先生ver vol
| ナノ
#53 彼の災難
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あの、ご褒美の間違いじゃないかとゆうお仕置きの日から、暫く経った今日。チャッチャと取ってこいと言う彼に促され、私は本日仮免許を取得した。
「やりましたよ!マルたん!!」
「あぁ、おめでとさん」
「えへへ」
試験が終わる頃を見計らって迎えに来てくれていた彼に合格の報告をし、緩みっぱなしの顔で助手席に乗り込んだ。
「あっ!あのですね、免許取得三年以上の人が隣に居れば、路上運転していいんですって!」
「へぇ、そうだったかねい」
「はい! ……」
「……」
「………」
「…ダメだよい」
「えー、お願いしますよ!」
「嫌だよい、まだ死にたくねぇ」
「死にませんよ!ね?ちょっとだけ」
「絶対嫌だい!」
「もぉーケチ!」
どうしても首を縦に振らない彼に妬ましい眼差しを送りながらも、私は次なる作戦で運転するチャンスを得ようと試みていた。
自宅に帰り、いつもの日常を送りながら、彼と共に床に就く。
「マルー…」
「ん? あぁ…」
そうして甘えた声で彼を誘い、作戦実行だ。
この作戦のポイントは、彼と繋がっている時。それも彼が絶頂を迎える少し前くらいが望ましい。
「#name#…」
「ぁっ…ぁの、マ、マル」
「っ…ん?なんだい?」
「お願い…明、日運転したいの」
「…どうしても、かい?」
「んぁ…はぃ…どうしても、です」
「……はぁ、わかった、よい」
「マルー! 大好きです!!」
「あぁ、#name#そろそろ…」
「ん…」
狙った通りの展開にニヤリと口角があがった。彼にお願い事をする時はこれが一番効果がある。
勿論、絶対ダメなものはこの作戦も通用しないが、今回はどうやら絶対ではなかった様だ。
そして翌日。
まだ寝ている彼をゆさゆさと揺さぶり目覚めを促す。
「起きて!起きてくださーい」
「んー、揺するなよい」
「もう十時ですよ!起きましょう?」
「ん…今日は日曜だろい…まだ寝る、よい」
「あー!今日は運転させてくれるって約束!忘れてませんよね!?」
「あぁ…忘れてたよい」
「なっ!嘘つきはダメですよっ!!」
「わっ!布団捲るなよい…はぁ、わかったわかった」
「やった! あ、ご飯出来てますよ。チャッチャと食べてください」
「…はぁ。はいはい」
そんなやる気のない彼を叩き起こし、運転したくて仕方がない私は彼を執拗に急かした。
「そんな急がなくても、これから先嫌って程出来るだろい」
「今!今したいんです!」
「ったく…おっと、#name#は助手席だい」
「え!?何でですか?」
「誰がこの車を運転させてやるって言った」
「? じゃぁどの車を?」
「いいから黙って着いて来いよい」
「はぁ…」
てっきり彼の車を運転させてもらえるものだと思っていた私は、彼の言葉に少々落胆的な返事を返した。
それから連れてこられた場所は彼の実家。
あぁ、家の車を運転させてくれるのかと納得した処で、ちょうど玄関から出てきたハルタさんが出迎えてくれた。
「あ!#name#ちゃん!と、マルコ」
「ハルタさん!こんにちは」
「なんだい、出掛けるのかい?」
「こんにちは。いや、洗車でもしようと思ってさ。見てよ!この間親父に買ってもらった新車!」
「へぇ…。ハルタ。ドライブ行かねぇかい?」
「ドライブ?三人で?」
「あぁ。楽しいドライブだい」
「うん、いいよ!」
「よし。#name#良かったねい、出番だよい」
「は、はい!!」
「?」
そうして、ダメだ止めてと叫び続けるハルタさんを後部座席に押しやり、私は初の路上運転を経験する事になった。
「わゎ!!前!前見てよ!」
「見てますょ…」
「うわっ!ブレーキもっと早く踏まなきゃ!」
「分かってます…」
「左右確認しっかりね!」
「してますよ!ハルタさんちょっと煩いです!」
「なっ!酷いよ#name#ちゃん…」
「そうだよい、#name#の気が散るよい」
「マルコ!これ新車なんだからね!だいたい何で自分の車を使わないんだよ!!」
「当たり前だい、オレのもこの間買ったばかりだからねぃ」
「なっ!!ふざけないでよね!!」
隣と後ろで繰り広げられる雑音。正直気になって運転に集中出来ない。
しかしマル…。死にたくないなんて言いながら、本心は車が大事だったのか。
「ちょっと煩いですよ!手元が狂いそうです」
「はっ!狂わないでよ!」
「ククッ、#name#、あそこのコンビニ入れよい」
「え?コンビニ…はい!」
そうして彼の指示のもと、コンビニに入りバックで駐車するとゆう試練に挑戦する。
「あれ?斜めになりますね」
「ハンドル切るのが早いんだよい」
「こうですか?」
「んー、違うねい」
「わっ、危なーい」
「#name#ちゃん!僕代わるよ!」
「ダメだよい、大丈夫だから大人しく見とけよい」
「もう!マルコ!ぶつけたりしたら毛むしり取るからね!」
「えっ!?ダメですよハルタさん!禿げちゃうじゃないですか!」
「#name#…オレは禿げてねぇ」
「えっ?あ、わ、分かってますよ」
「何で今驚いた?あ?」
「ねぇ…」
「驚きました?気のせいですよ」
「今度"禿げちゃう"なんて言ってみろい、只じゃ済まないよい」
「ねぇって…」
「こわっ!あ、もしかして気にしてるんですか?大丈夫ですよ!まだ」
「ちょっと…」
「まだって何だい!?」
「きゃ!痛い!わっ!!」
「あっ!!!後ろ!!」
ゴンッ!!!
駐車中に彼との口論を繰り広げていた処、頭を叩かれたと同時に足に力が入り後ろの壁に激突してしまった私。
「……あーぁ」
「あーぁ…」
「二人してあーぁじゃないよ!!酷いよマルコ!!」
「ごめんなさい…」
「#name#ちゃんは悪くないよ!悪いのは全ー部マルコだから!」
「おぃ…それはな」
「黙れよマルコ…覚悟は出来てるんだろうね…」
「…ぅ」
それから彼の実家に戻り、未だ怒りが治まらないハルタさんに、引き摺られる様に連れていかれた彼を心配しながらも、大丈夫だと言うお兄様方とお茶をしながら彼を待つ事数分。
暫くして戻ってきた彼とハルタさんは見事に対照的な表情をしており、何があったのかは…恐ろしくてとても聞く気が起きなかった。
「ハルタさん、本当にごめんなさい」
「ん?いいって、悪いのは全部、マ・ル・コなんだからね」
「いぇ、私が悪いんですよ」
「いいの、いいの。ね?マルコ」
「…あぁ」
「マル…ごめんなさい」
「済んだ事だい、帰るよい」
「はい…」
そんな浮かない顔の彼との帰り道。
「もう免許とるまでは我が儘言うの止めますね…」
「ん、あぁそうしてくれよい」
「はい…すみませんでした」
「#name#…あのよい」
「はい」
「………」
「はい?」
「来週から暫く実家に住むよい」
「はい!?な、何でですか?」
「ハルタとの約束なんだい…」
「は、はぁ…」
至極言いにくそうに、そして極上に嫌そうにそう告げてきた彼を見ながら、ハルタさんの意図を考えてみたがさっぱり判らず、私はただ頷くしかなかったのだった。