マルコ社会人編 | ナノ
#09 私の警戒音
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「やっぱりな。おかしいと思ってたんだ」
「…ごもっともです」
「あんな待遇聞いた事ねぇもんな」
「・・・だよね」
「しかしよぉ、マルコと知り合いだったなんてなぁ」
「うん。お財布拾ってもらったのが最初かな」
「へぇー。で?マルコと何があったんだ?」
「何がって…別になにもないよ」
「嘘つけ!マルコが秘書をつけるなんて、絶対なんかあるに違いない」
「私だってわからないの!何で秘書なんかしなくちゃ…」
「…まぁ、マルコは悪い奴じゃねぇからな。宜しくやれよ」
「わかってるよ…」
「で?ほんとは何かあったんだろ?まさか…やっちま…痛ってぇ!」
会社へ向かう車内で、あの裏話を彼にもしておかなければと話した処、ごもっともだが聞き捨てならない事を口にするエースに拳骨をお見舞いし、どうか一夜を共にした事だけはばれません様にと心の底から祈りつつ、私は今日から社会人としての第一歩を踏み出す事になった。
「あっちで入社式な。ほら、行ってこい」
「エースは?出ないの?」
「でねぇよ。学校じゃねぇんだぞ。仕事があんだよ」
「あ、そうだよね」
まだ学生気分が抜けていない私に溜め息を吐きながら、しっかりしろと背中を叩たかれ、彼はひらひらと手を振り長い廊下の先へ消えてしまった。
そうだなと。もう学生気分ではいけないと、自分でも気持ちを切り替えた処で入社式が始まる。
そして当然の如くマルコさんがいて、見るからにお偉いさんなのだと分かるその風貌に少し動揺した。
彼の正体を知ってしまってから、あまりにも自分とは身分が違い過ぎる彼に、私はこれからどう接していけばいいのか不安で仕方がない。
しかし、秘書とは一体何をすればいいのだろう…
間違いなく、四六時中マルコさんと共に居る事になるのだろうが、あんな事があったのだ。かなり気まずい。
それに、これからは”さん”ではなく”専務”と呼ばなければいけないだろうと考えた処で式が終わり、各々配属先の部署へと散らばっていく中、おろおろとしている私にマルコさ、専務が近づいてくる。
「クク、どうした?戦場にでも行くような顔だよい」
「えっ、そんな顔してましたか?」
「冗談だい。さ、#name#はこっちだよい」
肩を抱かれ、連れて行かれる私に皆の視線が少し痛い。
それもそうだろう。新入社員の私が専務に肩を抱かれているのだから。
「あ、あの!肩の手…どけてください」
「あ?なんだい、照れれるのかい?」
「っ! 皆みてますよ…」
「あー、ククッわかったよい」
そんなお気楽な彼に連れられてやってきた場所は専務室。
社の最上階にあるその部屋は、しっとりと落ち着いた雰囲気のインテリアに、客人用のソファーにテーブル。真正面を悠々と陣取っているのは彼のデスクだろう。
そのデスクの後ろの壁は全てガラス張りだ。下を見るのが少し怖い。
そして、左の壁には扉が三つ。その少し手前にあるのが…
「ここが、#name#のデスクだよい」
「は、はぁ」
やはり。彼には及ばないが、かなり上等な作りの机が置かれていた。
それから、この扉は、給湯室、更衣室、資料室など次々と説明をしてくる彼。頭がパンクしそうだ。
「#name#…」
「はい?わっ」
そんな今の現状に一つ一つ整理と記憶をしていた最中、ふわりと抱き締められた。
「あ、あの…」
「これから宜しく頼むよい」
「ぅ… こちらこそ宜しくお願いします」
何故抱き締めながら言うのだろう…。え?秘書ってまさか…
「あの…秘書ってまさか」
「ん?なんだい?」
「秘書って、その…そういう事をする為に?」
「そういう事?あぁ、ククッ違うよい」
そういう事。つまり彼のお相手をする役割なのかと思った私は、否定の言葉にかなり安心した。
そんな事をする為に、この会社に入りたかった訳ではない。
「ですよね!すみません、私ったら」
「#name#にはきちんと、秘書の仕事もしてもらうよい」
「はい。…も?」
「クク、あぁ、”も”だよい」
「”も”って、んっ!!」
先程から抱き締められたままだった私は、彼の言う”も”という発言に疑問を口にした処で…口を塞がれてしまった。
「仕事もしてもらうが…#name#はオレの癒しだよい」
「っ! 癒しって…肉体的奉仕はご遠慮します」
「ハハッ。やっぱり#name#は面白いねぃ」
「っーーーー!」
そうやってその日は終始からかわれ、事あるごとにキスをされ抱き締められと、間違いなくセクハラ部類に入る行為を連発する彼にこれから先が思いやられ、そしてとてつもなく不安が募ったのだった。
「#name#、晩飯食い行くよい」
「…はい」
「ククッ。あぁそれと、やっぱりスカートはもっと短い方がいいねい」
「……」
「ん?どうした#name#?」
「セーーです」
「ん?聞えないよい」
「セ・ク・ハ・ラ・です!!」
「クク、またそれかい。よしよし、大丈夫だよい」
何が大丈夫なのかは理解できなかったが、何故か、そこまで嫌ではない自分に、彼に惚れては痛い目に合いそうだという警戒心が、その日芽生えたのだった。