マルコ先生ver
| ナノ
#31 二度目の誓い
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相変わらず彼を忘れられないまま時を過ごしていた。
変わったと言えば、ローと過ごす時が多くなったくらいだ。
ナミからは付き合っているんでしょと疑われる程、一緒に居る事が増えた気がする。
かと言って、ローの事を好きになった訳じゃない。
以前は変態としか思っていなかったのが友達になったくらいだ。
好意を寄せてくれてるのは、正直嬉しい。
だが、未だに私の心の中にはマルコ先生が根強く棲み付いていて、ローが入り込む隙がないと言う感じだ。
マルコ先生はと言うと、彼もまた相変わらずで、時折授業中に目が合う程度だ。
勿論、二人きりになったり、会話を交わす事はない。
そして私は今、来週のテストに向けて図書室で資料を探していた。
お目当ての資料を見つけ、そのまま勉強を始める。
土曜の昼下がり、大分肌寒くなってきたが、入り込む日差しは温かく同時に眠気を誘ってくる。
周りには誰もいない。
少しだけ寝てしまおうと、私は机に突っ伏した。
暫くして目が覚めた私は、肩に掛かる重みに気付く。
「・・・・・これ」
それは、忘れもしない彼の匂いを纏ったジャケット。
私が寝ている間に彼が掛けてくれたのか・・・
寝ていたとはいえ、こんな近くに彼が居たと思うと、何だか切ない気持ちに覆われる。
罪な優しさだ。
だってこれ・・・どうすればいいのだろう・・・
まだ学校にいるだろうか?
土曜日は比較的早く帰っていた様な気がする。
彼の部屋へと辿り着いた私は久々の接触に嫌な汗が出る程緊張していた。
「どうしよう・・・」
そう声に出してしまった処で、内側から扉が開く。
「起きたのかい?入れよい」
「・・・・・・ぃぇ。これ、ありがとうございました」
そう吐き捨てて帰るつもりだった。
否、帰りたかった。
「珈琲でも飲んでいけよい」
そう言って腕を掴まれ部屋へと招き入れられる。
久し振りに触れられた腕に、体がビクリと反応した。
あぁ、彼の体温だと。
幸い、涙が出てこなくてホッとした。
泣いてばかりじゃマルコ先生も困るだろう。
「私・・・帰ります」
「#name#・・・久し振りだねい、こうやって話すのはよい」
「・・・・・・」
「あー、元気かい?」
「・・・・・・・・・」
彼は一体何が言いたいのだろう。
元気?そんなの見れば分かるじゃないか。
必死で言葉を探しているのが伝わってきて、こっちまで辛くなる。
「・・・・・・」
私は彼の問い掛けに、何て答えればいいのか分からずにただ俯いていた。
「・・・あー、#name#?聞いてるのかい?」
「・・・・・」
その問い掛けには頷きを返した。勿論無言で。
「・・・・・・・」
余りにも無言な私についに彼まで無言になる。
何とも言えない空気が漂う中、再び彼が口を開いた。
「まだ・・・大嫌いかい?」
「っ・・・・」
でた。悪戯な彼の言いそうな事だ。
一体全体、何と答えれば彼は満足するのだろう。
でも、答えられない。
大嫌い?大好きに決まっているじゃないか。
しかし大好きだなんて言えない。
否、言ってはいけないんだ。
「#name#…」
あぁ、彼が困っている。
困るくらいなら引き留めなければ良かったのに。
本当にバカな人だ。
「私…用事があるので…失礼します」
この場を去るのが得策だ。このまま居てもお互い気まずい。
「っ…そ、そうかい」
何でマルコ先生がそんな悲しそうな声色を出すのか訳が分からず、俯いていた顔を彼に向けた。
「っ…」
そこに見たのは、とても切なそうな彼の顔。
見ているこちらまで切なくなる。
「なっ…何で…」
何でそんな顔をするのか。聞きたかったが、寸前で言葉を飲み込んだ。
聞いた所で私の望む言葉なんて出てこないだろう。
寧ろ、更に傷を抉られそうだ。
「何で…の後は何だい?」
視線がかち合っている今の状態で話の先を促してくる彼に、私は必死で涙を止める為に爪が食い込む程拳を強く握った。
言いたくないから。否、言えないから言葉を飲み込んだのだ。
それくらい彼にも分かる筈なのに。
それなのに…どうして彼はこんなに意地悪なのだろう。
もうダメだ。
私は涙が溢れ落ちる寸前で、無言のまま部屋を飛び出した。
扉が閉まる瞬間、彼が私を呼ぶ声がしたが涙を見せる訳にはいかない。
彼の部屋を飛び出し、辿り着いた壁に背中を預ける。
「はぁ……」
溜め息と共に、溜まっていた涙だけ流し気持ちを落ち着かせた。
あんな顔のマルコ先生は初めて見た。
思わず抱き着きたくなってしまいそうで、自分が少し怖かった。
ほんと、狡い大人だ。
今日の事も不可抗力とはいえ、もう彼とは二度と二人きりにはなりたくないと、心から願った。
でないとあの日からこんなに辛い想いをした日々を無駄にしてしまいそうで…それだけは、絶対に避けたいと再び自分に誓いを立てるのだった。
さよならと言った言葉に後悔なんかしない。
彼にはもう纏わり付かない。
この想いが消えるまで、密かに彼を想うと。
そうして私は、しっかりとした足取りで校門へと足を向けた。