先生ver vol
| ナノ
#60 彼の独占欲
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「ん…ン…ぅ…ぐぉ!!!」
ハッハッハッハッ…ワン!!
「このブサ犬…なんで寝室に…おい、#name#はどうした?」
ワン!
「…」
ワン!ワン!
「…チッ」
ワン!!
「…何だよい」
ワンワン!!
「…腹が減ったのかい?」
ワン!!
「はぁ…」
オレは朝から、ブサ犬からの熱烈な舐め回しに合い…目が覚めた。
昨日、最後くらい一緒に寝たいと聞かなかった彼女は、頑なに嫌がるオレに、だったら別々に寝ると言い出しブサ犬と共に和室で寝た筈なんだが…
「まだ寝てるのか…」
まあ、あんな舐め回しくらいじゃ彼女が起きる訳がねぇ。
ブサ犬、オレの女を甘く見すぎだよい。
ニヤリとブサ犬に目を向ければ、腹が減りすぎているのか噛みつきそうな勢いで飛び掛かってきた。
「てめぇ…。おっと、その前に顔洗わせろよい」
ワン!
「…生憎犬語は分からねぇんだい」
そうして舐め回されたお陰で臭くなった顔を洗い流し、ブサ犬の腹を満たさせる。
「…食い方も不細工だねぃ。美味いかい?」
ワンワン!!
「お前は尻尾が無いに等しいからねい…感情がよく分からなぇよい」
ワン!
「風呂…入れてやろうかい?」
ワン!!
「よし。食ったら風呂な」
別に犬が嫌いな訳じゃねぇ。ただ…まぁ、最後くらい可愛がってやるよい。
そうして臭いブサ犬を抱え風呂に入れてやる事にしたオレは、生まれて初めて犬と風呂に入るという経験をしたのだ。
「お前よい、なんでそんなに臭いんだい…?」
ワン
「ククッ、臭い連呼するなってかい?」
ワン!
「ハッ、オレも犬語が分かるようになってきたのかねい」
ワンワン!!
「だが…お前は飼えねぇよい」
クゥーン
「悪りな。お前に罪はねぇんだが…まぁ、悪い様にはしねぇよい」
ワン!!
「お前…犬のくせに言葉が解るのかい?」
ワン!
「…な訳ねぇか。おら、流すよい」
ワン!
「順応だねい、#name#もこのくらい聞き分けがよかったらいいのにねい」
ワン…
「ん?なんでお前がしょげるんだい?」
クゥーン
「#name#の悪口言うなってか?」
ワン!
「ククッ、別に悪口じゃねぇよい」
ワン!ワン!
「うぉっ!体を振るんじゃねぇ!うぇっ」
そんな犬との初セッションを繰り広げていると、控えめに風呂場の扉が開いた。
「マル…あっ!!こんな所にいた!」
「あ?あぁ、臭ぇからよい、風呂入れてやったんだい」
「むー。私さえまだ一緒に入ってないのに…」
「そこかい…」
「まぁいいですよ。ほら、おいで!!」
ワン!!
「よしよし。綺麗になりましたねぇー」
「……」
「よーし、あっち行きましょうね?」
ワン!!!
