マルコ社会人編 | ナノ

#08 彼の正体



誰かに優しく包まれている様な、なにか心が温かになる感覚に意識がふわりと浮上していった。

目は閉じているものの、自分の頭を撫でる存在に意識が8割程ある頭でこれはローだと思った。

少し安心したが、いつ彼の元へ来たのだろうと、直に感じる素肌に頬を摺り寄せ腕を巻きつけた。

ん?ローはいつからこんなに逞しくなったのだろう?
彼とは違う感覚に、8割だった意識が9割になった瞬間、頭上から聞えてきた声に残りの1割が加担した。

「ククッ、起きたかい?」

「ぇ…」

明らかにローではない声色と口調にそろりと顔を上げてみれば、そこにはマルコさんがいるではないか。
それだけではない。お互い何も身に付けていない事に加え、ベットの上で彼に抱き締められているという事は…

「ぉ、おはよう御座います」

「ククッ、あぁおはよう」

何故かクスクスと笑いが止まらない彼は、喉乾いただろとするりとベットから降り、側にあったガウンを羽織ると扉の向こうへ消えていってしまった。

一人になり、急速に昨晩の事を思い出そうと頭をフル稼働させる。

ロビンと飲んで…あ、マルコさんが迎えに来たのは覚えている。それから…それから何故ホテルにいるのかは分からないが、確かに、確かにマルコさんに抱かれたのは事実だろう。断片的だが、少し思い出せる。うん。確実に体を交えたんだ。

そこまで記憶を呼び戻した処で、彼が飲み物片手に戻ってきた。


「ククッ、何考えてるんだい?ほら、」

「っ!! ありがとうございます」

私の様子がおかしくてしょうがないのか、彼の顔は緩みっぱなしだ。

「あ、あの…あ、いや…」

「クククッ、まさか、何にも覚えてないとでも…言う気かい?」

「い、いえ!覚えてますよ!はい」

「それは良かったよい、覚えてないんじゃ…悲しいよい」

「…はは」

とても切なげな目でそう口にする彼に、こうなった経緯を聞く事なんか…出来ない。

私ももう子供じゃないんだ。こうなった事は完全自己責任。腹を括るしかない。
しかし…酔って誰とでも寝る女だと思われるのは、嫌だな。

「あの、私初めてですからね!その、酔って…いや、えと」

「ん? あぁ、分かってるよい」

「んっ!! マ、」

「ククッ、可愛いねい#name#は」

極自然な流れでキスをしてくる彼に、私は言葉に詰るほど驚いた。
しかし、なんて女慣れしているのだろう。彼には一夜限りのこんな行為も、日常茶飯事なのだろうか…

「あー、言っとくが、オレは好きでもない女を抱く趣味はないからねい」

「はぁ…はい!?」

「ククッ、ほんと#name#は面白い反応をする子だねい」

「だって、え?好きって、誰をですか?」

「ははっ、#name#に決まってるだろい」

「…!!」

ほんとこの人は…さらりと口から出るあたり、遊び人か、余程肝の据わった人なのか…とにかく、私なんか足元にも及ばないくらい大人な人なのだろう。

「あんまり、からかわないでくださいよ」

「ん?オレは本気だよい。あぁ、後大事な話しがあるんだが…」


その後、彼の大事な話を聞いた私は、先程の目覚めを遥かに越える驚きを体験する事になる。

「なななな、なんと?今なんと言いました?」

「驚きすぎだよい…まぁ仕方ないか」

「じ、じゃぁ…私が合格したのは、マルコさんが裏で…?」

「あぁ、まあそうなんだが、#name#を欲しいと思ったからそうしたんだい」

「…い、家の事も?」

「あぁ、そうだよい。エースと同じ家なんかに住まわす訳には行かないからねい」


なんて事だ…そんな裏があったなんて。すべては私の実力でもなんでもなかったのか。だけど、これでこの奇妙な幸運続きな出来事に納得がいった。

「何だか…ショックです」

「なんでだい?これも#name#の実力のうちだろい」

「ぅ…こじつけしないでくださいよ」

「そんなんじゃねぇよい。それと、入社したら#name#にはオレの秘書をしてもらう」

「はい!?む、無理ですよ!!秘書?絶対無理です!!」

「無理じゃねぇよい。これはもう決定事項だ」

「マルコさん!!」

「これから社会人になるんだろい?与えられた仕事はきちんと責任持てよい」

「っ…!!」

そんなごもっともな台詞で私を黙らせた彼は、優しくキスをくれながらオレが付いてるから大丈夫だと頭を一撫でし、この後少し付き合ってくれと身支度を始めたのだった。


その後彼に連れてこられたのは、かなり値が張りそうな高級ブティック。

「マルコさん?あの…」

「あぁ、秘書は制服がないからねい、服は全部揃えてやる」

「えっ!?」

「この子に合う服を頼むよい。上から下まで全部だ」

そんな淡々と事を進める彼に唖然となりながらも、大量の服を用意されていくのを見て、もう後戻りは出来ないと、私は先程の納得を覚悟に決めたのだった。






「もう少し、スカートは短い方がいいねい」

「!!マルコさん…セクハラです」

「セク…クク。そうきたかい」

「……」




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