先生ver vol
| ナノ
#61 彼の勘違い
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「お願いします!」
「…無理なお願いだねい」
「何でですか!?卒業旅行ですよ!?」
「…ダメだねい」
「マルだって卒業旅行くらい行ったでしょ!?」
「オレはオレ」
「理不尽!!」
「ふぅ……#name#。聞き分けが悪いねい」
「っ…」
最強に目付きの悪い彼に睨まれ、その射殺さんばかりの眼差しに思わず言葉を飲み込んだ。
そう。私は今、彼に卒業旅行へ行く為の許可を得ようと交渉中なのだ。
しかし、頑なに首を縦に振らない彼に、こちらも負けじと交戦中という訳なのだが…そんな威圧的な彼につい、怯んでしまう。
「な、なら、無断外泊しますよ」
「そんな事してみろい、首輪着けるよい」
「首輪!?愛しのハニーにそんな拷問するんですか!?」
「ハッ、愛しのハニーならもっと聞き分けがいい筈なんだがねい」
「っ!!何でダメなんですか!?理由!明確な理由をお願いします!!」
「あ?そんなもん…」
「そんな…もん?」
「…」
「…?」
「…兎に角ダメだ」
「っ!?理由になってないですよ!」
「チッ。ダメなもんはダメだよい」
「…酷いです」
「…」
「…」
「もうこの話は終わりだよい」
「もう!頑固親父!!」
「あ゙?」
いくら喰い付いても頑なな彼に思わず罵声を発してしまったが、その言葉を聞いた彼の目付きと声がシャレで済まない音色になって、思わずビクリと体が跳ねた。
付き合ってきた経験上これ以上は退けと、警報が鳴ったのだ。
「フッ。#name#。もうすぐ終わるから待ってろよい」
「っ…はい」
怯んだ私に満足そうに口角を上げ、してやったりな顔と共にこの話を終わらせた彼にピクリと顔が引き吊る。
一体何がそんなに気に食わないのか、全くの聞く耳持たずな彼にに苛々が募っていく。
高校生活の締めとも言えるこの旅行、何としてでも行きたいのに。
大学入試も無事終わり、卒業したら中々会えなくなるやもしれぬ友人達と皆で旅行する。
これの何が気に食わないのかさっぱり分からない。
そんな仏頂面の私と無表情の彼。
一言も会話する事なく自宅へ戻り、今に至る。
「いい加減、機嫌直せよい」
「……」
「…いつまで口を利かない気だい?」
「……」
「はぁ…参ったねい」
大いに参ってくれ。理由もなしにただ頑なに却下され、威圧されと何もかも納得がいかない。
許可をくれるか、明確な理由を述べてくれるまでは、頑として無視を決め込むと決意を固めた。
「…#name#。…ご馳走さん」
「っ…!?)
「さー、風呂でも入ろうかねい」
「っ……!!」
何食わぬ顔で箸を置いた彼は私の無視攻撃なんてまるで気にした様子もなく席を立った。何!?あの余裕しゃぁしゃぁな態度は!?大方、私から折れてくると高を括っているに違いない。腹の立つ!
そう易々と彼の思惑通りにはなるものかと、私は更なる意気込みを入れた。
「#name#も一緒に入るかい?」
「っ!?」
「ククッ…今なら全身、オレが洗ってやるよい」
「!!」
卑怯な事この上ない。今ここでその手を使うのか。正直…非常に入りたい。
否、でも…そんな事をしたら彼の思うツボじゃないか。でも…
「入りたくねぇならいいよい」
そんな、結果は分かりきっていますと言わんばかりのどや顔。やっぱり腹の立つ。
しかしこんなチャンス滅多にお目にかかれない。前々からしつこくせがんでも、体までは洗ってくれない。そんな訳で思わず伸びた私の腕。
「ククッ、じゃ、入ろうかねい」
「……くっ」
く、くそう。
人の弱味につけ込む冷酷非道人間め。
だけどまだ諦めた訳でも、負けた訳でもない。要は口を開かなければいい事だ。それで私の執念さと熱意が伝わる筈。
しかし、そんな甘い考えが通用する訳もなく…
「ククッ、いつまでもつのかねい?」
「っ…!」
意地悪の最上級を行く彼は、泡の付いた滑りのいい手で必要に私の胸を攻めてくる。
「ん?まだ喋らない気かい?」
「ぁっ…!」
「ふっ、今少し漏れたねい?」
先程から、胸の先端を微妙なタッチで逸らしていた指が、思い立ったかの様に触れてきて思わず漏れた甘い声。
「ぁっ…! ンっ」
一度触れた彼の指先は、もう遠慮する事なく先端を弾きながら攻めてくる。
そんな卑怯な彼から逃げるように私は少し身を逸らした。
「おっと、逃げるなよい」
「ひゃぁ!?もぉーーーー!!!」
いとも簡単に腰を捕まれ、退路を断たれた私のだんまりは、脆すぎると言うニュアンスがしっくりくる程…短い命だった。
「卑怯です」
「ハッ、経験の差だろい」
「それが卑怯なんです!だいたい何でダメなんですか!?」
「煩いねい…まだ諦めてないのかい」
「だって…行きたいんですもん」
「仕方がないねい…じゃぁ条件付きだい」
「え!?行ってもいいんですか?」
「条件のむならな」
「はい!もちろんです!条件とは?」
「…。あぁ、女だけなら行ってきていいよい」
「は?元から女だけで行くつもりですけど…」
「は?野郎は一緒じゃないのかい?」
「一緒の訳ないじゃないですかぁー。いやだなぁ」
「そ、それならそうと早く言えよい!」
「いった!私初めに言いましたよ?」
「…そうかい。聞いてなかったよい」
「じゃぁアレですね!つまり焼きもち妬いてたんですね?」
「誰がだよい…」
結局彼の勘違いで終わった今回の騒動。幾つか許しがたい所はあったが、これも不器用な彼の愛情表現の一つなんだと。私は彼に更なる愛しさが生まれたのだった。