「おはようくらい言えよい…」
いきなり現れた彼女にオレの好意は上書きされ、挨拶もなしに、彼女とブサ犬は短けぇ尻尾をこれでもかと言うほど振りながら風呂場から消えていった。
「オレが入れてやった事を忘れるなよい…あと飯も」
風呂から上がったオレは、彼女とブサ犬の元へ足を向け、今後のブサ犬について話す事にした。
「そのブサ犬は、オレの実家で飼ってもらうよい」
「…どうしてもダメなんですか?」
「あぁ。#name#、お前そいつが腹減ってんのに起きもしねぇじゃねぇか」
「ぅ…」
「#name#には無理だよい」
「ぅぅ…はい」
「昼から行こうかねい」
「はーぃ…」
そうして渋々納得した彼女を引き連れ、オレ達は実家へと向かった。
実家には犬好きな野郎がウヨウヨいやがる。
誰が一人くらい面倒見てくれるだろう。
「お、マルコと#name#じゃないか!どうした急に…おおぉ!!」
「あぁ、実はよい…」
「なんだ!?この可愛らしい犬は!!」
「おぃ…」
「こんにちはビスタ先生!可愛いでしょ!?このワンちゃん!!」
「ああ!!可愛いな!#name#の犬なのか?」
「いえ…」
「ん?」
「このバカがよい、ダメだと言ったのに勝手に買ってきたんだい」
「#name#、ダメじゃないか!マルコの言う事をちゃんと聞きなさい!」
「ぅ…はい」
「でよい、誰が飼ってくれねぇかと思って連れてきたんだが…」
「そういう事か!!ならばオレに任せろ!!」
「いいのかい?」
「ああ、勿論だ」
「ビスタ先生ありがとうございます!!」
「ああ。今度からはきちんとマルコと相談するんだぞ?」
「はい!!」
「じゃぁ、悪いが頼んだよい」
「え?もう帰っちゃうんですか?」
「ここに居てなにするんだい?」
「犬と戯れる」
「はぁ…じゃぁオレは帰るからよい、#name#は戯れとけよい」
「はーい」
「…後で迎えに来るよい」
「はーーーい」
そんな終始オレより犬にお熱な彼女を置き去りに、オレは自宅へと帰った。
それにしても厄介な犬だよい…。
あんなもん飼ってみろい。彼女はオレの事なんか見向きもしなくなりそうだ。
現に片時も離れたくないと、口癖のように言っていたにも関わらず…アレだい。
あいつを引き渡して、まったくもって正解だったよい。
そうだ。オレは彼女をとられるのが…嫌だっただけだ。
犬は別に嫌いじゃねぇ。寧ろ好きな方だ。
だが耐えられねぇ…オレより犬を優先するなんてよい!
それから数時間後、そろそろ迎えに行かなければ拗ねているだろうと、オレは彼女の元へと向かったのだが…
「きゃー!! おいでおいで」
ワンワンワン!!
「#name#に一番懐いているな」
「そうだね。#name#ちゃん、この家ならその犬と一緒に住めるしさ、なんなら」
「ダメだよい」
「でたよ」
「あ、もう来ちゃったんですか?」
「なっ…!?」
「ハハ、犬の方がいいみたいだね」
「…#name#!帰るよい!!」
「えー!?もうちょっと…」
「か・え・る・よ・い」
「っ!!は、はい」
そう彼女に威圧的な言葉で従わせ、別れの挨拶もそこそこに引き摺るように車に押し込んだ。
「あーぁ、また来るからね!」
「……ったく」
でもまぁ、これで彼女は以前のようにオレにべったりになるだろうと、安堵の溜め息を吐き、いつもの日常に戻るはずだったのだが…
「ただいま…だよい…ん?」
仕事から帰り、いつもは旨そうな晩飯の匂いがするはずの部屋は、何の匂いも放たず、そして彼女も居やしない。
「ったくよい…どこいったんだい」
まぁ、予想はつくよい。予想はねい。
そして予想通り、彼女はオレの実家に居た。
「#name#!いい加減にしろよい!」
そんな事だろうと思ったオレは、携帯で連絡もせずに彼女を迎えに行った。
言いたい事は山程あったが、兄弟達の手前グッと堪え連れ帰る。
帰りの車の中で、オレはお約束のように説教を始めた。
「晩飯の用意も連絡もしないで、どういうつもりだい!?」
「ぅ…ごめんなさい」
「二度とするなよい!!」
「…はぃ」
絶対反省してないと思ったが…ふっ、オレには次なる秘策があるんだよい。
「マママ、マル!ワンちゃんが…」
「どうした?」
「ワンちゃんを友人に譲ったって!ビスタ先生が!」
「へぇー、そりゃ残念だったねい」
「ふぇーん…」
「よしよし、大丈夫だ。オレが居るだろい?」
「ふっ…グス…マルー」
そうして、悪知恵を働かし、実家から犬を引き離したオレは、再び彼女との甘い生活に戻る事が出来たのだった。
「ぅぅ…ワンちゃん」
「…引きずるねい」