先生ver vol
| ナノ
#50 押しに弱い彼
![](//static.nanos.jp/upload/j/jyuira/mtr/0/0/20110915235847.gif)
『マルコ先生、ありがとうございました』
『あぁ。気つけて帰れよい』
『はい!!』
私はいつもの様に、放課後彼のもとへ足を向けたのだが…
そこで私は、彼の部屋から出てくる恋する乙女を目撃してしまったのだ。
「マル…」
「ん?おぅ。」
「おぅ。じゃないですよ!何ですか!?今の子は!?」
「は?あぁ、オレの担当してる生徒だよい」
「…彼女の顔に、ハートが乱舞してましたけど?」
「へぇ。そうかい」
「何してたんですか?密室で…」
「何って…相談に乗ってただけだよい」
「相談…目をハートにさせて…何の相談してたんですか?」
「はぁ。#name#が疑うような事はなんもねぇよい」
「でも!…心配です」
「なんもねぇよい。生徒だろい」
「…私も生徒ですが?」
「あぁ…そうだったねい」
「……先に帰ります」
「あ?あぁ、今日の晩飯は和食がいいねい」
「では洋食で。さようならマルコ先生」
「おぃ……なんだよい」
私の勝手な思考だが、彼のあの部屋は私にとって自宅と同じくらい神聖な場所だ。
勿論、理不尽な思考なのはわかっているが、それでも女生徒と二人きりで過ごされるのは頂けない。
しかもあの子の目。
あれは間違いなく恋する乙女の眼差しだ。
それから当て付けの様にコッテリと洋風料理を作り、彼の帰りを待つ。
しかし私も鬼ではない。スープはお味噌汁にしてあげた。
「…お帰りなさい」
「あぁ、ただいま」
「………」
「………なんだい?」
着替えを手伝いながら、私は無言で彼を凝視する。
「いいぇ」
「ククッ。いっちょ前に嫉妬かい?」
「っ! いっちょ前って!」
「なんもねぇって言ってんだろい?」
そうケタケタと可笑しそうに笑いながら、彼は頭を一撫でし部屋を出ていった。
いっちょ前…何か腹の立つ言い方だ。
それに嫉妬は唯一私に与えられた特権の様なものじゃないのか?
それに彼だって、嫉妬と伺える行為は何度もしているというのに。
そんなやるせない気持ちのまま彼の後を追いリビングに向かうと、キッチンに立ち、不思議顔でお鍋を覗き込んでいる彼。
「#name#…何でビーフシチューなんだい?」
「今日は洋食が食べたいって、言ったじゃないですか」
「オレは和食が食べたいって言ったんだかねい」
「へぇ。聞き間違えました。あ、でもお味噌汁」
お味噌汁は和食ですよと、きっと、本気で洋食が出てくるとは思っていなかったのだろう彼は、酷く残念顔だ。
「…まぁいいよい。それじゃ"要望"の洋食を頂こうかねい」
「…はい。すぐに用意しますね、"要望"の洋食を」
「……」
売り言葉に買い言葉。
私も負けじと彼の皮肉に立ち向かった。
この位しか彼を困らせる手段が思い付かない。
「まだ疑ってるのかい?」
「疑ってなんかいませんよ。いっちょ前に嫉妬してるんです」
「…ったく。何があるっていうんだい?」
「それは…。ほら、相談ついでに抱き着かれたりとか…迫られたりとか…」
「ハハッ。ねぇよい」
「マルは無くてもあの子からしてきそう…で、心配なんです」
「させなきゃいいんだろい?それに、あり得ないよい」
「…でも、あの子の目は恋する乙女でしたもん」
「オレが相手にしなきゃいい事だろい」
「マルは…押しに弱いから」
「…弱くねぇよい」
「だって実証済みですよ!?」
「#name#は特別だろい?はい。もうお仕舞いだよい」
「もう!まだおわ」
「お仕舞いだ」
そんな感じでこの話しに終止符を打たれた私は、未だに納得出来ずにいたが、彼がそこまで言うのならと渋々頷いたのだった。
それから数日後。
『マルコ先生!!いつもありがとうございます』
『あぁ、両親とも仲良くやれよい』
『はい。あのこれ…』
『ん?』
『いつでも連絡してください!』
『あ、いや…』
『よかったら今度ご飯でも誘ってください!』
『ぇ?いや…』
『それじゃ、失礼します!』
そんなやり取りを、廊下の陰からしっかりと目撃していた私は、
「はい!没収です」
「うぉ!いきなり現れるんじゃねぇよい…」
「アドレスですか…フフ、最後のハートマークがいわせてますね」
「…捨てていいよい」
「当たり前です!」
「怖ぇよい」
ほら。押しに弱い。弱すぎる。アドレスなんて余裕で受け取って…まさか私にバレていなかったら掛けてたかもしれない。
「掛けてたでしょ?私に見つからなかったら」
「掛けねぇよい」
「だって嬉しそうでしたよ。アドレスもらった時」
「んな訳あるかい」
「ロリコン…」
「あ?何か言ったかい?」
「…いえ。今日の夕食のご要望は?」
「ん?あー、そうだねい、中華なんていいねい」
「分かりました。イタリアンですね」
「おぃ…」
それから押しに弱い彼が心配で仕方がない私は、唯一の仕返しにと、事ある度に天の邪鬼なメニューをだす事になったのだった。
「これはいつまで続くんだい?」
「…押しに強くなったら、です」
「だから弱くねぇよい」
「いえ。半端なく弱いですよ」
2011/08/08