先生ver vol
| ナノ
#49 未来は計画的に
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マルコside
あの日、親父の顔見と現状報告を兼ねて家に帰った。
離れて暮らしていると日々の何気ない話でも、酒のつまみになるもんだ。
「で、彼女とは上手くいってんのか?」
「あぁ、何とかねい」
「そうかぁ。ああ、そう言えばあの約束は守れそうかぁ?」
「…?あぁ、あれかい。彼女の成績なら余裕だよい」
「グララ。どうせなら、トップで入学なんてしてみろ、オレは鼻が高いぜ」
「ト…ップでかい?」
「まぁ冗談だ。それじゃぁ、勉強ばっかで二人の時間が無くなっちまうだろ」
「親父の…鼻が高くなる…やるよい!」
「無理すんなぁ。それにやるって言うが、マルコがやる訳じゃねぇんだぞ。止めとけ」
「いいや!オレはやるよい!!」
そんな、親父の鼻が高くなるとゆう理由だけで、オレは彼女に勉強をさせている。事は口が避けても言えねぇが…
だがこれも親孝行だい。
親父の喜ぶ顔が見たいじゃねぇか。
それに、#name#の株も上がる。一石二鳥だよい。
だが、そう事が上手く行く筈もなく、案の定彼女が愚痴りだす。
"結婚がかかっている"これが一番彼女に効く言葉だと知っているオレは、そんな卑怯なやり方でさえ惜しみ無く使わせてもらう。
それでも弱音を吐く彼女に、もう一度交渉してみるなどと、希望を見せつつやる気を煽る。
勿論、交渉なんかしてねぇ。
だが、何だかんだと文句を言いながらもいつもオレの言う通りに頷き、そして着実に右肩上がりになる成績に、オレは、彼女に最大限の感謝と、そして更に愛情が増すのを感じていた。
そんな生活を続けて暫く経った頃、彼女に変化が訪れた。
「#name#…朝だよい」
「ん…ン―」
「?どこか具合でも悪いのかい?」
「…眠…たい…です」
「…。少し…顔色も悪いねい」
いつもオレより先に起きている彼女が、今日に限って起きやしない。
余程疲れが溜まっているのだろう。顔色も微妙に悪い。
「今日学校休め。ゆっくり寝とけよい」
「…いいんですか?」
「あぁ。ビスタにはオレから伝えておくよい」
「マル…ありがとう」
「おぉ」
そうして、学校の授業なんて一日休んだ処で問題ないだろうと考えたオレは、今日一日、彼女をゆっくり休ませてやろうと思ったのだ。
だが、次の日も、その次の日も、彼女は眠気に加え体もダルイと体調の不良まで訴えてきた。
学校には行っていたものの、チラリと教室を覗けば、授業はほとんど寝ている始末。
オマケに、オレの授業中に寝た事などない#name#が、余程眠いのか、こくりこくりと船を漕いでいる。
そんな今にも寝てしまいそうな彼女を目で捉えながら、勿論心配もしているが、それ以上にオレは握っているペンが顔に刺さりそうでハラハラしていた。
そして、そんな彼女は今日もとても眠そうにソファーで項垂れていた。
「#name#…まだ眠たいのかい?」
「ぅ…すみません。ご飯、用意しますね」
「ああ、いや、寝ておけよい。出前でもとるかねい」
「っ…すみません」
「そんなに寝ても寝ても眠いのかい?」
「はい…あと体もダルくて」
「眠くて…体もダルイ…食欲は?」
「ぇ?…あんまり」
「……#name#、最後にきた…生理はいつだい?」
「え?生理?…ぇっと、いつだろ?」
オレは、連日の体調不良の原因にある仮説が頭を過った。
まさか…まさかな。
いや、可能性はゼロじゃねぇ。現に、勉強の合間に彼女とは何度も体を重ねている。
そんな仮説に白黒を付ける為に、オレは急いで薬局へと足を向けた。
今の時間では病院など開いていないからだ。
そこで手に入れた四角い箱を握り締め、オレは若干の焦りと不安を抱え彼女の前にしゃがみ込み、真剣な眼差しでこう告げる。
「いいかい#name#?ここにしょんべん掛けてこい」
「はい?なんですかもう!いきなり出ていったと思ったら…しょん…!?」
「ほら、早くしろよい」
「そんないきなり出ませんよ!わゎっ」
「絞り出せ!!ほら、トイレ行ってこい」
「ちょっと…」
ぶつぶつと不満を訴える彼女を無理矢理トイレに押し込み、オレは説明書にくまなく目を通す。
「…………成る程。一分後に、ここに線がでなければできてない訳だねい」
そうだ。オレの頭を過った仮説。それは妊娠しているんではないかという不安。
婚約者が妊娠。何の問題も無いじゃないかと思うだろうが、彼女はまだ学生だ。
ガキができたら行動に制限ができちまう。
それにだ。オレはまだまだ彼女と二人きりの生活を楽しみたい。
勿論、できていればキチンと#name#とガキの面倒は看るよい。
いずれは欲しいが、まだ時期じゃねぇ…
それにしても遅いねい…
水でも飲ますか…
そんなオレの痺れが切れる間際、やっと彼女が登場した。
「出たかい!?貸してみろい」
「もう…はい。これって妊娠検査するやつですよね?」
「あぁ…」
「私…妊娠してるんですか!?」
「それを今から確かめるんだよい」
「あぁ…成る程」
そうして彼女と二人。
食い入る様に見つめる事…
「何分経った?」
「ん?ぇっと…五分は余裕で経ってますね」
「五分…」
説明書には一分後と書いてあった。
五分も経って出てこないとゆう事は…
「はぁ…違ったみたいだねい」
「できてないって事ですか?」
「あぁ。みたいだねい」
「そっか…」
ホッとしたオレとは裏腹に、彼女は少し残念そうな表情をした。
「#name#。ガキはよい、いずれは欲しいが…その、計画的に…な。」
「っ!!はい!!」
オレの言葉に、一気に顔が綻んだ彼女を抱き締めながら、では、彼女の体調不良は何が原因なんだと、再び頭を抱えたが、何にしろ、このトップ入学は無理をさせてしまうと判断したオレは、
「もう勉強はいいよい」
「え…でも親父様が…」
「あぁ、大丈夫だい。#name#の体の方が心配だよい」
「マル…」
そうしてオレの意地で始まった、この過酷な勉強漬けの日々は幕を閉じたのだった。
「#name#…いきなり元気いっぱいだねぃ」
「はい!何か心がすっごく軽くって」
「精神的…にきてたって事かい?」
「ん?かもしれませんね!」
「…そ、そうかい」
2011/08/07