた。


そして翌日、まだまだ仕事の要領が分からない私に、手取り足取り…教えてくれるマルコ専務。

「ぼちぼち覚えていけばいいよい。この後の予定は?」

「はい。本日は…ん?もう予定は入っていませんね」

「そうかい。それはゆっくりできるねい」

そんな今日の予定を全て終えてしまった昼下がり。もう予定がないと伝えれば、嬉しそうに背伸びをする彼に少し頬が緩む。

彼の時々見せる、この少年の様な仕草は実を言うとかなりツボだ。

「息抜きに、外にでも行こうかねい」

「え?大丈夫なんですか?」

「あぁ。大丈夫だい」

悪戯な笑みを浮かべながらそう口にする彼に、さすが管理職。と思いながら外出の支度を始める。

受付と部長、後は社長秘書の方々に、席を外すと連絡し終え彼の後を着いていく。

「だいぶ秘書らしくなったじゃねぇか」

「あ、ありがとうございます」

褒められ、素直に嬉しいと感じた。
まだ入社して一月も経っていないが、仕事って楽しいなと思えてきた時期だ。
少し異様な感じもするが、与えられた仕事をこなすというのはやり甲斐があり、何より自分に自信が付いていく。
そう。このセクハラさえなければ…


「もう!腰に腕回さないでくださいよ!」

「こけたら危ないだろい。」

「こけませんよ!赤ん坊じゃないんですから」

「クク。心配なんだよい」

変な心配ご無用だ。こんな何の凹凸もない廊下でこける筈がない。

しかし、マルコ専務は何を考えているのかさっぱりだ。
確かに一度体は交えたが、あれは不可抗力。一夜限りの行いだ。

あの時、好きな女でないと抱かないと言っていた彼だが、それ以来、好きだのという類の言葉は言われていない。

しかしこの日常のセクハラ行為。好かれているのは分かるが…
一体どんな部類の好きなのかよく分からない。


「どちらにいかれるんですか?」

「んー、ホテル」

「は?何しに?」

そんな驚き発言に、思わず敬語がとれてしまう。

「休みにいくに決まってるだろい」

「私も行く必要性は?」

「#name#はオレの癒しだろい?」

「っ! だったらホテルに行かなくても…」

「ホテルで癒してもらうんだい」

「……!!」

何を考えているのだろう…この上司。
ホテルで癒してもらうって、私が?どうやって?

ただ助手席に乗っているだけの私はそんな彼の行動を理解しようと頭を捻っている間にホテルに着いてしまい、腕を取られ連れて行かれる。

「あ、あの!!マルコ専務!!」

「あぁ…二人の時は専務はいらないよい」

「は?あ、はい。じゃぁマルコさん!!」

「ククッ。なんだい?大きな声出して」

「っ…!」

彼の言葉にはっとする。この高級感漂うホテルのロビーで大きな声はいただけない。

「ぅぅ…すみません」

うな垂れる私をクスクスを笑いながら、いつの間に手配したのか部屋のキーを受け取り奥に進む彼。
そうして部屋の戸が閉まった音で我に返った。

「うわっ…ほんとにホテルに…」

「クク、#name#風呂でも入るかい?」

「はい?い、いいです。ご遠慮します」

「そう言わずに入れよい。ここの風呂は秘湯らしいよい」

「秘湯?え…秘湯…」

秘湯と言うワードに思わず反応してしまい、その様子を逃さない彼にバスルームに押し込まれる。

「ゆっくり入れよい。なんなら一緒に入ろうかい?」

「い、いえ。一人で入らせて頂きます」

「クク、そりゃ残念だよい」

それから私は仕事中だというのに、不謹慎にも秘湯とやらを堪能した。
さすが秘湯。肌がすべすべとするのが分かる。

そうして、湯上りに服を着るのは気持ちが悪いので、バスローブで出て行くと案の定彼から好奇な目で見られてしまった。

「#name#、そのまま待っとけよい」

そんな半強制的な威圧を掛けられ、バスルームに消えていく彼。
いや、そういうつもりは全くなかったんだと突っ込みたかったが、言う隙も与えず消えていった彼の背中を見詰める事しかできないでいた。

ん?これはマズイ展開ではないかと、やはり服を着ようと思ったが、しまった。バスルームに置きっぱなしだとまたもやうな垂れる。

彼が出てきたら入れ違いで取りに行こうと決め、ソファーに腰掛け彼を待つ事にした。

さすが男性。カラスの行水の様な早風呂に驚きながらもすぐに腰を上げ、彼の方へ、と言ってもバスルームの方へ向かった。

が、向かってくる私に、何を勘違いしたのか素早く腕を取られ抱き寄せられる。

「何だい?待ちきれなかったのかい?」

「言うと思いましたよ…違います。服を取りに…ってちょっと!!」

否定の言葉を言い終わる前にふわりと抱きかかえられ、あろう事かベットに下ろされる。

「待ってください!私そう言うつもりじゃ…」

「照れるなよい。#name#…」

「わっ!! んっ…んー」

私の停止も聞かず完全勘違いのマルコさんは、何度も角度を変えながら、舌を絡ませ深い口付けを送ってくる。

こんな深いキスをするのはあの日以来だが、やはり彼はキスが上手だ。
体中の力が抜けてしまう様な、その甘い口付けに思わず体が反応してしまう。

彼の少し厚めの唇が首筋に移動した所で、これはまずいと両腕に力を込めて突き放した。

「はぁ、待って下さい…私そんなつもりじゃ」

「#name#…嫌かい?」

「嫌…っていうか、その、こういう公使混合的なのは…いけないと思います」

「はっ、切り替えれば問題ないだろい?」

「切りっ…私は出来ません!それに…なんでこんな事…」

「なんでって…そんなの決まってる…っ!?」

そんな会話をしながらも、彼の手はゆっくりと私のバスローブを肩口までずらした処で、ピタリとその動きを止めたのだった。

「…?っ…!」

そう。彼が見たもの。それは先日ローが付けたキスマーク。
赤々と私の胸元に咲くそれに、マルコさんは少し目を見開き動きを止めてしまっていた。

「#name#は…男がいるのかい?」

「ぇ…っと、」

私は言葉に詰った。ローとは付き合っていない。しかも、付き合ってもいない人とそういう行為をしたと告げれば、この前の事もある。とんだ阿婆擦れ扱いされそうだ。

何も言えずに目を泳がす私を見下ろす彼の目は、真意を探るように鋭い眼差しを放っていた。

「言えないって事は…オレにもチャンスがあるって事かい?」

「え?チャンス?」

「オレに知られたくないんだろい?男の存在を…」

「ぁ…」

成る程。そういう解釈をしたのか。でもその言葉に肯定すると言う事は…

「フッ…もう何も考えなくていいよい」

「え?あ、いや…ぁっ!」

そうしてされるがまま、またもや彼に抱かれてしまう事になった私は、彼の繰り出す巧みな技の数々にさんざん翻弄され、何度目かの行為が終わる頃にはどっぷりと彼に浸かってしまう事になろうとは…



ピトリと彼に寄り添う私を抱き締めながら、

「ククッ。#name#は甘えん坊だねい」

などと口にする彼に、心より先に体が惹かれてしまったなどとは口が裂けても言えないと、思っていたのだった。








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