先生ver vol
| ナノ
#59 頑固な彼女
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今日は日曜だが、部活の引率を頼まれ学校に行かなければならない。
しかも、いつもより一時間程早く起床しなければならないとゆうオマケ付だ。
当然彼女は寝ている訳で、そんな幸せ顔ですやすやと眠る彼女を起こす気なんて更々ない。
もぞもぞと支度をすべく起き上がろうとするが、まるでオレを抱き枕のようにして眠る彼女が邪魔で、中々抜け出せずにいた。
「おい…#name#」
普段の半分程の音量で話し掛けるが、こんなもんじゃ彼女は起きない。
きっと揺すっても起きないだろう。
しかし、いつまでもこうしている訳にもいかない。
剥ぎ取るように首に絡み付いていた腕を外し、反対側に投げ捨てた。
「ふぅ…次は足だねブフォ!!」
投げ捨てた彼女の腕が、時間差を伴ってオレの顔目掛けて返ってくる。
「…てめぇ。おい!#name#!痛てぇよいっ!」
今度は怒鳴るようにそう言葉を投げ掛け、リバウンドしてきた腕を払い除けた。
勢い任せに投げつけた腕は体を反転させる勢いで戻って行き、そんな腕に引っ張られるようにして彼女はベットから転げ落ちる。
「たっ…いったーい!!」
流石にベットから落ちれば彼女も起きる。のそりと起き上がった彼女はそんな様子をベットの上で眺めるオレに一言。
「えへへ… 落ちちゃいました」
くしゃりと笑いながらそう口にする彼女に、オレはとてもじゃないが自分が落としたのだと…言えなかった。
「大丈夫かい?」
白々しく起き上がる手助けをする。
「はいっ、おかしいですね、落ちた事なんてないのになぁ」
「そ、そうかい」
少し胸が痛んだが、元はと言えば九割彼女が原因だ。そう自分に言い聞かせ、ベットから抜け出す。
「あ、部活の引率でしたっけ?朝ごはん食べますか?」
「いや、要らないよい。まだ寝てていいぞ」
「起きますよ。珈琲くらい飲みますよね?」
「あぁ、頼むよい」
痛さで完全に目が覚めた彼女は、オレの後に続きのそのそと起き上がった。
「ククッ、まだ眠いんだろい?」
「マルが行ったらまた寝ます」
そう言いながら、オレは洗面所へ、彼女は台所へとそれぞれ向かう。
#name#と暮らしだして暫く経つが、本当に彼女はよくしてくれていると思う。
洗濯物はいつもいい匂いを放ち、床は塵一つなく磨きあげ、料理もどんどん腕を上げていく。
たまに誉めれば、これでもかと言う程喜ぶその姿は、正直堪らなく可愛い。
彼女のベタ惚れ振りに甘えているオレだが、愛情の重さを計る機械があるのならば、きっとオレの方が勝っているだろう。
「マルー!見て見て!!」
リビングから響く彼女の声に、思わず頬が緩んだ。何気ない生活の中で、彼女と共に過ごせるという幸せ。
何も特別な事なんていらねぇ。#name#が居て、いつも笑っていてくれるだけでオレは最高に幸せを感じられる。
「マルー!?早く来てくださいよ!」
「今行くよい」
そう急かす彼女の元へ、幸せな気持ちの余韻のまま足を向けた。
「どうした?」
「これ…可愛いでしょ!?欲しいです!」
「……犬かい」
彼女の指すこれとは、テレビに映る犬だ。
朝から何を騒がしくしているのかと思えば…余韻が台無しだい。
正直オレは、動物を飼う輩ではない。
生き物を飼うという事は、それなりの資格がいるものだ。
「欲しいって、ダメに決まってるだろい」
「えっ!?ダメ何ですか?何で!?」
「ペットなんて飼ったら、旅行も行けなくなっちまうよい」
「その時は…預けるとかしたら」
「誰に?」
「誰…かに」
「ハッ、話しにならないねぃ。諦めろい」
「……」
そう身支度を整えながらあしらえば、項垂れた彼女が目に入る。
