先生ver vol
| ナノ
#42 天邪鬼な彼
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私に対する、彼の扱いがなっていない気がする。
唯一、恋人として行っている行為は身体の繋がりだけ。
の様な気がする今日この頃。
彼は本当に私を愛してくれているのか…不安だ。
「失礼しますよい…」
「…真似すんなよい」
今朝の事を未だに根に持っている私は、嫌がらせを兼ねて彼のもの真似で登場してやった。
「だって…起きたらいないんですもん」
「気持ち良さそうに寝てるのに、起こせるかよい」
「それでもですよ!起きた時のあの虚しさときたら……」
どうせマルコ先生には分からないんだと、どれだけ悲しい思いをしたかを切実に訴えた。
「悪かったよい。そんなに怒るない」
「…もうしないで下さいよ」
「はいはい」
「それと…」
「ん?」
「それと…何でもないです」
「なんだい?」
すぐそこまで出掛かった言葉を急いで飲み込んだ。
私の事ちゃんと愛してくれてますかなんて…言った後の反応も怖ければ、いちいち聞く自分が虚しい。
「何でもないですって」
そうして誤魔化す様に抱き着き、彼の愛を無理矢理確かめるかの様に温もりを味わう。
「くすぐってぃよい」
「チャージ中なんです」
「なんだい、そりゃ」
良かった。私を優しく撫でてくれる大きな手からは、ちゃんと愛しさが伝わってくる。
大好きです!マルコ先生!!
「ぐっ…苦しい…んだよい!!」
「きゃ!! 痛っ!!」
な、何をするマルコ先生…
私は想いあまって、少し力を入れ過ぎただけなのに。
恋人を…仮にも恋人を…
「突き飛ばす事ないじゃないですかーーーー!!もういいです!!」
そうして勢いよく扉を閉め、今朝の怒りに拍車を掛けて怒りマックスの私は、本気で彼の気持ちを疑いだしていたのだった。
どうしてあんなに冷淡な態度をとるんだと、彼は今までの恋人にもあんな態度だったのかと、渦巻く疑惑はとめどなく溢れてくる。
これは・・・
聞くしかないと電話を取り出した私。
「あれ?#name#ちゃんどうしたの?」
「ハルタさーん!!」
「あ!分かった。マルコと喧嘩でもしたんでしょ?」
「ぅ…喧嘩じゃないんですけど…少し聞きたい事が…」
それからハルタさんに時間を作ってもらい、近くのカフェで落ち合う約束をした。
兄弟の彼ならば、長い間マルコ先生を見てきている。
きっと、何かしらの解決策を持ち合わせている筈だ。
「すみません、わざわざ来てもらって」
「いいよ!#name#ちゃんなら大歓迎さ!」
「お兄ちゃん!!ありがとうございます」
「…うん。で、どうしたの?」
「はい。実は…」
それから、マルコ先生の冷淡な態度の事から、今まで付き合った子とはどんな様子だったのかなど、私のマシンガン追跡は長々と続いた。
「ハハッ。そうなんだ。フフ」
「わ、笑い事ではないんですよ!」
「あ、ごめんね。うーん、でもさ、」
マルコはそんな半端な気持ちで、好きでもない子と付き合ったりしないよと。
もっと自信を持っていいのだと、嬉しい言葉を言ってくれた。
「う…はい。でも…」
「あ、それにさ、マルコの彼女なんて初めて見たんだよ?」
「ぇ…?マルコ先生、歴代彼女居ないんですか?」
「たぶん。居たかもしれないけど、兄弟にも公表して、親父にもあっと」
「親父さんにも…?何ですか?」
「いや……これ、絶対内緒だよ?」
「は、はい!内緒ですね!!」
「実は…」
内緒と言うフレーズに少し緊張したが、その後に続く彼の言葉に、私は酷く驚いたのだ。
なんとマルコ先生は、私との関係を認めてもらう為に、親父さんに土下座までして頼んだのだと。
「もともとさ、親父に言われてたんだよ。生徒に手を出すなってね」
「そんな事が…土下座までして…」
「うん。だからさ、あんな態度だけど信じてやってよ」
「はい!信じます!!」
それから、ハルタさんに相談して良かったと。何度もお礼を言って別れたのだった。
家に着いても、私の緩みきった顔は止まらなかった。
なんて天邪鬼な態度!!そんな彼が、すごく可愛くてしょうがなかったからだ。
あれは照れ隠しだったのかと、一人結論を出し、再びニヤケる。
そんな彼の裏話を知ってしまった私は、これからそんな彼を疑う事なく、信じていこうと心に決めたのだった。
「マルコ先生っ!」
「クク。もう機嫌は直ったのかい?」
「はい!すこぶる良いですよ」
「そりゃぁ良かったよい」
私の機嫌が直った事に、何だか嬉しそうな彼を見ながら、瞬時に思い浮かんだ彼の裏話。
「もうっ!大好きです!!」
何の脈略もなくそう告げる私に、
「なんだい?ニヤニヤして気持ち悪いよい」
「はいはい、いいんですよ気持ち悪くて」
以前なら、気持ち悪いなんてご法度発言、ガックリと落ち込む所だが、これは愛情の裏返しなんだと、信じて止まない私はその言葉にさえ愛を感じていた。
「はぁ…。それよりよい、何だい?これは」
「ん?何ですか?」
彼にしがみ付きながら、差し出されたプリントに目をやった。
「ここも、ここも、間違ってるよい」
「へぇ。気のせいじゃないですか?」
「気のせいな訳あるかい!追加だよい」
「は?」
そうして追加と化して私の目の前にドザリと置かれたプリントの山。
「なんですか?これ?」
「明日までにやってこい」
「無理ですよ!しかもこの量…」
そう。それはお仕置きに出された量の二倍はあるだろう、軽く百科事典の様な分厚さだった。
「#name#の為にやってるんだい。愛だよい、愛」
「愛の発音が棒読みでしたよ!?」
「気のせいだい」
「気のせいじゃないです!!」
「いいから、やってこい。あ・い・だよい」
「これが、…愛」
至極愉快そうにそう口にする彼を見て、私は確信した。
彼は天邪鬼ではなく……ドSなんだと。
そして、ほんの少しだけ、本当に少しだけ、また彼の愛情を疑ってしまった私だったのだ。