先生ver vol<img src="//img.mobilerz.net/img/i/63880.gif" border=0 align=absmiddle /> | ナノ

#62 口の軽い彼女




「#name#!珈琲淹れてくれ」

「……」

「#name#?」

「………」

「……」


よく晴れた日曜の昼下り。
キッチンで昼食の後片付けをしている彼女に茶の催促をするも、その声が届いていないのか返事は返ってこない。

そんな彼女の難聴を疑った所で、読んでいた雑誌を静かにソファーに伏せ彼女に歩み寄る。

悪戯心満載なオレは、ゆっくりと背後から近付き勢いを付けて肩を叩いてやった。

「わっっ!!?」

「ククッ、何ボーッとしてんだよい?」

「もぅ…驚かさないで下さいよ」

「何度も呼んだんだがねい、気付かない#name#が悪いよい」

「ぇ、全然聞こえませんでしたよ?」

「…耳鼻科行くかい?」

「……行きません」

「で?何してるんだい…?げっ!?」

「魚を捌いてます。昨日サッチさんに貰ったんですよ、秋刀魚!」

「捌くって…これはどうみても秋刀魚殺人事件だよい」

「…失礼な。だって魚なんて捌いた事ないんですもん」

「まぁ…オレもねぇが、これは酷いだろい?食うとこねぇじゃねぇか」

「いいんです。練習ですよ!練習!」

「秋刀魚が不憫だよい」


どこからどう見ても捌くというよりは魚をただめった刺しにしているとしか思えない光景に唖然とするも、必死に秋刀魚に立ち向かい悪戦苦闘している彼女を見て、手助けしたくなるのは惚れた弱味か。
オレは静かに携帯を手に取った。



「あー、もう全然上手くいかない!!」

「ククッ、もうすぐ助っ人が来るよい」

「助っ人?助っ人って…あ」

そろそろ来るだろうと踏んだ矢先、訪問者を知らせるチャイムが鳴った。

未だ不思議顔の彼女を一撫でし、オレは玄関に向かう。
これであの殺人現場も片付くだろう。


「よっ!救世主のご登場だぜ」

「あっ!サッチさん!!」

オレの予想通り、彼女は嬉しさ隠す事なく喜びを露に…

「抱きつくんじゃねぇよい!」

抱きつきやがった。
そんなスキンシップは要らねぇよい。

「おぅおぅ!兄弟に妬くんじゃねぇよ。で?あの秋刀魚が捌けないって?」

「あ、はい。包丁の入れ方が解らなくって。難し過ぎです」

「うんうん。お兄さんが易しく教えてあげるから安心しな」

「はい!ありがとうございます!」

そうして彼女の手助けをし、一安心したオレは漸く淹れてもらった珈琲片手に再び雑誌に目を通しだした。

しかし、否応なしに耳に入ってくる二人の会話。
きゃっきゃとはしゃぐ彼女の声に、大丈夫だと落ち着かせる声色のサッチ。

会話だけ聞いていると、まるで恋人同士の馴れ合いのようだ。

徐々に沸々と沸き上がる嫉妬心に堪えきれなくなったオレはキッチンへと足を向ける。


「ん?マル、おかわりですか?」

「いや…まだ終わらないのかい?」

「まだって、初めたばかりだぜ?」

「煩せぇよい!まだかよい?」

「まだですよ…あ、もしかして暇なんですか?」

「…あぁ」

「へぇー。暇ねぇ?」

「そんなに暇ならお使い頼んでいいですか?」

「は?オレ一人で行くのかい?」

「え、だって私達秋刀魚と奮闘中ですもん」

「ククッ。お使いも一人で行けねぇのか?」

「…サッチ。分かったよい、何買ってくればいいんだい?」

「あ、じゃぁこれお願いします」

「…よい」


そんなオレの可愛い嫉妬心を暇だと偽った解釈をした#name#と、見透かす様な殴りたくなる笑みを浮かべるサッチを一睨みし、少し不貞腐れながら玄関に向かった。

「…おい!!」

「何ですかーーーー?」

使いに出掛けるオレを見送りもしない彼女は、キッチンから声だけで返事をしてくる。
その問い掛けに無言で彼女が来るのを待つ。

「マルーーー?何ですかー?」

未だキッチンにへばり付いている彼女は、此方に来ようともせず声を強めるだけだ。

「ちょっと来いよい!!」

全くオレの心中察していないと諦めたオレは、主語を伝え彼女を呼んだ。

「もう…今忙しいのに。忘れ物ですか?」

「……は?」

「え?聞えませんよ?」

「いっ…の…キ…は?」

「もう!はっきり喋ってください!!」

「ちっ。見送る時はいつもするだろい!?」

「…あっ!行ってらっしゃいのキスですねっ!」

「…ちっ、そうだよい」

「はい!行ってらっしゃい、ちゅっ」

「……行ってくるよい」


なんて恥ずかしい事をしているんだと自嘲するが、オレを蚊帳の外扱いする#name#が悪いよい。
そうして、オレの意思で起こした結果だが折角の休日。出来れば二人きりで出掛けたかったと、ぶつぶつと一人不満を撒き散らしながら頼まれた品物を買いに行く。


「買ってきたよい」

「ありがとうございます!お茶淹れますね」

オレが帰って来た頃にはお料理教室は終わっていて、彼女はサッチと二人優雅に茶を啜っていた。

「これでもう#name#ちゃんは完璧料理人だぜ!」

「そうかい」

「なんだよ?お前の為に頑張ってるんだろ?」

「…わかってるよい」

そうだ。彼女が料理に奮闘するのは、オレに美味しい食事を与える為だ。
そんなの従順承知だよい。

「はい!どうぞ」

「あぁ、ありがとよい」


そんな可愛い婚約者に感謝しつつ、先程苛ついた事に大人気なかったと反省し、他愛もない話をした所でサッチのご帰還だ。

「じゃぁ、また何かあったらいつでも言えよ」

「あぁ。すまないねい」

「今度は煮付け教えてくださいね!」

「おう!任せとけ!で、マルコ」

「なんだい?さっさと帰れよい」

「言われなくても帰るぜ、その前に…ん」

「なんだい?気持ち悪いよい」

「気持ち悪い言うな。ほら、いつもするんだろ?オレにもしろよ、行ってらっしゃいのキス」

「っっ!!!#name#!!」

「え、あっ、もう!サッチさん内緒って言ったでしょ!?」

「クク、あー悪ぃ。だってよぉ、行ってらっしゃいのチュウ催促するなんて…あのマルコが…ハハハッ…痛って!!」

「誰かに喋ったら…分かってんだろうねい?」

「ひぃっ!!はい」

「分かったならさっさと帰れい」

「はい!さようなら!!」


今オレの顔は恐らく、否、間違いなく般若もびっくりな怒り顔だろう。
その顔をゆっくりと彼女の方へ向けたオレは…

「逃がすかよい!!」

「あっ!ごめんなさい!!もうしません!!」

脱兎の如く逃げ出そうとした彼女の腕を素早く掴み、楽しい楽しいお仕置きタイムが始まったのだった。






「またですかー!?もっとバリエーション増やしてくださいよ?」

「……じゃぁ、フルマラソンでもするかい?」

「え、絶対嫌ですよ。いいですプリントで」

「じゃぁ大人しくしてろい」

「……ちっ」

「あん?」

「ひぃ…」




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