そんな顔してもダメだよい。こればかりは聞いてやれないねい。
「何と言おうとダメなもんはダメだ」
「……ぅ」
未だ諦めつかない彼女を一撫でし、オレは玄関に向かう。
「夕方には帰るよい」
「はい…行ってらっしゃい」
もう少し宥めてやりたかったが、時間がねぇ。
そうしてオレはいじけ眼の彼女を置いて学校へと向かったのだが…きちんと言い聞かせればよかったと後悔する事になるのだ。
「ただい……臭ぇ」
何だ!?玄関の戸を開けた途端、普段の家の匂いではない異臭に顔が歪んだ。
「#name#?いないのかい?」
いつもなら玄関まで迎えに来る彼女が顔を見せない。心配半分、リビングの戸を開ければベランダから顔を出す彼女。
「あ、お、お帰りなさい」
「あぁ、それよりなんか臭くないかい?」
「え!?臭い!?私が?」
「いや…部屋中がよい…何かこう…獣臭ぇ」
「へ、へぇ。気のせいですよ」
「…ちょっとこっちこいよい」
「な、なんでですか?」
明らかに挙動不審な彼女に、オレは不信感いっぱいだ。こいと言っても全く動く気配のない彼女の腕を引き寄せ、匂いを嗅ぐ。
「ちょっと…、マルくすぐったいです」
「臭ぇな。#name#から動物の匂いがするねい…」
「ゴクリ…」
「あん?なに生唾飲み込んでんだい?」
「ぅ…」
「隠し事はよくないねい…#name#?」
これは何かあるとふんだオレは、彼女の頬をぐにゅりと掴みこちらを向かせる。
しかし、面白いほど明後日の方向を向いている彼女の目は、何か隠していますと物語っていた。
「吐けよい」
「いひゃいれす!」
オレの仕業なのだが、笑いが出そうな顔をした彼女は未だ口を割らねぇ。
「ったく、今の内だ…あ?」
言葉の途中で僅かに聞こえた鳴き声。ベランダからか?
そんな不可解な音を確かめるべく、ベランダへと足を向ければ彼女が悲鳴を上げ出した。成る程ねい、ベランダに…
「なっ!?何だいこの不細工な犬は…」
勢いよく開けたカーテンの先には、お世辞でも可愛いと言えない、顔がへしゃげた犬がこちらを見上げていた。
「あーん見つかっちゃいました」
まるで開き直った彼女は、オレの横をすり抜け犬を抱きかかえる。
「どういう事か説明してもらおうかねい…」
「ぅ…見るだけと思ったんですが…この子が…連れて帰ってって…言ったので」
「犬が喋るかよい!返してこい!」
「む、無理ですよ!買っちゃったんですもん」
「今朝ダメだと言ったよねい?」
「言いました…ねい?」
「#name#!!ふざけんない!」
「ぁーもうこの子見てくださいよ!」
可愛すぎでしょ?とオレの目の前に晒してきたのだが…どこをどう見ても可愛くねぇ。何でこいつは顔が潰れてんだい?顔の回りだけ黒いしよぉ…汚れてるみてぇじゃねぇかい。しかも臭ぇ。
そんな怪訝な表情のオレを見て、目の前の犬は小首を傾げキョトン顔だ。
まぁ、こいつには罪はねぇ…ねぇが、
「返してこい」
「もう!見れば絶対気に入ると思ったのに!」
「気に入るか!だいたい何だいこの不細工な犬は?」
「ぇ?パグ犬ですよ」
「犬種を聞いてんじゃねぇよい」
「こんなに可愛いのに…ねぇ?」
「どうやら美的センスが違うようだねい。百歩譲っても可愛くねぇ」
「ぇー?でも…返してこいって無理ですよ」
「あ?あー、金はいいから引き取ってもらえよい」
「い、いやです!」
「……」
それから頑なにいやのオンパレードを繰り広げた彼女に盛大な溜め息を吐きながら、それでも許す訳にも行かず、今夜だけと言う約束で強引に納得させた。
「おい#name#…一緒に寝るのだけは勘弁してくれい」
「ぇー!ダメだって…ゴメンね」
「…寝る前に服着替えて、手洗ってこいよい」
「ん?何でですか?」
「臭ぇんだよい!」