先生ver vol
| ナノ
#63 鬼畜な彼
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「おい、いつまで寝てるんだい?」
「永遠に…」
「はぁ…ったく起きろよい」
「痛い痛い痛いっ!止めてくださいよ!」
「そういうのは動かした方がいいんだい」
「い、今は無理です!いゃ!触らないでください!」
「生意気な事言ってんじゃねぇよい!おらっ」
「ぎゃーーー!!」
昨日行われた持久走大会。朝から計五時間も走らされ、翌日見事に筋肉痛に襲われた私。
それを鬼畜婚約者に、無情にも一番痛い足を掴まれたのだ。
なんて極悪非道!
「マ、マルはいいですよ!車に乗ってニタニタ笑ってただけなんだから!」
「ニタニタなんてしてねぇよい。しっかり見守ってただろい」
「あれは見守ると言うより、明らかにドS顔の鬼畜教師でしたよ!」
「あ?何だって?」
「ぎゃー!!タンマです!痛いんですって!!」
「いいから起きろい!休みだからってダラダラすんじゃねぇよい」
「……酷い」
そうして無理矢理起きなくてはならなくなった私は、何とも不思議な歩き方でリビングまで辿り着き彼の隙を見てソファーに雪崩れ込んだ。
「痛い…痛すぎる…」
今日が休みで良かったと心の底から安堵したが、我が家には強敵が居る。アレをどうにかしないと私の身の安全は保証されないだろう。
「あっ!てめぇもう寝てやがる。起きろよい」
「……お断りします」
だが隠れる場所なんてない我が家では、鬼畜教師に直ぐに見つかってしまった。
「飯は?もう直ぐ昼だぞい」
「出前…とりましょう」
「はぁ…。何がいいんだい?」
「ピザか天丼がいいです」
「ったく、仕方がないねい。ピザでいいかい?」
「はいっ!」
今は料理の支度なんて絶対したくない。彼もその辺は理解してくれていたのだろう。直ぐに電話を掛けている。と言うより単に空腹なだけなのかもしれない。
しかし私にとっては願ったりだ。そしてこのままほっといて欲しい。
「ったく、マッサージしてやろうかい?」
「はっ!!絶対嫌ですよ!!」
「安心しろい。スポーツマッサージの心得はあるよい」
「いやいやいや!!指一本触らないで下さいよ!!切に!!」
「#name#。オレを信じてないのかい?」
「そう言う問題じゃないんです!今はダメです!触らないで下さい!」
私は今日一日で、何回同じ台詞を言えばいいのだろうか…
そんな不安を思い描いた所で彼が次なる策を立ててきた。
「じゃぁよい、シップ貼ってやろうかい?シップ。」
「シップ?何だか二回言う所が怪しいのでお断りします」
「ちっ。じゃぁどうすんだい?今日一日寝てるつもりかい?」
「はい」
「即答すんじゃねぇよい!いいからシップ貼ってやる」
「いいですって!もう、あっち行ってください!」
「ほぉー。オレにそんな扱いすんのかい?あ?#name#?」
「だって…絶対痛い事しますもん」
「しねぇよい。オレを信じろい」
「……じゃぁお願いします」
確かにシップを貼れば少しは痛みが和らぐだろう。だけど、否、絶対に彼は何か仕掛けてくる。絶対にだ。
そうしてシップ片手にニタニタと笑みを浮かべながら近づいてくる彼を、恐怖の眼差しで見つめながら再度念を押す。
「痛い事したら許しませんよ?」
「おう」
私は必ず仕掛けてくる彼を凝視しながら事が終わるのを見守った。
しかし予想は外れ、優しく作業を進める彼。
「あれ?意外でした。普通にしてくれるんですね」
「あ?当たり前だろい…」
そう此方を見ずに告げる彼は、黙々とフィルムを剥がし私の足にシップを貼っている。
なんだ。思い過ごしかと安心した刹那。
「ぎゃぁーーー!!」
「ククッ。今隙を見せたろい?」
「痛い!!嫌だ!鬼!ハゲ!バナナーーー!!」
「#name#。禁句ワード炸裂だねい。もう許さないよい…」
「ひぃ!止めてっ!いや…痛っーーーーい!!」
「ククククッ。楽しいよい」
《ピザお届けに参りましたー》
「ピザピザ!!ピザがきましたよ!!」
「ちっ、取り合えず休戦だねい」
「休戦…」
その日、夜遅くまで私の断末魔な叫びがマンション中を駆け巡ったのだった。