先生ver vol
| ナノ
#44 大人の解釈
![](//static.nanos.jp/upload/j/jyuira/mtr/0/0/20110915235847.gif)
マルコside
パチリと目が覚めた。大方しこたま飲んだ翌日はこうだ。
酷く渇いた喉と、僅かな頭痛に不快を感じながらも一糸纏わぬ自分の格好に気付きじわりと冷や汗がでた。
オレはいつ脱いだのかと。
昨晩の記憶が全くない状況に目眩を感じながらも、ふと、隣に温もりを感じ一瞬体がビクついた。
何故#name#が居るのだろうか…。
そんな疑惑を頭に浮かべながら、周りを見渡せばそこは彼女の部屋だった。
これまたいつ来たのだろうと、失っている記憶を無理矢理呼び起こすも、答えは出てこない。
スッキリしないのも気持ちが悪いとオレなりにこの状況を解釈した。
《酔って恋人の部屋を訪れ、そして抱いた》
まぁ、こんな感じだろうと一人納得し、ご丁寧にベッドサイドに置かれているミネラルウォーターに手を伸ばす。
常温の生ぬるい液体を喉に流し込みながらそろりと布団を捲れば、やはり裸の#name#に溜め息が漏れた。
間違いなく体を重ねたのだろうが…悪りぃ#name#。覚えてねぇよい。
何度目かの溜め息を吐いた所で、もぞもぞと彼女が身じろぐ。
「ん…ぁ、おはようございます」
「あぁ…おはよう」
寝ぼけ眼だった彼女は、オレと視線が合ってから急速に顔を赤らめ始める。
「? どうしたよい?」
「ぇ、 だって…昨日」
そうもじもじと言葉を繋ぐ彼女の様子に、何かしでかしてしまったんだと直感した。
「あー、その…悪い。昨日の記憶が…よい」
「ぇ…。覚えてないんですか?」
「いや…だから悪いって。あー、オレ、何かしたかい?」
「ふふ…。知りたいですか?」
「…何した?」
それから不適な笑みを浮かべた彼女に、ここへ来た経緯、口にした事、体を重ねた事などを聞き、やってしまったと盛大な溜め息が出てしまう。
それでも、ニコニコと未だ顔を赤らめ熱い眼差しを送ってくる彼女に、傷つける様な粗相はしていないと確信し胸を撫で下ろした。
しかし…先程の不適な笑み。嫌な予感がしてならないオレはそれだけかと、再度問い質す。
「ぇへ、 まだありますよ、これ、一番重要」
「な、なんだい…」
ゴクリと生唾を飲み込む。彼女のこの表情…きっと、否、必ずよからぬ事を口にする気だ。
「昨日…」
「あぁ…」
「されたんです」
「何をされたんだい?」
「マルコ先生に…」
チッ。やけに勿体つけやがる。早く言えよい!心臓に悪りぃ…
「#name#、早く言えよい」
「わっ、何で睨むんですか…?怖い」
「早く言え」
「は、はい。プロポーズされました!!」
「……誰にだい?」
「そんなの…マルコ先生に決まってるじゃないですか」
「……」
当然だが…身に覚えがねぇ。だが彼女のこの態度。嘘だと言ったらどうなる?
間違いなく激怒するか、泣き出すか…奇跡で酔っていたから無効だなんて…言わねぇな。
「ぇへへ… 死ぬ程嬉しかったです」
「ぁ、あ…#name#」
「ふふ。どうせ覚えてないって言うんでしょ?」
「っ! あぁ、悪い」
「だと思って…じゃーん!」
そうして裸のまま恥じらう事なくベッドから降り、何かを大事そうに持ちながらオレの上に跨がる彼女。
「…携帯?」
「はい! 名付けて"動かぬ証拠"です!」
「…」
「ちょっと待ってくださいね…はい!聞いてください!」
《いいよい。結婚してくれよい、#name#》
「ね?」
「……」
もはや言葉が出なかった。録音までしやがって…
これは…どうすればいい?言い逃れは出来ねぇよな…。いや、しかし…。
結婚なんて…無理だろい。
「マルコ…先生?」
「あ、いや…あのよぅ」
「…嘘。なんですね?」
「いや、嘘っつうか…」
「覚えていない…から?」
「ぅ…あぁ…」
「結婚なんてする気はない…と?」
「…いや…悪りぃ」
オレの謝罪を聞くや否や、無言のまま立ち上がり部屋を出ていく彼女。
あぁ…傷付けちまったと胸が痛んだが、正直結婚なんて彼女にはまだ早い。
オレ的にはいいんだよい。歳も歳だしねぃ。
しかし彼女はまだ十代で学生だ。
まだやりたい事も色々あるだろう。
それにだ。オレしか男を知らない彼女は、これから先、成長していくにあたって、男の好みや求めるものも変わっていくに違いない。
まだ成長段階の彼女を、結婚なんて制度で縛るのは…ダメだよい。あぁ、絶対にダメだ。
そう考えを纏めた処で、服を身に付け彼女の元へと足を向けた。
さぁて、どうやって機嫌を直そうかねぃ…
ガチャリと戸を開ければ、ソファーに膝を抱えうずくまっている彼女。
ゆっくりと歩みより、優しく包み込む。
「#name#?あのよい…」
未だ膝の間に顔を埋めている彼女に、先程纏めた考えを話す。
全て伝え終わっても、無言の彼女に頭を抱えた。
「#name#?結婚と恋愛は別物なんだよい。分かるだろい?」
「…」
「#name#にはまだ早い」
「っ…」
「分かって…くれよい?」
「…はぃ」
彼女のその言葉に、安堵の溜め息がでた。
分かってくれたかと。
そのまま、終始元気がなかった彼女を気に掛けながらも、また明日と自宅に戻った。
酔った勢いとはいえ、彼女にあんな顔をさせてしまった事に酷く後悔しながらも、済んだ事はどうしようもないと腹をくくりこの件はこれで解決したと、オレは思っていた。
そう。彼女が何を考えていたかなんて…オレは知る由もなかったのだ。
2011/07/31